個人投資家もノンリコースローン利用時代へ
東京都心の地価反転に続き、名古屋、福岡で局地的エリアではあるが地価が反転し始め、個人投資家による不動産投資が活発になってきたが、個人富裕層による国内不動産購入には、日本人だけでなく、アジアの個人マネーも参戦してきている。海外不動産ファンドは、日本市場に98年のバルクセール以降、参入しており、その投資モデルは、国内の不動産投資環境に多大のカルチャーショックを与え、不動産証券化をはじめJ-REITをこの国に根付かせたといっても過言ではないが、この時期に日本の不動産市場に参戦しているのは、中国や台湾をはじめとするアジア個人マネーである。
ジャスダックに上場したサンフロンティア不動産は、アジアマネーの取り込みを狙っている。日経産業新聞によるとアジア個人マネーの関心が強いのは、海外ブランド店進出で地価高騰を招いている銀座周辺である。「つい最近も銀座に近い東京・中央区の地上7階建てのオフィスビルを台湾の個人投資家に同社が仲介した。売値は約4億5千万円、相場より高かったが台湾人投資家は東京の地価が確実に上がると見ているため意に介しない。」こうした個人に一度、物件を紹介すると親戚や友人を次々と紹介され、事業が広がっていくという。
低金利下、ペイオフの実施も控え、国内の個人富裕層は、利回りが比較的高い不動産投資へ投資意欲が傾斜してきているが、アパート業者や不動産仲介業者もこうした個人富裕層の投資家を囲い込むため、従来のビジネスモデルから脱皮し、新しい事業展開を目指す動きが目立っている。
アパートなど土地所有者に1棟販売し、業績を急拡大してきた大東建託は、NRLファイナンスを貸付人、UFJ信託銀行を貸付債権の受託者とする証券化手法を活用した施主向けの新たなノンリコースローン・プログラム「責任財産限定型アパートローン U-lasya(ユーラシア)」の取組を開始した。従来の担保評価方式でなく、賃貸建物の収益価値を評価する収益還元法を採用し、返済原資を家賃収入と賃貸建物・その敷地に限定し、原則として顧客が保有するその他の資産に対して、融資の弁済を要求しないノンリコースローン融資となっている。またスキームのアレンジをリーマン・ブラザーズ・グループがしたノンリコースローン融資は、ローン債権を一定額までまとめ上げてローン債権の証券化を行っている。不動産購入資金をノンリコースローンにすることで、個人投資家は、投資が万一、デフォルトしても当該不動産の処分価格に限定してリスクを負担し、他の財産に求償が及ばないため、不動産投資の失敗でなにもかも失うといった悲劇的な結末を想定しなくてすむので、ローンを負担することに対する抵抗感が薄らぐらしい。
賃貸アパートを管理するシノハラ建設システムも昨年、東京スター銀行と業務提携し、アパート購入者層の拡大と顧客の自社取り込みを狙い、ノンリコースローンを武器に事業の全国展開を加速している。案件によっては、金利が通常ローンより0.1~0.2パーセント高くなるケースもあるが、土地・建物代の85%以上の融資が可能で、連帯保証人不要で、借主の信用力や資産に依らず20歳以上であれば、年齢制限なしで利用可能なため、従来の銀行提携ローンに比べ融資対象が広がる事業メリットがあるという。
東急リバブルは、会社経営者、医者などの富裕層中心に不動産仲介情報を提供する会員組織「リアルソリューション倶楽部」を開設した。会員の投資用不動産購入金額は3億円以下が多いが、東急リバブルは、より高額物件の仲介機会を増やすため、ノンリコースローンを会員が利用できるように銀行と交渉している。会員がSPCを設立し、SPCが借入をする。今まではこのようなスキームでノンリコースローンを利用するには、SPC・銀行間の契約書作成の弁護士費用など事務コストが高く、融資金額が小さいと銀行、不動産購入サイドともにメリットが少なく融資を実行しづらかった。新生銀行などのパッケージ化されたノンリーコースローンを活用し、スキームにかかるコストを定型化・簡易化することによりコストダウンしたため、個人投資家レベルの小口融資ロットでも実行が可能となってきた。さらに東急リバブルは、個人投資家ごとの投資ニーズに対応した業務の編成を行う(賃貸、売買といったこれまでの仲介業務の切り分けでなく、総合的な対応ができるようにスタッフを機動的に配置する。)ので仲介の成約も増加しているという。
ノンリコースローンやそれを活用した不動産証券化スキームなどを個人投資家レベルで検討できる段階まで、日本の不動産投資市場も成熟してきたと言えるのではないだろうか。
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