賃貸マンションのコストダウン / CM、リファイン建築
このコラムで「不動産投資の投資効果を上げるためどうすればよいか?」について連載します。本コラムでは主に個人投資家のフィールドともいうべき賃貸マンション、アパートからマンションの専有部分1戸買いなどについて連載で書いてみたいと思ってます。内容は、個人投資家対象に絞り込みますが、必要に応じ不動産ファンドなどで活用されているリスクヘッジや投資効果の測定手法も織り込んで書いてみたいと思っています。
まず連載のはじまりにRC造の賃貸マンション投資について考察していきます。
一般にRC造は木造や軽量鉄骨造に比べ工種が複雑で手間も余分にかかり工期が長くなるため高コストになり、予算の制約、費用対効果の面から敬遠されがちでした。しかしRC造の建築費は、いま注目されている「CM(コンストラクション・マネジメント)」などを活用すれば建築コストを効果的にコストダウンさせることが可能です。さらに知る人ぞ知る「リファイン建築」というRC建築物の再生テクノロジーを使えば、これまでは老朽化後、取り壊して新築していた稼働中の投資建物を、賃借人を居ながらにして既存建物を新築同様に再生し、賃料アップを実現できたりします。
「CM」と「リファイン」を組み合わせると、投資家は、「CM」で建築コストを抑制できますし、「リファイン」で稼動中の建物を新築同様にまで再生することが可能となります。つまり投資建物の建築→運用→取り壊し→再建築というこれまでの投資サイクルが建築→運用→再生に転換し、投資建物の「取り壊し・再建築」が「既存建物再生」に置換するのでテナントの退去、それに伴うキャッシュフローの中断・空白、さらには環境問題の高まりから将来、より高騰すると予測される取り壊し・廃棄コスト、高額な再建築費用の短期スパンでの発生などの投資リスクを低減させます。これにより投資建物の「ライフサイクルコスト(LCC)」を低下させ、キャッシュフローを継続させて投資建物の再生後は賃料が上昇し、投資不動産の内部収益率(IRR)を向上させます。
まず今回のコラムは、賃貸マンションのコストダウンに効果的な「CM手法(コンストラクション・マネジメント)」について書いてみます。いままで発注者にとってブラックボックスといわれゼネコンの掌の内にあった建築コストを施主の目線でより透明にし、建築コストを合理的にコストダウンさせる手法として注目されているCM方式は、1960年代にアメリカで確立しました。9.11同時多発テロで破壊されたワールドトレードセンタービルが、世界で始めて大規模プロジェクトにCM方式が採用された例と言われています。日本国内でも03年1月、CMの公式マニュアルといえる「地方公共団体のCM方式活用マニュアル試案」が公布されコストダウンに効果的なCMへの関心は高まっています。CM方式は、コストダウンだけでなく発注形態が透明、コスト構造も明確なため大手デベロッパーをはじめ財政難に悩む公共団体や投資家に説明責任を負う不動産ファンドなど幅広い発注者サイドに注目されています。
1、CM(コンストラクション・マネジメント)
■CMによる建築費のコストダウン
いままでRC造のマンションを建築するとき施主は、ゼネコンにすべてお任せというのが一般的でした。建築コストをできる限り下げてキャッシュフローを上昇させたい施主と利益を確保したいゼネコンとの間では利害が対立してしまうのですが素人である施主とプロのゼネコンでは、こと建築に関するあらゆる面での情報量、ノウハウの蓄積で全く勝負になりません。特に建築コストはその時々の市場相場や在庫量で刻々変動しますし、図面から資材などの数量を拾い、建設物価本などで材工単価を検証するなどという芸当はまず素人発注者にできません。さらにゼネコンから見積もりを取ると本来、工事原価であるべき工種ごとの金額にゼネコンの利益がコッソリと入り、出精値引き額を大きくしてゼネコンの利益を構成する一般管理費を少なくして見せたり、またその逆パターンもあるなど本来の見積もり額にさまざまな営業的な駆け引きが入っているため、工事原価と利益がきちっと分別され解りやすくなっていません。建築費が不透明だと言われる理由もこの辺の事情にあります。
こういった不安や悩みを持つ素人の施主のために設計事務所が介入するのですが、設計事務所は建築工事の複雑化、高度化で細分化し、分業化しています。基本設計、実施設計、構造設計、積算などに細分化し、分業システムでしか機能していません。企画段階から設計ができて工事費の数量と実勢価格が解り、施工をチェックできる一貫したスキルと体制を持つ設計事務所は極めて僅かです。
