青空駐車場の上部空間活用ビジネス
「駐車場の空中に浮かぶ店舗、オフィス」というキャッチフレーズで、都市のコインパーキングや青空駐車場の上部空間を有効活用したビジネスが登場した。駐車場の上部空間にアルミ材とガラスで2層(屋上は緑化可能)までの仮設の小型構造物を組み立てて設置し、起業家や中小企業向けに店舗、オフィス、スタジオとして貸し出すもので、写真で見ると駐車場の上部にあたかも立方体の船が浮かんだように斬新でシャープな造形が創出されている。
都市にあって、狭小、不整形であるため建築が困難な土地や有効活用の建築物が建てられるまでの暫定的利用が多い青空駐車場などの上部空間は、完全なデッドスペースでしかなかったのだが、この遊休空間部分を有効活用をし、賃貸床に顕在化して不動産の収益性を高めようという発想をしたのは、不動産・建築企画の「フィル・カンパニー」というベンチャー企業である。
「フィル・カンパニー」は、アルミ製住宅および建築用アルミ構造材の設計開発、製造、販売会社であるSUS(株)から建設資材の提供を受けて、エリアのポテンシャルは高く賃貸需要はあるが、当該土地の個別要因としては、有効活用が困難な狭小・不整形地にアルミフレーム構造材を用いて空間を構築し、店舗やオフィスとして空間利用していく事業「フィル・パーク」を開始した。
例えば駐車場オーナーは、駐車場としての機能を維持しつつ駐車場収入を確保し、さらに文字通り駐車場上部にオンされた仮設構造物からの賃料収入が加算され、借主も大都市にオフィスや店舗を借りると相当の出費になるが、リーズナブルなコストで出店やビジネス拠点が確保できるという双方のメリットがある。
アルミフレームとガラスでシンプルに構成されたデザイン性や話題性の高さからアパレル、流通関連企業からの問い合わせが多いというこの構造物だが、建設資材の提供をしているSUSは、1992年創業の半導体や液晶パネル製造装置向けが主体のFA機器専業メーカーで、もともとの本業は建設や不動産とは無縁の会社であった。
アルミの建物はコストが他の構造に比べ割高なため公共施設などで一部使われる以外は殆ど使われることがなかった。しかし熱効率がよく、軽量という素材の特性があり、また重機なしでも狭い駐車場の形状に合わせて1mm単位の高精度加工を施し、短期間で組み立てができるという優れものなのだ。さらに高耐久性で解体が簡単、再利用できるのでライフサイクルコストでみるとコストダウン可能で事業家メリットが大きい。
SUSは、FA機器の製造で培ったアルミの加工や組み立ての技術蓄積があったので、このようなアルミ建築物の特性に着目し、02年の建築基準法改正でアルミ建築物の規制が緩和されたこともあってアルミ建築事業に本格参入した。05年6月にアルミとガラスからなる組み立て式の構造物「tsubomi(つぼみ)」を1棟約200万円で発売した。そして資材提供を受けた「フィル・カンパニー」が 東京の八重洲口にある八重洲ブックセンター裏の屋外駐車場上部に同社のショールームを兼ねて竣工したのが、ほかならぬ「tsubomi(つぼみ)」である。
同社が空間の一部を使用する空中権をオーナーから借上げてサブリースして転貸する事業方式のようだが、建築費、解体費のオーナー負担はない。借地借家法の適用がない一時使用賃貸借であるため、解体撤去、立ち退きに問題が発生せず、駐車場と一体となり合体連動した期間限定の土地活用が可能になる。
リユースが可能なアルミ建築資材の特性を生かしてコストダウンし、テナントの入居時の一時金も保証金を1ヶ月とし、賃料も低めに設定していたが、日経産業紙によると「PR効果や機能性からみて安すぎると交渉相手から言われたため保証料を3ヶ月分に引き上げ、場所によってはビル並みの家賃を請求する方針に転換した。」となった。
このビジネスモデルが普及すると都市の風景もかなり変わることになる。都市の隙間や未利用空間がアルミとガラスのコンテナで過密に埋め尽くされていくのは都市景観として支持されるかな?という気もするが、ソリッドでシャープな空間、取り外しや再使用の容易さがこれからの循環型社会にマッチして案外、市民権を得るかもしれない。
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