不動産投資の隠れキーワード「所得二極化」
右肩上がりで日本が高度成長を遂げた頃、総中流化という言葉が盛んに取り上げられた。しかし近年、所得の二極化、アメリカ型の所得階層分化への社会変化が指摘されている。我々の周りでも正社員は減り、フリーターやパートが増え、特に新卒者など若年の雇用環境が悪化している。大企業に就職できても終身雇用性は崩壊し、個々の能力開発という責務を課され、所得保障は薄れている。非正規社員は低所得のまま固定化され、低所得層が上方移動することはますます困難になってきている。内閣府「デフレ下の日本企業」によると、デフレ経済のもと販売価格の低下への対策として実に4分の3の企業が「人件費の圧縮」をあげている。リストラは恒常化し、その不安から大半のサラリーマンは逃れられない。
家計経済研究所の「消費生活に関するパネル調査」に樋口善美雄慶大教授、財務省財務総合政策研究所が行った分析結果が日本経済新聞に掲載されている。分析結果は「所得格差が90年代後半から拡大し、学歴間、企業規模間、職種間の所得格差は97年から01年にかけ拡大している。さらに所得階層は固定化の兆しを見せている。」というものだ。
経済戦略会議は「日本経済再生への戦略」を打ち出し、「過度に結果の平等を重視する日本型の社会システムを変革し、個々人が創意工夫やチャレンジ精神を発揮できるような「健全で創造的な競争社会に再構築する必要がある」と強調し、小泉総理の構造改革はアングロサクソン型競争社会の実現を邁進している。1億総中流化といわれた社会との決別である。
マクロの視点で賃金の動きを見てみよう。「平成15年国民所得白書」は「80年代までは、賃金は名目でみても、実質でみても、ほぼ毎年上昇してきた。しかし、90年代に入ると賃金の伸び率は低下し、98年には名目賃金、実質賃金ともに前年比マイナスとなった。00年には若干持ち直したものの、最近では再び下落している。」と書いている。バブルが崩壊し、世界史的スケールの資産下落といわれた国内の地価下落時も賃金は98年まで微増していたのである。家賃は勤労者所得との相関性が高いが、この事実は、地価下落に比べ賃料が下落しないという賃料の下方硬直性の重要な要因として作用していたといえる。
しかし98年以降は賃金も下落を始めた。日本経済は長引く不況から一部大企業での業績回復など、景気回復基調にあるが、所得格差の拡大と固定化は景気循環のなかでの一過性の現象ではない。高度情報社会、産業構造の高度化、これらを実現する基本エンジンとなるIT化など、労働力の余剰を再生産し続ける。
高度な専門的知識や技能を必要とする職種とそうでないレベルの職種に従事するものを厳しく峻別する社会の到来により一層の階層分化が進むと思われる。今後、高齢化が進行、高負担社会が到来し、低成長経済が持続すると予測されるため、1人当たりの労働生産性の向上が至上命題となり、さらに所得格差は固定化する。
これからの不動産投資は、この予測を前提に組み立てることが重要になる。階層比でみると米国と同様に大半は低所得化し、富裕層の比率は低下する。いまや「年収300万円の時代を生き抜く経済学」なる本がベストセラーになるご時世なのだ。家賃が下落しやすい社会構造へ移行している。総中流化の幻影から抜け出せない中途半端なものは淘汰される。物件を戦略的に選定するか、将来のキャッシュフロー予測に家賃下落リスクを織り込むなどの視点がちょっと欠けている人が不動産投資家にまだ多いようだ。
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