事務所ビルから医療ビルへコンバージョン
競争力がない事務所ビルは、空室が目立ち、最近、このようなオフィスビルに個人を対象とするサービス業(健康・福祉サービス、フイットネスクラブ、リラクゼーション、形成外科、エステ、英会話学校など)の入居が目立ち、このような業種が流出・空洞化が進むオフィスビルの賃料低下の恩恵を受けている形であるが、事務所ビルをコンバージョンによりホテルや医療ビルへ丸ごと用途転換し、付加価値を高めるケースもバリューアップ型不動産ファンドにより達成されるケースが見られるようになった。
三井不動産が運用する「三井ジェムストーンファンドⅠ」は、東京・新宿の事務所ビルを、各種医療サポート機能を有した医療用途のメディカルビル「四谷メディカルビル」にコンバージョンした。このような医療ビルと呼ばれる形態は、開業医にとって複数のクリニックが集まって診療を行うため、単独開業に比べスケールメリットや集積メリットを背景に人目を引きやすく、モール内の他の診療所を受療する患者の目にも触れるため、患者吸引力が増し、経営面での相乗効果が期待できる。また、診療時間の相互連携や共同スペースの利用などのメリットも期待できる。
一方、診療ネットワークへの転換により病院と診療所が地域医療の中で連携し、機能分化していく方向性が厚生労働省から出されているように患者サイドからみても大病院を補完する形で身近で安心便利なプライマリケア医(地域かかりつけ医)による専門医療サービスへのニーズが高まっている。
「四谷メディカルモール」では、このような時代変化を背景に医師と患者のニーズをマッチングさせるため開設された。四谷三丁目という交通利便性の高い立地やビル周辺に慶應義塾大学病院や東京女子医大病院など医療施設が集積していることから、病院や医療関連企業が入居する医療ビルへの用途転換を決めた。
建築中のビルを設計変更し、1階に調剤薬局、画像診断センター、臨床検査ラボを、2階は14区画に各診療科目の病院が入居し、3階から6階には臨床試験支援の東京臨床薬理研究所が入居。7階から11階は賃貸マンションとした。
医療サービス関連テナントとの連携により専門医療の支援機能を充実し、電子カルテや医療ITシステムを導入。高度な専門性を有する各クリニックが相互連携を図ることにより、受診する患者に満足度が高い診察環境の提供の実現を目指し、モール形式のクリニックであるため、開業医師にとって開業資金やランニングコストの抑制を実現している。
医師が単独でビルを開業場所として選択するケースでは、当該ビルは通常、オフィス仕様となっており、病院開設の必要なハード空間としてX線設置に必要な天井高、MR導入時の床の構造強度や電気容量などが十分でないケースも見られるが、「四谷メディカルビル」へのコンバージョンにおいては、医療施設向けに給排水設備を増設し、電気容量を増加し、専門施設のハード環境にバリューアップした。日経産業紙によるとコンバージョン費用を約5億円要した。
医療ビルへのコンバージョンでは、入居し、連携する病院相互の意見調整や、共有部分の使用などに伴う調整が十分になされていなければ入居後、さまざまなトラブルを生むため、設計計画段階からコーディネーター的な役割を負担する医療専門のコンサルタントの介在が必要と思われる。さらに政府による医療制度改革が進められ医療機関の経営は今後、一層厳しさを増すため、経営的に成り立つ患者数を確保できるかなどの説得力がある診療圏調査がなされてないと入居医師の誘致が難しい。いずれにせよこのようなバリューアップ型の投資不動産の運用者にハードからソフトにいたる専門性が高いノウハウが求められる。
話は変わるが、米国で定着したヘルスケアREITが今後、日本でも普及すると予測されており、医療施設方面の需要拡大が期待されているが、日経産業新聞によると東京建物は医療、介護施設のコンサル会社日本メデイカル・パートナーズと提携し、病院などの資産査定業務へ参入した。銀行のほか医療・介護施設を対象にした不動産投資ファンドなどをターゲットとしたビジネスモデルで、病院再生などで実績を持つ日本メディカル・パートナーズが経営分析を行い事業収支キャッシュフローを作成することで東京建物は、収益還元法による資産査定をこれまでの原価法に加えることが可能となり、精度が高いデューディリジェンスが実施できるようになる。
不動産ファンドやREITの扱う案件は年々、多様化している。医療ビルなどの開発・コンバージョン、医療施設の組成、これらをターゲットとするデューディリジェンス専門機関の整備、参入など不動産投資環境はこれまでの難アセットを取り込み、多角化し高度化しているといえよう。
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