不動産証券化「リースバック」に会計基準のメスが入る
近年、民間企業では、ROA(総資本利益率)やROE(株主資本利益率)など資産効率重視に移行している。不動産市況の不透明感や、地価下落で企業の不動産の含み益は減少しており、不動産を保有するリスクを回避するため、保有する不動産を売却するケースが増加している。特に、収益をもたらさない本社ビルなどをペーパーカンパニーである特別目的会社に売却して、そのまま賃借して使用するセール・アンド・リースバックが目立つ。企業は本業との関連でコアとノンコア部分を峻別し、できるだけ資産を持たない経営に転換している。必要ならリースバックして借りるという発想だ。調達した資金は企業のコア部分につぎ込む。
本社ビルの証券化で有名になったのが99年のNEC本社ビルである。証券化により調達した資金で99年3月期1,500億円を超える連結赤字と有利子負債の削減に加え、証券化される資産のオフバランスにより、バランスシートの改善、ROAやROEなどの経営指標を向上させ、企業評価を高める目的でなされたといわれている。
この手法は民間企業にとどまらず、税収不足で財源難の地方公共団体も県営住宅や工業団地など当該手法による公有地の売却を検討している。98年、神祭川県は、県職員住宅にリースバック方式を採用した。これを同方式で売却し、財政再建団体への転落を回避した。
企業の資産圧縮手法として定着したセール・アンド・リースバック取引であるが、企業会計基準委員会による不動産売却をめぐる会計処理の新基準づくりで俄かに暗雲が垂れ込めてきた。企業会計基準委員会は04年1月にも不動産売却をめぐる会計処理の論点を公表し、指針を作る日程だが、セール・アンド・リースバック取引をめぐり、いかなる要件を満たせば不動産を売却したと認定できるかという新基準論議の行方が注目されているのだ。
セール・アンド・リースバック取引の場合、不動産の単純譲渡と違い売買後に売り手がビルの賃借人として継続使用する。12月18日の日経紙によると賃借契約が長期の場合は、所有者に占有が残る不動産担保による資金調達と実態は変わらず売却として認定できないという意見も専門委員会にはあるらしい。実態は賃借期間を2年区切りにして自動更新を繰り返し長期間使用するというやり方で対応している。
また不動産証券化ではリースバック、優先買取交渉権の付与等の条件を組み合わせることにより、将来的に物件を買い戻したり、使用を継続可能とする。買い手が第三者に物件を売る場合に売り手が売却を拒否できる。といった条件がついている場合が多い。
企業会計基準委員会が売却を認定する根拠としているのは不動産価格の下落による損失リスクが実質的に売り手から買い手に移転しているかの見極めであり、現在の実務指針では、保有不動産を証券化する際、売り手に残る経済的リスクは5%以下でなければ売却として認められないとしている。
12月18日の日経紙によると当初売り手のリスクを5%に設定し、その後投資家のリスクを売り手が段階的に肩代わりしていくという証券化の手法の採用で産業界は現行ルールーをクリアしている。
不動産取引の透明性の向上のため企業会計基準委員会が売却の認定基準づくりに04年初頭にも着手するわけだが、企業会計基準の透明性という世界的要請と産業界の利害との綱引きが始まり、その論議の行方によっては02年に約9兆円達した不動産証券化の市場規模の拡大に思わぬブレーキがかかる懸念もでてきた。
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