商業店舗投資の最新動向
国内の景気も回復基調で個人消費も伸びてくるだろうという期待からこれまでハイリスクとされてきた商業店舗をターゲットとした不動産投資や事業支援ビジネスが注目されている。その手法も不動産再生から企業そのものの再生、不動産証券化を利用したニッチなビジネスモデルまで多岐にわたっているのが最近の商業店舗関連ビジネスモデルの特徴だ。
■銀行等閉鎖店舗の改装・テナント斡旋
大和ハウス工業は小売業や金融機関などが閉鎖する店舗を改装し、店舗のオーナーに入居者を斡旋するビジネスモデルを進めている。対象としている案件は、駅前のテナントビルや幹線道路沿いの単独立地の路面店や住宅地の食品スーパーなど形態を問わない。テナント企業にとっても新規に物件を取得する場合に比べ中古物件のコンバージョン、リノベーション版は工期も短く、出店費用も抑制できるためメリットが大きい。
金融再編などで金融機関の店舗は閉鎖されるとこが地方で増加しているが、岐阜市では地方銀行が支店に使っていた築30年の建物を大和ハウス工業が予備校の校舎にコンバージョンした。新築に比べ工費が30~40%削減され、工期も半分ですんだ。大和ハウスは改装前、建物構造や損傷状況、有害物質の使用有無など建物調査を実施し、改装が違法建築に該当する可能性がないかをチェックし、入居企業の斡旋も長年培った流通店舗事業の取引先、金融機関の情報などを活用し、立地と業種別の出店状況といった商圏調査を行っている。
■撤退・閉鎖スーパーなど商業店舗のバリューアップファンド
最近、中心市街地から撤退するスーパーなどの閉鎖が増えているが、このような撤退に拍車をかけているのが減損会計の導入である。固定資産の含み損計上を義務付ける減損会計は2月期決算が多い小売業の場合、07年2月期に強制適用される。このためスーパーなど各社はこれを前倒し不採算店処理を急いでいるが、各社が閉鎖する店舗には共通点があるという。
スーパーでいえば築20~30年で郊外に商業集積が移行した旧市街地や駅前商業地で品揃えがミニ百貨店並みに衣料品や日用品を幅広く揃えた特徴がない店だ。このような店舗は撤退・閉鎖後もテナントがなかなかつかず、遊休化してしまうケースが多い。反面、人口の都心回帰や高齢化を視野に入れた都市部向け小型スーパーの開発、出店も進んでいる。徒歩商圏で24時間営業などの利便性を高め、郊外店が取りこぼしていた顧客の取り込みを狙っているのだが、例えばイオンは都市部向けの直営小型スーパーの出店に乗り出した。生鮮食品などスーパーの強みを生かした小商圏型の実験店で採算などを検証したうえ今夏頃から本格展開する予定だ。
小売業も業態変化、商品構成、出店戦略の見直しに迫られ、今後、都市中心部のスーパーは新陳代謝と店舗形態の変化が劇的に進むと見られているが、撤退・閉鎖店舗のなかには改装などを施せば、店舗として再デビュー可能な物件もある。このような都心型商業施設の改装、建て替えなどバリューアップ手法を駆使して投資効果を向上させようというハイリスク・ハイリターン型の不動産ファンドが登場した。
野村不動産の不動産投資ファンド「JOFⅠ-Ⅱ」がそれで、企業再生会社や再生企業にも企業出資で投資しようというもので、機関投資家や年金基金から100億円をすでに集め、資産規模500億円を目標にしている。オフィスビルや住居系収益物件をターゲットとした不動産ファンドやJ-REITが物件取得難や利回りの低下に悩むなか、比較的物件獲得競争が少なく、ハイリターンを狙える商業施設への投資を展開し、バリューアップ後、出口での売却でキャピタルゲインも狙い、高い内部収益率(IRR)を確保することを目標にしている。
■分譲マンション1階店舗の区分所有ファンド
商業施設でも都心の大型商業施設でなく、ニッチな分野に特化した不動産投資も出現した。分譲マンションの1階の店舗の区分所有権を集めテナントに食品スーパーを想定したプライベートファンドである。
丸紅と東京建物が中小型の商業施設に運用対象を絞った私募型の不動産投資ファンドを共同で設立した。主なターゲットは分譲マンションの一階に入居する食品スーパー。ファンドに組み込むには資産規模が小さいと敬遠されていた物件をあえて集める。ニッチな投資市場の育成は物件開発業者、店舗運営業者、そして投資家の悩みを和らげる問題解決策になりうる。(日経産業新聞)
