流動化する賃貸マンション / ファンドの積極活用

1、賃貸マンション流動化の背景

首都圏の分譲マンションも販売に陰りがでてきた。

不動産経済研究所が12日まとめた11月の首都圏のマンション新築発売戸数は前年同月比0.4%減の7,801戸だった。超高層や大型物件が少なく、2ヶ月ぶりのマイナス。同研究所は当所1万戸前後の大量供給を予測していたが、「モデルルームへの客足が鈍化して各社に慎重ムードが広がった」と分析している。月末在庫は10,778戸、1年前よりも10%以上膨らんだ。月間契約率は73.9%で前年同月比2.1ポイント上向いた。12月の予想発売戸数は7,000-7,500戸。通年ベースでは87,000戸となる見込み。(日経産業12.13)

分譲マンションの場合、購入後の値落ちが大きく、長期の住宅ローンを抱え込むことは、雇用不安、賃金デフレと日本経済の先行き不透明感があるため購入意欲が低下している。

生活拠点を移動せざるを得ない状況になったとき、中古マンションを売却することは難しい。マンションを保有することは、ライフスタイルや仕事に合わせて生活空間を移動できず、生活拠点をいわば固定化してしまう覚悟がいる。

住宅を資産として所有するというマイホーム信仰が、長期に亘る地価下落により崩壊したいま、ライフスタイルや仕事に合わせ生活空間を身軽に移動できる「積極的賃貸派」が確実に増えている。少子化による長男・長女化により親の資産を相続するストック世代増加で一時的にでも住宅をほかで所有する必要性が少なくなっているともいえる。

このような賃貸需要増加を背景に大手、中堅不動産各社の賃貸マンションを中心とする不動産投資ファンドへの売却を前提とした賃貸マンション開発が拡大している。さらに当該ファンド等から、これら賃貸住宅のAM(アセットマネジメント)・PM(プロパティマネジメント)業務を受注し、収益性・資産価値の向上に努め、フィービジネスの分野を拡大する。不動産投資ファンドは投資家から資金を集め、投資法人やSPC(特定目的会社)などを通じて不動産に投資。賃貸料や売却益を投資家に分配する。不動産会社は一括売却することで開発資金負担を軽減し、不動産のキャピタルロスのリスクを回避し、管理など周辺収入の拡大を図れる。想定利回りが年5~7%程度と高いため、低金利下で資金運用に悩む投資家を呼び込めるとみている。

いわゆる「富裕層」と言われる個人投資家は、ペイオフ解禁などで積極的な投資姿勢を強めている。これら個人富裕層の一部が不動産投資に積極的な背景には、長引く低金利政策により、行き場を失った余剰資金の存在がある。投資用不動産の評価手法として収益還元法が定着し、値上がり益でなく収益性を月々のキャッシュフローベースで判断するようになった不動産投資は、個人投資家にとって比較的安定した数少ない長期投資の対象となっている。富裕層と呼ばれる個人投資家を中心とする投資資金の運用先として、賃貸マンションを中心とする不動産ファンドは、彼らのニーズに合致するものであり、不動産各社のこの部門への事業拡大の牽引役となっている。

2、不動産各社の流動化動向 

  • 東京建物は世田谷などでファンド向け賃貸マンション開発を開始、年間200―300戸程度を供給する方針。さらに低稼働率で収益が上がらない賃貸マンションをSPCをつくって物件を買い取り(東京建物はそのものはマンションを買わないので、投資リスクはSPCへの出資分に限定される)、東京建物グループがリニューアル工事、管理体制改善、入居者募集に取り組み、付加価値を上げて3年以内に売却し、期待投資収益率で20%台の投資利益を目標に回収する。SPCは子会社の東京建物不動産販売が組成、アジア、欧州の機関投資家などから出資を募り、返済財源の一部にノンリコースローンを活用した。東京都内にある中古賃貸マンション3棟を10億超で購入した。総戸数は91戸で、築年数は17年前後、建物自体の状態はまずまずだが空室率は20%程度という(日経産業11.19)
  • リクルートコスモスは、新宿で着工する15階建て、51戸の賃貸マンションを不動産ファンドに売却する。同社のファンド向け売却物件の第一弾。50平方メートルの2LDKを中心に、夫婦や単身者の入居を見込む。04年初めの完成予定で、開発費用は約15億円。今後も港、渋谷などで開発する方針だ。
  • 分譲マンション中堅のジョイント・コーポレーションは01年度にファンド向け賃貸マンション供給を開始、02年度は前年度比約7割増の474戸、04年度に1,300戸に増やす計画。系列証券会社を設立、9月をメドに個人投資家向けの不動産ファンドも自ら設定する。販売地域を需要が多い東京都世田谷区、目黒区などに限定。冷暖房を完備し、低層部分には人気ショップを入居させることで差別化を図る。02年度中に100億円の資産規模を目指す。
  • 新日本建物は、賃貸用に運用されているマンションを1戸単位で買い取り、一定期間後に転売する。通常は物件1棟単位の売買だがファンドの投資対象は、現在居住者がいる物件に限定し、賃料収入で物件の値下がりリスクを緩和する。ファンドは当社の完全子会社スター・マイカが運営する。個人や機関投資家から私募形式で約30億円集め組成した。新日本建物は独自基準で物件ごとの評価額を査定。その3割程度低い額で買い取る。物件保有期間は1年程度。一定期間経過後、入居者が退出した場合は内部を改装して転売する。入居者が居住を継続する場合は、賃借人居つきのまま転売するほか、利回りの良い物件は保有を続ける。賃料収入と物件の売却益をあわせた運用利回りは年20%程度見込む(日経10.02)
  • 三菱商事は開発型証券化の手法を活用し、賃貸ワンルームマンションを開発、不動産ファンドなどに売却し、保有リスクを減らす。SPCを設立、三菱商事は約10億円の出資金を負担、その後SPCが社債発行や借り入れを実行。約20億円を調達。ワンルーム完成の約1年後に不動産ファンドやREITに売却する。第一弾は東京・恵比寿で10階建、総戸数70戸、うち60戸を専有面積30㎡のワンルームにする。総事業費30億円、03年12月竣工予定だ。都内を中心に今後も積極展開予定。このような賃貸マンション流動化の動きは東京都心部にとどまらない。大阪や九州の福岡でも地場不動産会社による事業展開が見られる。
  • フジ住宅が地盤の大阪市を中心に、賃貸マンション開発用地を仕入れファンドに一括販売する。来年度から供給を始め、不動産投資ファンド向けの賃貸マンション販売事業を大阪市内に限定し、1棟当たり100室が標準モデル。1棟10億円の売り上げを見込み、04年3月期には20億円の売上高を目指す。近畿圏は首都圏より景況感が悪く、好立地も少ないと見られるため予想利回りを首都圏を意識して7%に設定した。
  • 福岡のディックスクロキは福岡市内の賃貸用マンション4棟を購入した。SPCをつくりSPCが出資する形でファンドを設立。当社はマンションについて信託契約を結んだ信託銀行から受け取った信託受益権をファンドに約27億円で売却することで売却益を得る。さらに信託銀行からマンション4棟の管理業務を受託する。徐々にファンドを増やし、2~3年後合計資産規模が200億円まで拡大した段階で各ファンドを組み合わせて1銘柄の不動産投資信託として上場予定である。(日経03.22)

