築深中古マンション投資術
中古マンション投資(1棟単位でなく専有部分単位の投資)の場合、新築マンションが概ね5%前後であるのに比べ10%以上の高利回りも期待できるのが魅力となっています。単年度の粗利回りは、年額家賃収入÷投資不動産購入額で求められるため、数字のマジックで経年の高い築後20年~30年の築深物件は購入価額が安い分、高い粗利回りをはじき出します。
日本不動産鑑定協会・調査研究委員会が行った「収益用不動産の利回り実態調査」によると全国では共同住宅(RC、SRC等)の償却前純収益利回り平均は築20年~30年が最も高く、築30年超ではさすがに低下傾向がみられます。
一般にマンション投資は、投資額の手軽さで個人投資家と呼ばれる層が圧倒的に多いようです。個人投資家は単年度の利回り(グロス、ネットに関わらず)を追う傾向が強いため、経年の高い築深物件に高い投資価値を与えがちですが、はたしてそうでしょうか?このような築深物件投資に潜むリスクを検証し、投資効果を高めるノウハウを研究してみましょう。
1、不動産投資の可能期間と投資平均利回り
①マンション投資可能残存期間の把握
築20年超の築深物件の場合、後述しますが、マンションの残存耐用年数により投資平均利回りは変動します。当たり前のことですが経済的残存耐用年数が長いほど収益を稼ぐ期間が長くなるので、投資平均利回りは高くなります。単年度利回りは時間軸を無視したあくまでも初年度の利回りに過ぎません。マンションの経済的残存耐用年数は、通常は築後の経過年数に反比例します。中古マンション投資では初年度の利回りよりも投資可能な全期間におけるトータルな投資効果を測る「投資平均利回り」が重要であり、投資平均利回りを左右するマンションの残存耐用年数を把握することが大切です。この点のチェックが意外に個人投資家の場合、十分ではありません。まずマンションの躯体・設備から見た物理的残存耐用年数を見分けるには、対象マンションについて耐震性や耐久性、工法などの建物全体の構造チェックが必要となります。
●耐震性や耐久性の時系列的チェック
耐震性や耐久性といった構造的強度を見分ける簡単な基準は対象マンションが竣工した西暦年を調べることです。マンションの耐震性や耐久性に影響を与える建築基準法改正などのイベントは2000年、1981年、1971年に発生しています。
- 住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)が、00年4月1日から施行されました。この法律により、新築住宅の瑕疵担保期間は最低10年間と義務付けられました。品確法施行後に建ったマンションは、構造、漏水の瑕疵について最低10年の保証がつくことになっています。10年保証は施工会社にプレッシャーとなり、手抜き工事等も少なくなると期待されています
- 1981年、建築基準法改正により「新耐震基準」が適用されることになりました。マンション投資可能残存耐用年を把握する重要なポイントは耐震性能です。つまり同基準以後、建てられたマンションかというのがこの目安となります。「新耐震基準」では、震度4~5程度の地震では建物が崩壊、変形しない。震度6~7の地震では建物がある程度損傷しても倒壊せず、人命を守ることができるように設計されています。阪神淡路大震災で倒壊,大破などの深刻な被害を受けた建築物のほとんどは1981年の新耐震基準前に建設された建築物であったことが調査報告されています
- 1971年建築基準法施行例改正でRCの構造規定が強化されています。これ以前の建物は、さらに要チェツクです。例えば阪神淡路大震災で1971年以前の建物は特に深刻な被害を受けています
以上が、購入するマンションの時系列的な耐久、耐震性能の簡単な判別法です。最近建った新しいマンションは新耐震基準をクリアし、構造、漏水の瑕疵について最低10年の保証があるのに比べ建築年代が古いマンションほど耐震性などに問題が多いことがお分かりになったと思います。さらに97年日本建築学会の「JASS5鉄筋コンクリート工事標準仕様書」が改定され、これまでは、下表の「一般」で建築されたものが殆どでしたが、改定以後のマンションは「標準」ランクの高耐久マンションが増えています。つまり大規模補修不要予定期間(構造体の大規模補修を必要としないことが予定できる期間)として65年、供用限界期間(継続使用のためには構造体の大規模な補修が必要となることが予想される期間)として100年という基準に該当するものです。
▼JASS5鉄筋コンクリート工事計画で定められた計画供用期間の級
●建物診断・調査機関による構造チェック