CM(コンストラクション・マネジメント)は、建築主のマネジメントをエージェントする者で建築主と建築生産者の間にCM(Construction Management)企業が入ります。建築主の利益を代行し、施主が価格や契約で主導権を確保することに専念し、ゼネコンを入れず(ゼネコンの利益の中間排除)、施主が直接に専門工事会社に発注します。流通の中間システム(ゼネコンや工務店)をカットすることにより、2割近く建築費を抑えることが出来るといわれています。工事業者と直接建築主が契約するため価格の透明性が確保され、サブコン(専門業者)間の競争原理の導入、品質の確保などが実現します。
CMが入るとなぜコストダウンするのでしょうか、その仕組みはこうです。
建築工事は、ゼネコンが各専門業者を束ね、専門業者はこれまでその多くはゼネコンの下請けとして元請下請けの関係を維持し、ゼネコンの協力会などの組織に入ってます。ゼネコンは、工事を受注すると各専門工事をやらせる業者をその中から選定します。選定基準でコスト競争が働いているなら良いのですが、現実には馴れ合いで決めているケースがあります。これでは施主からみるとコストダウンが実現できません。
CMは、ゼネコンを入れず直接、各専門業者から地域ブロックの談合を避けるため地域を越えて広範に見積もりを取り、低コストを業者選定の主要な基準としますので専門業者間で競争原理が働き、コストダウンが実現します。
近年、建築工事の複雑、高度化が進行しているためサッシュ、カーテンウォール、金属工事、システムフロア、空調工事など専門業者の技術レベルがすでにゼネコンを超え、ゼネコンはある部分、詳細設計をこれらの業者に描かせているケースなどが多く、またゼネコンは、専門工事業者の見積もりが妥当か判断する情報・能力が十分ではありません。専門業者の技術力の高度化もCMが導入されやすい要因となっています。
厳しい発注者のコストダウン要求に日常的に晒されている昨今ですから建設業界でも建築コストを下げるための手法としてコストマネジメントを導入してコストダウンの努力をしています。コストマネジメントには、施主の要求内容をよく理解し、提出された設計図面に基づき不要で無駄な工事をカットしたり、機能や構造上の欠陥を洗い出し改善する「設計改善VE(バリューエンジニアリング)」や長期的視点で建物のライフサイクルコストを算定する「LCCなどの手法」(後述)があります。
例えば設計改善VEですが、建築事務所などが提示した当該投資建物の設計図面を賃貸マンションという機能・構造・設備など多角的な側面から不要な工事を徹底的に洗い出してコストカッティングし、機能や構造上の欠陥をチェックし改善することは投資建物の品質を確保しながら建築費のコストダウンを実現します。
CMによる設計改善VEは、基本設計から竣工までの各ステップで実行されます。CMは設計者、施工会社の各部門に呼びかけ専門チームを組んだりしてVEを実行します。
例えば日経アーキテクチュア誌で紹介されている大阪市のCM会社アクアの場合、設計図面へのVEをコストダウンの大きな柱にしています。同社によると1つのプロジェクトで200件以上のVEを行い。VEのデータベースとともに独自の施工単価のデータベースを持っておりそれをもとにゼネコンの見積もり金額に対し同社の積算金額を、工種ごとにグラフ化して比較、ゼネコンの見積もり金額がなぜ高いかを分析して改善させています。
■国内のCM会社
発注者がCMや専門業者を探すとき、インターネット上で建設プロジェクトに関する受発注を行う民間版電子入札システム最大手「CMnet(シーエムネット)」があります。CMnetは、森ビルとソフトバンク・イーコマース(ソフトバンクの100%子会社)が共同で創設しました。施主・発注者も、不動産デベロッパーから、製造業、流通会社、マンション管理組合、設計事務所、CM会社などから構成され、すべての企業に開かれた、日本初の建設オープンマーケットです。発注者が、発注案件情報をインターネット経由で流すと約1,400社の会員間に受注の競争原理が働きネットのオープン市場でコストダウンが可能になるというシステムでマンションの新築案件やCMの取り扱い案件も多いといわれています。
CMnetでCM会社として紹介されている企業のなかからCM方式で民間賃貸マンション建設を手がけメデイアの取材も多い2社を本コラムで紹介します。
●プラスPM社
設計事務所からCMに参入した大阪市の会社で、関西圏、関東圏で合わせて約1,500社の専門工事会社と登録制のネットワークを築いている。CMの基本的方式は、ピュアCMという透明性の高い分離発注方式でなく、日本の慣習に合わせアレンジした。ゼネコン一式請負で行い、ゼネコンの入札とともに、登録の専門工事会社からも入札を行う。ゼネコンと工事会社の見積もりを比べて、専門工事会社の方が安ければ、施工能力や経営状態などを調査の上、ゼネコン側の専門工事会社を入れ替え、コストダウンを図る。VE提案も行い、設計段階でのコストダウンを実現する。同社の創立時は、土地の有効活用を図る遊休地を持つ土地オーナーに資産・税金対策として賃貸マンションやオフィスビルの経営を企画提案していた。現在は、賃貸マンションをはじめ95年から取り組んでいる病院や老人施設といったヘルスケア事業にも更に力を入れ、今後は公共工事にもCMを普及させていく計画である。