分譲マンションの住居部分は、居住者に区分所有権を分譲、販売しているが、1階の店舗部分は事業主のマンション業者が継続して保有していたり、管理会社が買い取ってテナントに賃貸していたり、入居店舗が買い取っていたりと保有形態が一定していない。開発業者が保有して賃貸しているケースでは当該部分の資金回収が長期化するし、賃貸に伴う運営管理やマネジメントに時間と人員や委託コストをさかなければならない。この辺の事情を背景に不動産ファンドが店舗部分の区分所有を取得しファンドを組成することでビジネスチャンスを広げる投資モデルになっている。
このような案件は、J-REITが取得するには物件のロットが小さく、個人の富裕層が投資するには5億円を超えるので投資ロットが大きすぎるというまさに「帯に短しタスキに長し」状態だったが、そこにファンドが着目した。新ファンドは多数の物件を集めることでスケールメリットが働くとし、資産規模を100~120億円にする予定だ。テナント企業も物件を購入せず賃借することで資金投下を抑制し、経営効率を向上させることができるため、それなりのニーズはある。しかしながら店舗の場合、テナント付けや空室リスクが高く、ハイリスクのみがこれまでは強く認識されてきたのだが、最近の景気回復で、個人消費も伸び、業界の不況感が薄らいできたことが、商業施設をターゲットとするこの種の投資を後押ししていると思われる。
■コンビ二の不動産ファンドによる店舗展開
コンビ二や飲食関係も新たな店舗展開に不動産投資ファンドを活用し始めた。コンビ二のローソンは地価下落による減損処理リスクや土地取得コストを抑制するためローソンの店舗用の土地・建物に投資し、ローソンが店舗の売上高に応じて払う賃料を原資として収益をファンドの投資家に分配するファンドを立ち上げた。期間10年、資産規模約50億円、利回りは上場リートの一般水準を超えることを目指す。
ファンドはまず、ローソンの既存店を取得。その後、新規開業店を対象にし、最終的には様々な地域にまたがる20~40店に分散投資する。ローソンは今後、毎年50億~100億規模で同様のファンドを設立し、将来はREITとしての上場も検討する。(日本経済新聞)
今後、ローソンの店舗展開を不動産ファンドに傾斜させていく方針だが、ローソンがファンドに支払う賃料は店舗の売上高に連動しているため、優良店をいかに多く組み込めるかがファンドの成否の行方を左右する。
■飲食店舗の投資ファンド&再生・開業支援
難アセットの飲食店に投資するファンドも登場した。店舗の開設費用をファンドが提供し、店の売り上げの一定率を利回りとして投資家に配当するというものだ。日経新聞によると音楽ファン組成運用のミュージックセキュリティーズ(MS)と外食支援のケーズカラナリープランニング(KCP)は共同で飲食店に投資するファンドを組成した。投資先はKCPが新しく開業、運営する店で、開設費用をファンドが提供し、売り上げの11~16%程度を利回りとして配当するというもの。運用期間5年、投資単位一口50万円、年内に鉄板焼きや鶏料理店などの出店を計画している。飲食店ファンドは、事業証券化(WBS=Whole Business Securritization)という手法で行っていると思われるが、売り上げ収入が把握しやすく、キャッシュフローが安定していることがファンド組成の要件であり、事業運営ノウハウが配当やファンド運営の成否を左右するため、高いオペレーション能力がファンドサイドに求められる。
外食産業総合調査研究センターの調べでは外食市場全体の規模は03年まで6年連続で縮小している。業態変化や閉鎖を迫られる飲食店が増え、業界全体が厳しい経営環境になっており、安易な開業では行き詰るため、飲食店の開業や再生を支援するビジネスモデルも相次でいる。
焼肉店のチェーンを展開するレインズインターナショナルは廃業飲食店の設備を買い取り、家主と新たな賃貸借契約を結び、店内の厨房、内装を改装し、開業希望者に貸し出す。店舗使用料として売上高の5~7%を毎月受け取る。退店業者は閉鎖店舗の設備を50~500万程度で売却でき、新たな開店希望者はこれを活用することで出店コストを抑制できる。閉鎖店舗の既存設備をリニューアルし、新たな開業用店舗ストックを確保していくことで開業予備軍を組織化して、自店舗のチェーン化も加速させ、自店舗を含めた開業者から店舗使用料としてリニューアルコストを回収するというこのビジネスモデルは事業サイクルのスムース化を勧めることでリスクを分散しているが、近年の不動産や事業再生の流れを象徴したビジネスモデルの一端といえる。
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