不動産投資市場の変化

1、賃貸住宅市場の変化

賃貸住宅市場は、土地神話の終焉により、賃貸に対する居住者の意識変化が進み、また少子化による長男・長女化による親の資産を相続するストック世代増加で、持ち家の需要は減少しており、ハウスメーカーをはじめ不動産各社は賃貸用物件に事業をシフトし、積極的に供給を続けています。

日本土地建物は東京都渋谷区で外国人向け高級賃貸マンション、川崎市で定期借家制度を利用したファミリー向けの戸建ての賃貸住宅を相次ぎ供給し、立地や市場動向に応じた商品供給で顧客の多様なニーズに応えるとともにリスクの分散を図っています。

いままさに低金利に建築費の下降と賃貸住宅市場、特に供給サイドは追い風が吹いています。大手・中堅不動産各社は、賃貸マンションを中心として組成した不動産投資ファンドへの売却を前提として供給を増加させ、大手ハウスメーカーも新商品開発や土地保有者のアパート経営に伴う資金やリスクを回避する仕組み作りを試み、戸建てから賃貸分野にシフトしています。

個人の金融資産が国内株で運用する投資信託などへ一部流入し始めており、安全志向の高い個人マネーにも変化の兆候が見え始めました。米国の経済回復頼みとはいえ国内のここにきての株価の急回復が背景にあります。しかし懸念されるのは、国債など債券価格の下落で長期金利は急上昇、低金利下でレバレッジ効果を上げたきた銀行借り入れによる不動産投資にマイナスに作用するでしょう。さらに、賃貸住宅は供給過剰気味であるため、立地、商品開発力や設備、築年などで見劣るアパート、賃貸マンションのなかには、賃料を下げても空室の増加が止まらない物件も見られ、まさに賃貸市場は競争と淘汰、弱肉強食の戦国時代に突入していると言えます。

需要サイドでは、企業業績は一部で回復してきたものの、その影の部分として、リストラ、賃金カットなどで勤労者所得は低下傾向がここ数年で鮮明となっています。賃借人の所得低下が進行、今後、少子化などの影響で税負担や保険料などが高負担になってくるのと並行して従来の賃貸住宅に対する不満率は高まっています。設備、築年による老朽化がその代表的なものですが、賃借人の家賃負担能力の劣化が進むと物件を選別する借り手の目はさらに厳しさを増すでしょう。

いままでの間接金融から直接金融へ、不動産の証券化が進行していますが、SPCのようなペーパーカンパニーに敷金を払うことにテナントは抵抗を示すでしょう。元機関投資家の山内正教氏は著書「考察不動産投資としてのビル事業」で「不動産がこのようなSPCに売却される際は、前ビルオーナーが預かつていた敷金も同時にSPCに移転されることになるが、この際、SPCがペーパーカンパニーであることを理由にしてテナントが敷金の移動を拒否することは充分にありうる」と懸念を書いています。加えて2003年問題でオフィスビルが深刻な供給過剰状態であり、テナントの引き抜きや、テナントの入居時のフリーレント、内装工事のオーナー負担も常態化しています。今後、敷金が存続する可能性はさらに弱まるでしょう。

短期賃借権の保護制度が、03年7月25日の法律改正により廃止されました(改正後1年以内に施行)。これは所謂、占有屋など不動産執行を妨害する輩を閉め出し、不動産競売が円滑に進むことを目的とした立法ですが、ビルのオーナーが融資などで抵当権設定を受けた後に入居したテナントは短期賃借権で保護されることがなくなったため、これから賃貸住宅を借りるテナントは、突然、、賃借ビルが競売にかかつて新家主から明け渡しを求められるおそれがでてきました。特に店舗テナントは改正法でリスクが拡大するため、賃貸借契約の際に事前確認で登記簿を厳重にチェックし、抵当権など担保権の有無とオーナーの財務調査が通例になるでしょう。

賃貸借契約時の保証人不要も増加しています。8月27日の日経産業新聞は、「長谷工ライブネットは今秋、オーナーから借り上げて管理を請け負うサブリース方式の賃貸マンションを「保証人不要」に改める。社会構造やライフスタイルの変化で入居者が保証人を見つけにくくなっている。保証代行会社を新設し、入居者に一定の手数料を支払ってもらう方式に切り替え業務を効率化する。同社は東京、大阪を中心に約2万戸の賃貸マンションを管理している。このうち約1万戸が転貸目的で借り上げて管理や入居者募集を行うサブリース方式、残りはオーナーと入居者の直接契約を仲介する方式、このうち「保証人不要」はまず、まずサブリースの1万戸に適用する。賃貸マンションの「保証人不要」は三井不動産グループなども導入しているが、関連業務をクレジット会社に委託するケースが殆ど。自前で保証代行会社を設立し、大規模展開するのはあまり例がない。保証の条件設定などで融通が利くと判断し、自社で設立した。」と報じています。敷金、保証人不要はかなり現状でも進んできていますが、さらにこの傾向は借り手市場を反映して加速すると思われます。