●希望社
岐阜市のCM会社。JCM(Japan Construction Management)発注方式という仕組みを使って発注代行業務を実施している。このJCMは、「コンサルタント型CM」と「請負型CM」からなる。
「コンサルタント型CM」は、工事費についてはゼネコンに任せないで専門工事会社と直接折衝し選定するという 分離発注的な手法をとりながら、施工段階の責任はゼネコンに一括して負わせるシステムである。希望社が施工段階も監理者として参画し、建築が完成するまでサポートするが、発注代行業務だけを依頼することもできる。
「請負型CM」は、希望社が施工を自ら行う方式で、5年ほど前からコストだけでなく「工程」「品質」「安全」についても管理し責任を負う形のCMをスタートさせた。これは、現在の日本の建築制度や慣習の中では、コンサルタントや発注者の代行者ではなく「請負人」という立場で関わらなくては、工事すべてに責任を持ち本当に発注者の利益になる業務は出来ないという同社の考えに基づく。請負型といっても従来のゼネコンの不透明・非競争的なやり方ではなく、オープンで合理的・競争的なJCMの仕組みに基づいた請負業務を行う。希望社によると現状においてはこの「請負型CM」という形のCMが、建築工事の最善の仕組みであると考えている。
希望社では、複数のゼネコンから見積もりを取る時、同社が作成した見積もり内訳明細書(数量が記入され金額は未記入)に各工種の工事原価を記入させ、一般管理費にゼネコンの利益を記入させるように工夫している。これにより数量の水増しを防ぎ、各社のコスト比較を正確にできるシステムとなっている。
■CMの課題
投資予定建物の建築費のコストダウンに効果があり、欧米では建築の発注形態として主流であるCMもいくつかの問題点があります。特にゼネコン省略型のピュアCMのケースでは工事の透明性が高まりますが、施主は、これまでゼネコンが負っていた分割発注によるリスク(専門業者の倒産、工期の遅れなど)を負担しなければいけませんし、専門工事会社ごとの直接契約になりますので契約の手間も増えます。またCMは、設計図の評価、コストマネジメント、工程管理、施工などあらゆる面で卓越した知識や技能、経験を要求されます。ある意味、設計業者やゼネコン以上の技能がないと施主が満足するマネジメントができません。無能なCMがエージェントになると予算、工期オーバー、施工は手抜き、施主の求める建物の機能は不備といった事態も起こります。しかしながら不動産デベロッパーや全国展開の流通店舗など大量・継続して発注している発注者にくらべ個人投資家レベルの施主が有能なCM企業を探し選定するには有用な情報が乏しいのが現状です。
また日本では一括請負方式が一般的であるために、国の法整備も遅れ、全て一括請負方式の総合建設業者を対象に完成保証、瑕疵担保責任などの制度が準備されてます。このような施主のリスクを解決するために日本の建築制度や慣習に適応させて考案されたものが前述の希望社のJCM方式などです。CMは、課題はあるもののゼネコン主導の弊害が多い孫請けまである重層的な元請・下請け構造の建設市場から発注者を中心に据えた透明な建設市場を再構築する契機となると思います。
■CMとLCC(ライフサイクルコスト)算定
不動産投資という側面からCMを考えると建築費のコストダウンだけでなくCMにより投資建物のコスト構造や仕組みが施主にオープン化されることにより投資家が投資目的に合わせて建物のグレード、設備、機能をコスト管理できるようになる点が評価できます。投資家にとって建築時点での建築コストだけでなく投資建物を長期に亘り運用することを視野にいれた長期的視点で建物のライフサイクルコストを算定するLCC算定が重要です。投資建物の稼動・運用により発生するさまざまなコストを低減することで投資効果が向上するからです。LCC算定で初期投資額(建築費+設備関連)、修繕更新費(建築関連+設備関連)、運用費(電力費+水道費+ガス費+油費)、保全費(清掃費+設備管理費+保守費+警備費+植栽管理費+塵芥処理費)、廃棄処分費などのトータルコスト(LCC算定)を査定することで総合的に建築費を検討し投資決定することが可能になります。長期的視点でこれらの検討はキャッシュフローの予測精度を向上させます。CM会社によっては建物のライフサイクルを鳥瞰した費用発生のサイクルと発生金額を情報提供するサービスも行っています。
次回のコラムでは賃貸マンションの再生テクノロジーとして注目されているリファイン建築について書く予定です。
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