3、賃貸マンション流動化の課題

「賃貸需要は拡大基調で、土地所有者も資産の有効活用でアパート経営に注目し、2~3年は年率10%強の利益成長が続く(いちよし経済研究所栗原昭展アナリスト)」という見方もあり、デベロッパーも10年先までの需要を先食いしていると言われる分譲マンション大量供給の反動で販売に先細り懸念が漂いだしたため、住宅に対する賃貸志向の高まりの意識変化を捉える形で賃貸マンション開発に事業をシフトさせている。自らは保有せずファンドを活用して保有リスクを回避しており、またオフィスビルのように2003年問題など需要を悪化させる当面の要因はない。総務庁の98年調査では東京23区内の賃貸住宅のうち築10年以下の物件は39万戸と約20%で建築年数の浅い都心部の物件が不足しているというデータも追い風だろう。デベロッパーにとって小口で販売する分譲マンションと違い粗利は分譲マンションより数%低いが、宣伝広告に伴う販売費用や人件費が不要という事業経費の身軽さのメリットもある。

しかし正式の統計はないが、例年、東京都内で1万戸強の賃貸マンションの供給があるが、東京カンテイによると首都圏の新築ワンルームマンションの新築戸数は02年で6,000戸を突破する。06年から少子化で確実に国内人口は減少を始める。供給が加速する賃貸マンションの需要の持続性には疑問符が付く。さらに米国型の所得の二極化、ITとグロバーリゼーションによる物流、生産要素をはじめ低賃金を主要な要因として企業は熾烈なコスト競争を今後、加速させる。長期的賃金の低下傾向は、賃貸層に色濃く反映されるだろう。いままで商業地に比べ緩慢だった住宅地の地価下落は所得低下により大幅なものになるという予測がある。同様に住宅賃料低下リスクは大きい。また金利上昇局面では、賃貸マンションの利回りの商品性を劣化する。供給が増えれば、限られた市場のなかでの新築賃貸マンション同士さらに既存賃貸マンションとの競争は熾烈になる。駅や都心への接近性といったロケーションはもとより、建物のハード、ソフトの両面での優劣・差別化の勝負になる。

賃貸マンションの利回りを考えるとき長期的視点が欠落している。高利回りでも建物の減価や再投資額(修繕費)が大きいと最終的平均利回りは低下する。構造躯体の耐久性はRC造の場合、コンクリートの強度で100年以上の耐久性を持たせるのが理想。100年マンションで使用するコンクリートは、日本建築学会「建築工事標準仕様書」により定められたコンクリートの耐久設計基準強度の「長期」を採用(30N/mm2:1㎡あたり約3,000トンの圧縮に耐える強さ)する。内装、設備については改装や間取り変更を可能とするSI住宅にするとか、SIまではいかないまでも設備配管を共用部分のみで取替え可能にするなどの工夫が必要。

ソフト面では広いバルコニー、インターネットなど配管ルートの確保、宅配ロッカー、可変式間仕切り、浴室乾燥機、多機能収納、セキュリティシステム(TV画面付インターホンとオートロック、防犯監視カメラ、24時間管理警報システムなど)建物周辺やエントランスのガーデニングなどによる差別化がある。

ライフサイクルへの適応は、賃貸住宅のうたい文句だが、現実の供給物件は、商品として利回りを重視するためワンルームから2LDKどまり、30~50㎡の狭い住空間であるが、欧米の賃貸住宅に比べ明らかに狭く、ファミリータイプが供給されない。さらに高齢者の賃貸住宅入居は困難である。また高齢者の入居を受け入れる優良賃貸物件も少ない。

政府の整合性のある住宅政策が不在のまま30年足らずでスクラップアンドビルドを繰り返してきた欧米に比べ短命な戸建住宅、すでにスラム化し、建て替えの道筋も立たず増え続ける老朽マンション。事業者利益と投資利益ばかりを追求するこのビジネスモデルだが先で破綻する懸念が大きいのではなかろうか。

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