日本の長期的地価下落は、中国版プラザ合意ともいえる「元の切り上げ」があれば中国に生産拠点を持つ多くの日本企業に「メイドインジャパン」への回帰を促すかもしれません。9月8日の日本経済新聞は「ホンダは社内の試算で元が3割上がると中国からの2輪車輸出を再検討するという結論に達した」と書いています。しかし、元の切り上げ時期や幅は不透明だし、国内の地価下落の構造要因と指摘されている少子化高齢化や産業構造のサービス化、IT化への転換で地価下落の基調は依然として続くと思われます。投資家は保有物件や候補地の将来予測、地域分析をし、その結果、今後、競争激化、地域の衰退が予測され、キャッシュフローが悪化すると予想される不採算賃貸物件を抱えるオーナーは、可能な限り、資産を組み換えることを考えるべきです。

いままでの土地の資産価値上昇に依存した不動産投資は、長期保有(Buy&Hold)が大半でしたが、今後は低経済成長下、資産価値が減少していくため不動産ポートフォリオ運営は、リアルタイムの投資効果のモニタリングと将来予測を視座としたポートフォリオの入れ替えを行うべきと思います。

2、進化する不動産投資

新たな不動産投資を考えているオーナーは、投資効果を他の投資不動産、J-REIT、債券、株式、金融投資商品などと比較して投資パフォーマンスをシビアに分析しなければいけません。といっても不動産投資の場合、他の金融投資商品とパーフォーマンスを比較する指標がありませんでした。 不動産投資の場合、株式市場におけるTOPIXのような市場全体の動きを見れる指数がありません。

米英ではNICREIF(米)、IPD(英)などの不動産投資インデックスが活用されていますが、日本の場合、各社各機関で不動産投資インデックスが作られているものの国内の不動産投資市場は取引件数が少なく、賃料収入、売買価格の公開例が僅かであるため、地域、用途、グレード、時系列などかなり細分化されて使えるレベルのものが現時点ではありません。さらにオフィスビルが主体で賃貸住宅はデータも極めて乏しいようです。しかし国土交通省も不動産の情報化、不動産情報のディスクロージャーを積極的に推進するとしており、昨年、不動産投資インデックスのガイドラインを公表しました。不動産投資インデックスの整備が加速する環境は整備されてきています。

不動産インデックスの各指標の基本式は、

【基本式】

  • 総合収益率=単年度インカム収益率+単年度キャピタル収益率
  • 単年度キャピタル収益率=年間純収益÷期首資産価格
  • 単年度キャピタル収益率=(期末資産価格-期首資産価格)÷期首資産価格

で表されます。

不動産投資家が投資を行うかの意思決定を行う場合、株式、国債、その他金融投資商品と比較検討します。投資家がどの投資商品にどれだけ資金配分(アセット・アロケーション)するかの決定には証券などの市場の分析データと同様の手法で計算された分析データが必要であり、投資不動産市場の動向を反映した不動産投資インデックスが必要とされます。またすでに不動産投資を行っている場合は、投資結果を事後的に評価するベンチマークとなります。さらにはDCF法の適用の際にその性格は若干違うものの実態の反映という視点から割引率、還元利回りの測定の重要な指数になり、NPV(正味現在価値)やIRR(内部収益率)の精度が向上することが期待されます。

例えば(社)日本不動産鑑定協会調査研究委員会編「収益還元適用における利回り」の一部を引用要約すると「ファイナンス理論におけるマーコビッツの平均分散アプローチ(リスクリターン分析)を応用し、無危険資産の収益率と(リスクフリーレート)と個別銘柄(投資対象)の収益率の差をリスクプレミアムとし、投資対象の収益率が市場ポートフォリオ収益率(不動産投資INDEXの全国指標等を用いる)という単一のインデックスに感応する感応度を数値化したベータ値を導出して割引率を査定する」手法なども考えられます。

さらに不動産投資理論の精緻化には収益不動産の取引事例の蓄積も重要になります。割引率や還元利回りの算定に活用できるのは当然として、成約、募集賃料データをデータベース化することにより、重回帰や数量化などによる統計解析で投資物件の家賃、IRRを求めることが可能になります。統計解析で求められた値はそのまま使えないので個別修正してDCFに使うことにより投資効果測定の精度が高まり、情報の加工化により曖昧で閉鎖的だった不動産投資が合理的、科学的に分析され、不動産の流動化や市場の拡大にさらに寄与するでしょう。

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