死蔵邸宅の再生 ハウスウエディング

経営難に陥った有名料理店、旧華族の邸宅、リストラで閉鎖された社宅、工場倉庫など全国でその役目を終えた死蔵物件がベンチャー企業により、華やかな挙式場として生まれ変わろうとしている。

立役者のハウスウエディング各社に共通するのは「眠っている資産は時代のニーズに応じてプロデュースすればよい」という身軽な感覚だ。「欧米の映画のワンシーンに出てくるイメージ、新郎新婦が自分の邸宅のように丸ごと貸切、映画のヒロインになったようなドラマチックな演出」それがコンセプトである。

例えばベンチャー企業インターナショナル青和株式会社により、ハウスウエディングとして再生した小笠原伯爵邸は、昭和2年に建てられたスペイン様式の歴史的な建物で、スパニッシュ瓦や掻き落し仕上げの外壁、そしてタイルの壁面装飾、噴水がある中庭など上品で華麗な雰囲気を醸し出している。デザートタイムにはガーデンに出て外気に触れ、邸宅と庭園が織り成す優美なフォルム、風と光を直接肌に感じる開放感がホテルや専門式場での閉鎖されたスペースでは味合うことができない魅力となっている。

洋風邸宅ばかりでなく趣がある(故)有名人の由緒ある和風邸宅もターゲットとなっている。

京都・東山。五重塔のほど近くに日本画家竹内栖鳳の旧私邸「東山艸堂」がある。周辺は古い家並みと石畳の道に囲まれ、市条例で街並み保存地域に指定を受ける京都屈指の観光の名所。長らく未公開だったこの建物が今秋、結婚式場に生まれ変わる。

邸宅風の建物で挙式、披露宴を開く「ハウスウエディング」運営で急成長しているベンチャー企業プランドゥシーは、「東山艸堂」の地主と定期借地契約を締結。約4,300平米の敷地内に点在する日本家屋は、栖鳳が当時使っていた趣を残しつつ、チャペルや宴会場に改修する。古都の風情と現代の融合、ミスマッチがウリという興味深い挙式場が誕生する予定だ。

邸宅風の結婚式や披露宴を企画・演出するウエディングプランナーがテレビドラマに題材として登場して以来、プランナーに憧れる希望者が増加し、学生にもハウスウエディングの認知度が急速に高まった。例えばプランドゥシーには、5,000人を超える応募者が応募し、内定したのは10人だった。

リクルートの結婚情報誌「ゼクシィ」の調査によると新婚夫婦の6割が挙式で「アットホームな雰囲気になること」を重視。同様に「列席者に退屈させないことや自分らしさを表現できること」が重要な関心事になっており、従来型の同一企画に基づく大量生産方式の没個性型挙式では時代のニーズに合わなくなっている。ハウスウエディングは、非日常的な優美で華麗な空間の貸切と、オリジナリティに富んだ演出の提供を可能にするので、個性的であることを重視する新世代のウエディングとして急成長している。つまり事業の成否は独自性をどこまで打ち出せるかにかかつている。個性的な結婚式を演出する企画提案力が客単価を上昇させ、さらに顧客の要望に応じ特注プレゼント、衣装を手配する付帯商品が売り上げ増につながるからだ。

厚生労働省の調査では過去10年間の婚姻件数はホテルや専門式場が主流となっている地域がまだ多く、毎年70~80万で推移。全国平均で300万円程度の挙式単価と掛け合わせると、毎年2兆円以上の需要が存在する計算だ。ホテルや専門式場が主流となっている地域はまだ多く、ハウスウエディング各社の事業拡大余地は小さくない。

しかし、晩婚化に加え、少子化の影響はこの業界にも忍び寄っており、結婚適齢期の人口は5年後から減少し始める。新規参入や価格競争の激化が予想されるが、他の追随を許さない強固な事業基盤を急速に固められるか、低コストでの出店方式が確立できるかに事業の成否がかかっている。

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