J-REITの投資効果を高めるには

■J-REIT規模拡大

J-REITの時価総額は10月現在で約7,400億円ですが、さらに来春までに上場予定の森トラスト、丸紅、野村不動産、住友不動産が主な設立母体になった不動産投信を加えると新たに2,100億円規模が市場に追加されます。これに既存の三菱地所、三井不動産系の投信が投資口をそれぞれ200億円規模、250億円規模で追加計画をしているため、時価総額1兆円に拡大する可能性もでてきました。そうなると「現在、東証1部に上場されている不動産会社25社の時価総額は約4兆円、不動産投信はその4分の1に当たる規模に成長することになる。」(日経10月17日)

さらに日経紙8月2日によると世界最大の不動産会社米シービーリチャード・エリス・グループは賃貸住宅を運用対象とする不動産投信を来春に上場する予定。1,000億円規模の投資法人を作り、賃貸マンション4,000戸を運用。米ゼネラルモーターズグループも専門の資産会社を設立して上場する不動産投信はオフィスビルで1,000億円弱の資産を運用する予定です。

海外の不動産大手がJ-REIT市場に相次ぎ参入すると資産運用の膨大なトラックレコードをもつため、J-REITのさらなる質量の充実が実現し、投資家のポートフォリオに寄与するでしょう。

■1万円から投資可能に

03年夏から1万円で購入できる商品も誕生しました。不動産投信の購入は20~60万円台が必要でしたが、今年7月に投資信託協会が不動産投資信託(REIT)に投資を行うFOF(ファンド・オブ・ファンズ)に関するルールを規制緩和しました。その結果、資金の5%までしか振り向けられなかった不動産投信で無制限(1銘柄30%まで)運用できるようになり、複数の不動産投信を組み入れて運用するファンド・オブ・ファンズが誕生し、小額から買えるようになりました。例えば日興アセットマネジメントは8月に設定した商品で全体の25%を不動産投信で運用しています。また今年の3月末から東証が東証REIT指数の公表を開始し、4月にはJAPANインデックスに2銘柄のREITが新規採用されました。5月に機関投資家の代表的指標であるモルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル(MSCI)の株価指数に日本ビルファンドとジャパンリアルエステイトが採用されましたが、採用の事前観測が流れた時点で、両投信の需給改善期待の買いで5月中に上場以来の高値をつけました。さらに日本投資依託やゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントなどは米国の不動産投信で運用する商品を売り出しました。米市場は国内の30倍の約22兆円、投資対象の殆どはレジデンシャル(住居)オフィス、リテール(小売)から構成され、銘柄数は170で各社はこのなかから30~70銘柄組み入れています。投資対象を多様に分散することでポートフォリオ理論に基づくリスク分散を図っています。

J-REITの投資環境は当初から見ると随分整備されてきました。しかしJ-REITは元本及び分配金等が保証されている商品ではありません。不動産市況も都心部などで底打ちの気配を見せていますが、地価は少子高齢化、産業空洞化に加え、オフィスビルの2003年、2010年問題、分譲・賃貸マンションの供給過剰感など構造的下落要因が潜在しているため、地方や郊外はもとより都心部の地価といえど不透明であることに変わりはありません。投資家は長期金利や税制の動向もモニタリングし、J-REITの投資リスクを充分に理解しておかなければなりません。

今日のコラムでは個人投資家にあまり知られていないJ-REITの投資効果に役に立つ配当利回り以外の指標の見方を書いて見ます。

■J-REITの投資分析

まず、資産運用報告書で組み入れ資産の運用結果をWATCHすることです。ファンドの運用レベルの高低が分配金を左右するからです。投資法人から送られてくる決算書類にはほかに貸借対照表、損益計算書、監査報告書、資産運用報告書などがあります。

●PBR、NAV

株式投資の場合、PBR(Price Book-value Ratio:株価純資産倍率)という指標があります。株価を1株当たり株主資本(純資産)で割ったもので、企業清算を想定した場合、1株当たりの株主の取り分に該当します。資本金に資本準備金等を加えた純資産を発行株式数で割り、BPS(1株当たり純資産)を求め、株価をBPSで割ったものがPBRになります。
    
J-REITではBPSに該当する一口当りNAV(Net Asett Value:純資産価値)と株価を比較します。つまり「純資産額」は、ファンドの持つ不動産などの総資産から借り入れや投資法人債などの負債を控除した自己資本で、これを発行済み投資口で割ったものが一口当たりの純資産額になります。

J-REITも株式投資と同様にPBR(株価÷NAV)を見て株価が資産価値に比べて割安か割高かを判断しています。 一口当りNAVは各ファンドのサイトの財政状態等の欄や証券会社のホームトレードのサイトで調べることができます。

●PER

株式の場合、株価を1株当たり税引き利益で割ったPER(Price Earnings Ratio:株価収益率)で株価が1株当たり利益の何倍まで買われているかを分析します。株価収益率が高ければ株価が割高であり、株価収益率が低いほど、株価が利益に対し相対的に低いことになります。

J-REITも株式と同じようにPER(株価収益率:株価÷一口当たりの利益)を求め、他の銘柄と比較し投資の参考にします。例えば三井不動産系の日本ビルファンド投資法人のPERは24.1です。ファンドの利益は分配金の増加と相関します。

●FFO(Funds From Operation)

FFOは不動産投資信託が賃料収入からどれだけのキャッシュフローを得ているかを示す指標です。ファンドが保有する不動産の売却による売却損益も発生しますが、不動産の流動性が低いため保有不動産売却により収益率を高めるというファンドの運用スタンスは考えにくいため、投資家が得る配当・分配金の源泉はファンドを組成する保有不動産からの賃貸収入に依存します。つまり不動産投資信託では投資家への分配金の原資であるキャッシュフローが重要となります。キャッシュフローの動向で成長が期待できるとファンドの評価が高まり、株価も高くなります。

FFOは、米REITで利用されることが多い指標で、ファンドの最終利益から不動産の売却に係る損益を調整し、減価償却費を加えたものです。株価を一口当りFFOで割った株価FFO倍率は、PERと同様にJ-REITが不動産賃貸が生み出すキャッシュフローの何倍まで買われているかという分析を可能にするため株価の割高・割安を判断できます。

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