子育て支援賃貸住宅
アパート、マンションの大量供給が続き、賃貸住宅は入居者にとって「探す」時代から「選ぶ」時代になった。反面、選別される賃貸大家にしてみると厳しい経営環境を強いられている。賃貸住宅の供給過剰時代は供給者である賃貸住宅オーナーにしてみると、これまでのような不特定多数を対象としたビジネスから特定少数にターゲットを絞った賃貸住宅づくりへ転換しなければ、特徴のない物件は、住み手のニーズに合わず物件の稼働率の低下が進むため、生き残れない時代に突入した。
本コラムでは、少子化が急速に進む折、「子育て支援型」とよばれる賃貸マンションやアパートに注目してみる。
■子育て支援型賃貸マンション「アリア・ソワン」
日経アーキテクチュアでも紹介された「スターツ」は、子育て支援マンションというコンセプトを重視した賃貸マンションを土地有効活用で提案している。入居者のターゲットを0~5歳位の発育盛りの子供を持つ夫婦に絞っており、想定入居者の声を設計に反映させるためインターネット上にアンケートサイト「子育てママの住まいをつくる委員会」を立ち上げた。さらに0~5歳の子供を育てている主婦を中心に構成した座談会を開いて意見を集めた。
その結果、共用部では2~5歳の子供が遊べるクッション遊具のある「プレイルーム」を希望する声が多かった。オムツ替えスペースや図書コーナーなどを併設し、当該施設を子どもの遊び場、コミュニケーションの場、安全に遊べる場所として要望しているようだ。また専有部に欲しい設備としては「充実した収納」という意見が最も多かった。
そして子供と母親の生活動線に主眼を置いた安全な設計という側面で、
- 子供が遊ぶのに危ないので、室内の床の段差は無くす
- 子どもがどこにいても、キッチンから目が届く室内レイアウトにしたい
- 子どもが怪我をしないよう部屋のコーナー部(出隅部)を丸くする
- オートクローズゲートを設けて子どもにとって危険が多いキッチンへの進入を防ぐ。手を離すと自動的にドアが閉まり、片手でのロック解除も簡単なワンタッチ操作となっている
育児をしながらの毎日の家事(調理・洗濯・掃除など)を行ううえでの生活利便を追求した側面で、
- 子どもを抱きながら出入りするので、玄関や廊下は広くして欲しい
- 玄関は三輪車やベビーカーを置けるように広くする
- バルコニーにスロップシンクを設ける。バスルームや洗面所で洗いたくない、泥だらけの靴や、衣類、遊び道具など、汚れのひどいもの専用の洗い場を室外にあるバルコニー部に設置
- 子どもと一緒に入れる、ゆったりサイズの浴室。風呂から出るときはインターホンで知らせる
- 汚れにくく、子どものいたずら書きも簡単に消すことができる壁クロス
などを積極的に採り入れ、競合物件と差別化することで競争力を高めていく狙いだ。
■子育て支援型アパート「ニューレトアJX」
日経産業新聞によると積水化学工業は子育て世代に照準を合わせた「ニューレトアJX」を投入した。家庭内での乳幼児の事故を防ぐため、部屋の細部に工夫を凝らした。浴室の入り口に段差を設けて、子供が簡単に入り込めない構造にし、浴槽に落ちる事故を防いだり、コンセントの差し込み口は床から1.2メートルという高い位置に設け、子供がコードに引っかからないようにした。
内装ではシックハウス症候群の原因とされるホルムアルデヒドやトルエンなど揮発性の化学物質を抑え、空気清浄機を設けた。キッチンは対面型キッチンと火を使わない安全なIHクッキングヒーターを採用した。キッチンがリビングに向き合っているため、料理や洗い物をしながら室内を見渡せ、子供の様子がわかるようにした。
販促でも新手法を取り入れた。通常、賃貸を仲介する不動産屋には間取りや価格のみを書いたチラシを配る。これに対して、ニューレトアJXのチラシには子育て向きの仕様を細かく書き込み、小さな子供がいる入居希望者に直接アピールできるようにした。積水化学はニューレトアJXを足掛かりに子育て向けを強化する方針だ。
■関連記事
少子化時代の住宅地地価・賃料