不動産ファンドが狙う福岡

1、首都圏で加熱する不動産ファンド

J-REITをはじめ私募型不動産ファンドの組成物件をめぐる取得競争は首都圏で熾烈を極めているが、これは06年3月期に導入される固定資産の減損会計への前倒し対応で企業が保有不動産を盛んに手放しているという背景がある。

今年、2月にりそなグループが大口融資先の不動産会社3社の整理を決め東京や大阪のオフィスビル19棟(東京大手町に建つ大手町野村ビルをはじめ、大阪市のアクア堂島大和堂島ビルの区分保有分などが含まれる。)をひとまとめにして入札を実施したが、三井不動産が組成する特定目的会社(SPC)は、外資系銀行なども参加したとみられる入札を勝ち抜き落札した。買収額は千億円を超え、三井不動産はREITなどへの売却を視野に入れている模様だ。

昨年3月、森トラスト総合リート投資法人は日立製作所から東京御茶ノ水の本社ビルを取得した。三菱地所は、昨年6月に旭硝子から取得した東京南青山の社宅用地に住友商事、神戸製鋼所、三菱倉庫と組み、06年度をめどに12階建て分譲マンションを建設する。東急不動産、三菱地所、サンケイビルなど5社は、沖電気がオフィス集約に伴い手放した東京湾沿いの臨海地区に高さ167m920戸の超高層で参戦、07年12月完成予定。

国内企業は、キャッシュフロー重視に伴い現金収入などを生まない社宅用地などを売却、事業再編などのリストラが浸透するなか用地供給は増加しているが、反面、ファンドの組成不動産となる優良物件の取得競争は激しさを増し、「不動産業者に加え、ファンドが物件の取得競争に参戦。都心の銀行店舗跡地など、優良なマンション適地は都心なら路線価の2~3倍の値が付くケースも珍しくなくなった。」(日経産業新聞)

不動産ファンドの強気の買いを支えているのがこのところの投資家の裾野の広がりと厚みである。銀行や生損保など機関投資家が不動産投資に戻ってきたのに加え、ミドルリスク・ミドルリターンに期待する個人投資家が参入している。例えば、3月場したパシフィックマネジメント系列のJ-REIT、日本レジデンシャル投資法人は個人投資家の比率目標を60%超に設定し、ほぼ達成した。

2、短期保有・高利回りを狙う私募型の不動産投資ファンド

上場J-REITの場合、LTV50%を上限値として中長期的な運用によって不特定多数の投資家を相手にするが、私募型の不動産投資ファンドは、機関投資家など限られた投資家の求めに応じて不動産を取得・運用し、短期保有でキャピタルゲインも狙うという形態が主流で、10%以上の利回りを目標とする例が多い。

ダヴィンチ、ケネディ・ウィルソン・ジャパン、セキュアード・キャピタル・ジャパン、不動産投資ファンド運用の上場組み専業3社は、事業規模を拡大しており、昨年末の運用資産3,300億円から今年末に4,600億円に引き上げる。セキュアード・キャピタル・ジャパンは米カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)から100億円規模の運用を受託。ダヴィンチは昨夏から国内企業年金に狙いを定め、すでに70億円を集めた。同社に運用を委託した埼玉県トラック厚生年金基金は二ケタの利回りを期待できる不動産投資に着目している。

また運用対象もオフィスから、住宅、商業施設、倉庫などへ広がりをみせている。例えば、パシフィックマネジメントは、主流のオフィスや住宅でなく商業施設を10億円で取得し、商業施設特化私募ファンドを立ち上げた。同社が子会社を通じて取得したのは、静岡県浜松市の地元のスーパーマーケットが営業している中規模の商業施設で取得費約10億円。商業施設の取得は一昨年神戸市の物件に続き2件目で、今後、10億円~30億円の中規模物件を中心に商業施設向け投資を拡大する。04年11月期中に商業施設分野で140億円まで投資を積み上げた後、来期中に商業施設に特化した私募ファンドを立ち上げる計画である。

三菱地所と三井不動産も相次ぎ私募型の不動産投資ファンドを組成している。月刊 不動産鑑定によると、

三菱地所は最大700億円、三井不動産は初弾340億円の資産規模で、2弾目以降のファンド組成も検討する。いずれも国内機関投資家や事業法人の間で高まっている不動産投資ニーズの受け皿を提供するのが狙い。三菱地所は国内の商業施設を投資対象とする私募型の不動産投資ファンドを組成した。ファンドマネージャーは三菱地所投資顧問。アレンジャーは三菱証券。国内機関投資家と事業法人など10数社から300億円のエクイティ出資を受けノンリコースローンと合わせ約600~700億円規模で投資を予定する。三菱地所も300億円のうち25億円のエクイティを出資する予定。期間は7~9年。

三井不動産は流動性や収益性に劣る不動産を取得したうえでコンバージョンやリノベーションによって商品力を高めて機関投資家やJ-REITなどに売却するバリューアップ型の私募型不動産ファンド「三井ジェムストーンファンドⅠ」を組成した。利回り4%程度のJ-REITや、同じ私募型でも中長期の安定利回りを志向するファンドと異なり、3年間の比較的短い運用によって年率10%以上の投資利回りを投資家に提供する。ファンドの資産は9物件で、リノベーションコストを含め340億円。大手年金基金を含む機関投資家と三井不が合計115億円のエクイティ出資を行い、残りの225億円はノンリコスローンで調達した。三井不はアセットマネジメントとファンドマネジメントも担当。想定以上のパフォーマンスを上げた場合はフィーが連動して上がるインセンティブ方式を採用している。