わが国は海に囲まれた島国のため高温多湿で欧米のRC建物より寿命が短いとされています。雨や塩害の影響でコンクリート構造物に汚れやひび割れを起こしやすく鉄筋の腐食へ進行しやすいからです。これらの構造面の劣化をさらに詳細・具体的にチェックするため建物診断専門機関に調査を依頼するという方法があります。
最近は中古マンションの簡易建物診断サービスがあります。例えば三井不動産系列の㈱リスペクト建物調査は、共用部分、専有部分、衛生・空調・電気設備につき目視による投資用建物の劣化診断を行っており、肉眼や望遠鏡で外壁のひび割れ、浮き・剥離、白華現象、鉄部の錆、ベランダの防水、コーキングなどを目視調査しています。
さらに目視調査以上の詳細な建物調査としては、建物調査専門機関に依頼します。躯体のコンクリート構造物の傷みは塩害や中性化、アルカリ骨材反応などがありこれらの調査診断は目視調査では限界があるからです。
建物施工図・竣工図と現況建物の照合チェックを始め、「赤外線調査」で仕上材及びコンクリート躯体の浮き・剥離の状況を調べたり、「コア採取」によりコンクリート強度、中性化深度を調査、さらに「はつり調査」でコンクリート躯体の一部をはつり、鉄筋腐食度・かぶり厚さ・中性化深度等を調査しています。このような調査レベルで破壊検査を伴う場合は、管理組合が1室マンション購入程度ではなかなか許可しません。本格的な建物劣化診断は、管理組合が長期修繕計画など策定するために独自に依頼してマンション一棟の建物調査を行うケースなどに利用されています。
●マンションの管理レベルの調査
マンションは、5~40年で修繕が必要となります。定期修繕に加え、必要に応じ劣化診断を行い、当初の長期修繕計画を建物の実態変化にあわせ手直しながら、適切なタイミングで修繕を行うことが重要です。また大規模修繕工事を一定サイクルで実施しなければなりません。つまり建物外壁、塗装工事、屋上などの防水工事、設備機器交換工事などの修繕工事が必要になります。その修繕をいつ行なうのか、資金がどれくらい必要になるのかを区分所有者全員で長期修繕計画を策定する必要があります。管理組合によっては竣工図、施工図などもなく、長期修繕計画も存在しないマンションもあります。気がついたら大規模修繕費が足りないというマンションが大半です。管理の放置による財産価値の低下と急激な負担増からマンションを離れる者が後を絶たず、空室が増え、残った入居者にとっては放置するしかないスラム化マンションの増加が不安視されています。
この辺の事情が「マンションの経済価値は管理で決まる」といわれる所以です。管理の良いマンションとは、管理会社まかせでなく、区分所有者が管理に強い関心を持って定期総会などに参加しているとか、区分所有者が管理規約を理解し、どれだけ遵守しているかなどです。管理組合が日常的、定期的に点検を行い、こまめで迅速な対処をしていればマンションの寿命は確実に伸びます。さらに専門機関へ建物劣化診断を依頼し、柔軟に長期修繕計画を建物の状況変化に即して調整していくのも管理組合の仕事です。
マンションの購入時には、売買契約だけでなく、当該マンションの管理状況を十分に理解するため管理規約、使用細則、管理委託契約、長期修繕計画等を精査する必要があります。購入の際に管理人さんにヒヤリングして管理組合のやる気度をチェックしたり、竣工図、施行図の有無、いままでの工事履歴などを確認すると管理の良否の把握に役立つと思います。
②建物の残存耐用年数と平均投資利回り
マンションは経年とともに当然に劣化していきます。理論的には敷地権の持分部分の地価上昇が建物の価値減をカバーしない限り、マンションの元本価格は下がっていきます。賃料も築深マンションは厳しいものがあります。新しくて電気容量が多く、電話回線も複数で高速ブロードバンド回線で最新のセキュリュティを備えたマンションは人気が高いですが、そうでない古いマンションは競争力低下で賃料下落が避けられないからです。
賃料はマンションの経年の進行により老朽化を反映して低下していきます。当初の単年度利回りが高いのはマンションの元本価格の低下ほど賃料が低下しないからです。しかし経済的残存耐用年数を考慮した平均投資利回りで計算すると賃料が一定としても残存期間が短いほど平均投資利回りは下がります。IRR(内部収益率)も同様に低下します。
例えば、下記のような投資候補のマンション2戸があった場合、投資効果はどちらが高いか検証してみましょう。両方とも建て替えが不可能で残存耐用年数後は純収益ゼロ、残存耐用年数期間内は、毎年の純収益(NOI)を一定と想定して平均投資利回りを計算してみます。(現実には残存耐用年数後のマンションの経済価値は大規模修繕費の積立額などで異なりますが、設備不足・陳腐化、「狭い」など建物の機能面の劣化は大規模修繕費で解決できません。残存期間そのものや残存期間後のマンションの経済価値を予測することは現実には不可能に近いですし、残存期間において年額純収益は老朽化により逓減していきますが、設例をわかりやすく計算を簡便にすため上記のように想定をしました。)
