豚インフルエンザと株価

「豚インフルエンザ」なるウイルスが世界経済の先行きに不気味な影を落とし始めた。冬季限定で流行する季節性インフルエンザと異なり人に免疫力がないので世界的に大流行する恐れがあるそうだ。メキシコで感染が確認等された死者は4月28日時点で159人に達した。1918~1919年頃流行したスペイン風邪も新型ウイルスが原因で4,000万人が死亡したが、その戦慄の歴史が蘇ってくる。

メキシコでの死者が多いのは、医療事情が悪いのか?病原体の毒性が違うのか?その辺の事情がまだ明らかではない。この新型ウイルスを退治できるワクチンが市場にでるまで4~5ヶ月はかかるそうで、現状ではすでにあるタミフルやリレンザなど抗インフルエンザ薬で治療するしかない。

すでにメキシコ以外での感染者が、米国、英国、カナダ、スペイン、イスラエル、ニュージーランド等で相次いで確認されており、もう世界中にウイルスが拡散しているかもしれないのだ。各国は躍起になって水際防止作戦を張り巡らしているが、グローバルにヒトとモノが瞬時に移動する時代を迎え、新型インフルエンザの世界的蔓延をどこまで防ぐことができるのか、世界中で不安が高まっている。

このような事態を迎え、世界保健機構(WHO)は、27日に豚インフルエンザの世界レベルの警戒水準をフェーズ4に1段階上げた。日本政府も28日に麻生首相を本部長とする対策本部を設置、水際対策の徹底を号令した。このところ世論調査の内閣支持率が上昇している麻生総理はやる気満々に見える。麻生総理の支持率はさらに上がるかもしれない。

豚インフルエンザが原因で地球規模でのヒトの移動制限や現地での経済活動などに障害が出てきている。日産自動車などはメキシコへの出張を禁止した。サントリーは現地工場の操業を27日から5月3日まで停止する。外務省はメキシコへの不要不急の渡航を延期するよう求める感染症危険情報を提出した。国内企業は、出張自粛を全世界に広げ始めている。

不謹慎だが、このような事態で上昇する株価がある。繊維株や薬品株だ。抗ウイルスマスクを手掛けるシキボウ、ダイワボウの2銘柄はこの2日間で値を飛ばした。例えば、シキボウは、28日の東証銘柄の上昇率上位でトップとなり40.32%上昇、27、28日の2日間では85%高となった。タミフルを販売する中外製薬も同16%高となった。

一方、航空会社や旅行会社、ホテルの株価は、売られることになる。航空各社はメキシコ旅行のキャンセルが増加するので世界的不況で落ち込んだ航空需要の一段の落ち込みを警戒する。中心温度71度以上で加熱すればウイルスは生存できないとはいえ米食肉業界を豚肉需要の減少が襲うかもしれない。世界的規模でヒトや物流の流れが停滞するという懸念から27日にNY市場でエネルギーや資源株が売られ、28日には日本でも素材関連が冴えない動きとなった。

さらに、豚インフルエンザが猛威を奮い、全世界で感染者が急増し、経済活動がマヒする事態に発展すると、個別の銘柄で一喜一憂するどころでなくなる。100年に1度の不況をもたらした金融危機にダブルパンチとなって経済成長率を下振れさせ世界経済に大打撃を与えることになりかねない。

各国の果敢な金融、財政対策や景気刺激策のオンパレード、企業の必死の在庫調整でやっと景気も戻り基調へ向かい始めた矢先だったのに新たなリスクを抱えることになってしまった。100年に1度の金融危機で満身創痍の世界経済に豚インフルエンザのパンデミック(世界的流行)が襲う最悪のシナリオに陥ると統計学的には数万年に1度とされる大恐慌がバージョンアップして再来する可能性を視野に入れなければならない。

従来の統計学とそれをベースに構築された金融工学では、極めて例外的な可能性でしか発生しない資産価格の暴騰や暴落だが、正規分布ではなく自然現象下で普遍的に観察される法則性(ベキ分布)では発生確率が高くなるという経済物理学の研究成果がいま注目を集めている。

ここまで書くとなにやら不安を煽っているようなので、「過剰に不安にならずに冷静な対応を」と巷間に言われている戒めをフォローしておく。幸いなことには、現段階では感染してもメキシコ以外では比較的軽症で済んでいるという情報が流れている。この段階で予断を許さないが、一部の繊維・薬品株が一時的に市場で材料視され賑わって、一件落着するような流れになりそうな気もするのだが…。

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