住信基礎研究所によるアンケートとヒアリングを基にした私募型不動産投資ファンドの実態調査結果からうかがえる平均的なファンドは、目標利回りIRRベースで10~14%が最も多く、平均は13.6%借入金比率(LTV)の平均は74.2%で、運用期間は6年が平均。投資家数は1ファンド1~3人が多く。平均でも9.2人と10人未満となっている。

3、不動産ファンドが狙う福岡

日本経済新聞では、不動産ファンドの運用対象物件が、これまでの首都圏中心から大阪、広島、福岡などへ分散投資もかねて拡大していると報じている。国内勢、外資の不動産ファンドが地方中心都市の一等地に照準を合わせて取得している理由として、首都圏の投資物件が、市場の過熱感に対する先行き懸念と利回り低下により、投資魅力が低下してきたのに比べ、ここにきて地方の優良物件の高利回りや割安感が注目されてきた点があげられる。

特に福岡市の場合、すでに天神地区のオフィスビルのいくつかがJ-REITの組成物件になっているが、さらに不動産ファンドによる物件取得が進む勢いだ。この傾向は天神地区の九州における一極集中の高い潜在力が注目されている証と言える。東京は、ファンドバブルで仕入れ価格が高騰、現実のテナントの需給動向と乖離し、投資適格性に問題がでてきたが、福岡の場合、6~7%と比較的に高利回りであるなど全国的に注目を集めている。

04年度の公示価格で見ても県内の商業地の全体の下げ幅が拡大する中、福岡市の中心部、福岡市中央区天神一丁目で同地域の最高価格地点である商業施設「天神コア」は、前年比3.0%値上がりした。中央区天神では3月に岩田屋新館がオープンしたほか、九州新幹線の部分開業で南九州からの集客も見込め、さらに4月にはRKB跡地に大型商業施設が完成、来年2月には地下鉄3号線(天神南-西区・橋本間、12km)の開通を控えるなど、商業地としての潜在力向上が織り込まれて公示価格が上がったと言える。こうした傾向は、周辺の大名、今泉地区に波及し、変動率ゼロの地点が現れている。近年、このエリアは、民家やビルの1階を利用したユニークな飲食店や衣料品店が並ぶ若者の人気スポットとなっており、東京資本の進出が盛んでテナントの空きが殆どないといわれている。住宅地も都心天神に近いほど下げ止まりの傾向がでてきており、遠距離の郊外住宅地が依然として下げ止まらないのと対照的な動向を示している。

このような傾向を背景に今年3月、天神地区に近い中央区清川ならびに博多駅周辺の賃貸マンションを組み込んだ住居系マンション特化ファンドも誕生した。UFJつばさ証券と投資用マンション1棟売りの地元マンションデベロッパーディックスクロキは単身・ディンクス層をターゲットとした賃貸マンションを組成物件とする私募型の不動産投資ファンドを立ち上げた。資産規模30億円をノンリコースローン65%、エクイテイ35%で調達、運用期間は3年となっている。UFJつばさ証券はストラクチャリング、SPCの資金調達を行い、ディックスクロキは、PMのフィーのほか1.3億円劣後出資することでエクイティ配当を受け取る。ディックスクロキはこれまで市内で賃貸マンションを開発し、外資系投資ファンドに売却してきた実績を持っている。

不動産流動化の動きも活発になっている。福岡銀行は、地銀初のノンリコースローン融資により、不動産流動化市場に本格参入。福銀事業金融部は「不動産流動化を通じて事業融資に取り組むことで収益機会の拡大や地域経済活性化につながる」と期待しており、その第一号とし地元大手デベロッパー福岡地所が福岡市博多区に建設中の事業規模約90億円、九州最大級のオフィスビルの流動化に取り組んだ。

流動化の対象となるのは、10月末に完成予定の呉服町ビジネスセンタービル。事業主体の福岡地所が住友信託銀行にビル不動産を信託し、所有権を移転。福岡地所は住友信託銀から受けた信託受益権を特定目的会社(SPC)に売却する。SPCはテナントからの賃料を福銀への融資返済や出資者(機関投資家など)への配当に充てる。福銀の融資は、企業を対象とした従来型の「コーポレート融資」と異なり、対象不動産の収益性を判断基準とした「プロジェクト融資」のノンリコースローン。このため、福岡地所など大手デベロッパーでなくても、不動産の収益性があると判断されれば融資を受けることが可能となる。(西日本新聞)

さらに天神のNHK福岡放送会館跡地開発を進めてきた福岡新都心開発(福岡市)は、1月7日、岩田屋新館が入る再開発ビルを、新たにつくる特定目的会社(SPC)に約180億円で売却することを明らかにした。再開発の失敗例が多いなか同社は約6億円の開発利益と資本金の取り崩しで、出資企業に出資額以上の資金を返還可能となった。ビル売却は、不動産信託による「流動化」スキームを活用し、土地と建物の所有権を信託銀行に移転、その信託受益権を180億円でSPCが購入した。SPCへの出資は地元企業から募り、岩田屋からの家賃収入が借入金の返済や出資者への配当の原資となる。
 
福岡は、中国、韓国、台湾などアジアにも近く、天神地区は九州各地から若者を集客する娯楽とショッピングの注目のエリアとなっており、その潜在能力は九州で突出している。まさに一極集中、一人勝ちの様相を呈してきているが、地方の地価下落が深刻ななか名古屋などと並び特異な地価動向を見せている。首都圏に比べると利回りはまだ高い。しかし、同市においても賃貸用ワンルームマンションなど過剰供給気味で、限られたエリアが注目を集めているだけにすでにミニバブル化しているとの見方もあるが、いつまで不動産ファンドなどの物件取得が続くのかその行方が注目される。

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