築20年
残存期間20年間の純収益累計:50万円×20年=1,000万円
元本減価:-500万円
平均投資利回り:(1,000万円-500万円)÷20年=25万円25万円÷500万円=5%
築30年
残存期間10年間の純収益累計:40万円×10年=400万円
元本減価:-300万円
平均投資利回り:(400万円-300万円)÷10年=10万円10万円÷300万円=3.3%
③IRR計算
IRR(内部収益率)を求めると、
(単位:千円、残存期間満了時の復帰価格=0)
築20年中古投資マンション初年度利回り10%→平均投資利回り5%(IRR7.75%)になり、築30年の中古マンション初年度利回り13%→平均投資利回り3.3%(IRR5.60%)になります。結論的には、初年度の利回りは、築30年の方が築20年よりが3%高いにもかかわらず残存耐用年数が10年短い分だけ平均投資利回りは築20年より低くなります。現実には老朽化による家賃下落→純収益逓減や空室損失の増加により平均投資利回りやIRRは設例のケースよりさらに低下するでしょう。
平均投資利回りの視点から築深物件は、マンションの残存耐用年数に留意しなければ、期待に反した投資効果しかあげられませんし、スラム化すれば資産価値はマイナスになる可能性もあります。ただ築深物件といえど建物の状態は個別性が強いので、管理の程度や建物劣化などの調査のノウハウを会得し、築年の割りに残存耐用年数が長い、建物の程度が良い投資マンションを購入できれば購入価額が安価なメリットを生かした投資も可能となるということになります。
上記までの設例は建て替えを前提にしていません。建て替えが可能としますと投資計算は違ってきます。
2、投資マンションの建て替え
平均投資利回りは他の条件を同じとした場合、マンションの残存耐用年数に比例しますので建て替えがなされた場合は、上記の計算の前提は成立しません。既存マンションの取り壊し費用、建て替えに要する建築費などの投資額、建て替え時の賃料などの未収入期間、建て替え後の賃料収入などのパラメーターで平均投資利回りが変わってきます。
現在建て替えが必要なマンション戸数は「昭和30年代から新耐震が施行され浸透するまでの昭和58年頃までの130万戸であり、その後供給されている270万戸は専有面積が確保され、建物管理等のインフラが整備されており、建て替えが必要となるのはかなり先になる。」(月刊 不動産鑑定掲載、不動産鑑定士二木憲一氏の「マンション建て替え問題と鑑定評価」)と指摘されています。
大規模修繕で対応できず建て替えになるマンションは、躯体・設備の劣化に加え、安全に居住を継続することができない、現在のライフスタイルに合わない、狭い、など安全性・機能性の著しい劣化もあげられます。例えば古いマンションでは火災の場合の避難経路となるバルコニーがなかったり、玄関から避難しても廊下や階段の幅が狭かったりして緊急時の「二方向避難」が困難で、居住の安全性に問題が多いものがあります。電気容量もいまや各室エアコンや個室PCが増えていますが、古いマンションは電気容量が少なく1棟全体を考えると増量ができないためライフスタイルの変化に対応できません。(※耐震補強やコンクリートの劣化防止・再生、専有部分などコンクリートに埋め込まれ取替え工事が困難であった排水菅再生などで新しいテクノロジーが誕生していますが、これらについて「マンション建て替えから再生へ」で紹介しています。)
建替え成功例は、マンション全体としてみても極めて乏しいのが現状です。いままで老朽化に伴うものが69件、阪神・淡路大震災の被災マンションの再建が108件、合計177件が把握されていますが、建て替えに至ったマンションがいかにレアケースかを示す数字となっています。
投資用マンションの建て替えに関しては、特に問題が多いと思われます。外部オーナーは、組合運営に対し無関心となりやすいため、管理組合は正常に機能していない場合が多いですし、一般に区分所有者の合意形成が困難であることに加え、賃借人の立ち退き交渉が厄介です。建て替えタイミングを予測して一斉に定期借家にしておくことは、複数戸数に賃貸オーナーが数多く存在する投資用マンションの場合は困難だからです。また投資用マンションは投資効率から容積率一杯に建てられているため、既存不適格の問題、余剰容積率が少ないなどで地価上昇が期待できなければ、等価交換や投資効果からみて旨味がないことになりがちです。
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