競売評価のシステム化
住宅新報社「月刊不動産鑑定」に掲載されたものです。
■はじめに
競売評価は民法、民事執行法、不動産登記法、行政法規など法律分野をはじめ建築、土木などから日常生活常識に至るまでの幅広い知識を必要に応じて融合し、コアとなる評価額をはじきだすのであるが、その全プロセスにおいて、相当部分は評価人の経験、知識にかかる総合判断であり、この領域は、評価人の頭のなかに構成された小宇宙ともいうべきもので、残念ながら、現在のコンピュータテクノロジーでこの混然とした融合体をカバーするには限界がある。
しかし、競売評価において評価書作成は画一的、機械的に処理可能な側面が多く、また評価の各レベルでコンピュータを活用することは充分に可能である。しかしながら競売評価は、評価書の様式が各裁判所によって異なり、各事件ごとに記載内容も変化に富み、パターン化するのが困難なため、評価書などをコンピュータで処理するのにあまり馴染まないためか業者の専用ソフトも乏しく、鑑定評価のなかでもOA化の遅れている分野といえる。
以上の環境、動機から競売評価のコンピュータ活用を思いたった。競売評価にコンピュータを活用する場合、以下の作業項目のOA化が目標となる。
- 裁判所指定フォ-マットに適応した評価書への文章入力と数値の自動演算ならびにシュミレ-ション
- 建物間取図などのCADによる作成と床面積数量の計算チェック
- 評価書の各データにつき公法規制抵触有無などの自動チェック機能
- 競売評価先例のデータベース化
上記の各項目のOA化につき当事務所は、昨秋からシステム開発に取り組んできた。開発言語VBを核にEXCEL、ACCESSの機能を利用。またVBプログラムのかなりの部分を Windowsの特色である各コントロールのイベントでプロシージャをはしらせるため、コーディングが楽で、比較的短時間(約2ヶ月程度)でシステム構築がほぼ完成。所員のスキルの程度と関係なく、数値データ等を伝達するなどで簡単、迅速に評価書作成が可能となった。まだ総じて満足のできるレベルには達しているとは言い難いが、この分野におけるコンピュータ活用の参考になればと思い、当事務所の競売評価システムの概要を以下に紹介し、現状における課題などを論じてみたい。
1、競売評価システムの構成
当所の場合、裁判所指定の様式がマンション用と、戸建住宅用に大別されているため、評価支援システムもこの分類にしたがった。
(1)マンション評価のファイルとデータ入力フォームなどの構成
a、評価書作成ファイル
当該ファイルで作成された各事件の評価書は、データのみ格納された各事件データファイルとして保存。評価書作成ファイルは文章、データなど入力するための下記のフォームなどで構成される。
- メインフォーム
- 物件データ入力フォーム
- 基本データ入力フォーム
- 価格データ入力フォーム
- 文章入力フォーム
- 印刷設定フォーム
- 公法規制などの自動チェックシート
- データベース転送シート
- メンテナンスシート
システム起動後に表示され、コマンドボタンで下記の各フォームなどへ移動
マンション名、住居表示、専有面積など物件固有の属性情報
公法規制、建物仕様、設備、管理会社などの情報
土地標準価格、建付減価、建物再調達原価、現価率などの価格査定基礎数値
近隣の概況、建物利用状態などの文章部分
ページ数、印刷部数などの指定、印刷
公法規制抵触の有無など自動表示するシート
評価書DATAを競売評価先例データベースファイルへ自動転送するシート
評価人会や、裁判所協議による各評価標準指標値などのメンテナンス
b、競売評価先例検索ファイル
- 先例検索フォーム
評価先例の検索、抽出
c、競売評価先例データベースファイル
(2)戸建住宅評価(住宅以外の用途やその他類型にも適用可能)のファイル、データ入力フォームの構成
a、評価書作成ファイル
当該ファイルに属する各フォーム、自動チェックシートなどは、マンション用と比較し、評価書様式が異なるため、入力データ等は異なるが、その構成や、各フォームなどがシステムに有するする位置づけは変わらない。
b、 競売評価先例検索ファイル
c、競売評価先例データベース
ファイルはマンション用と共通である。
2、競売評価システムの対応状況
(1)評価書のフォ-マットに適応した文章入力と自動演算
コンピュータによる文書作成の見地からみても、マンション評価(評価内容が比較的にパターン化しやすいため指定評価書様式で処理が容易)、それ以外の類型評価(土地、自用の建物およびその敷地、貸家及びその敷地などで、指定様式の制約下において、事案による内容が多種多彩でパターン化し難く、処理が困難)に分類される。
まず、マンション評価から紹介する。文章作成(土地の概況、建物の状況など)は、新規入力文章をVBユーザーフォームでデータベースに登録する。登録された類似の文章入力は、類似文章を抽出後、文章修正で行う。数値演算(この辺は業者の地価公示ソフトでお馴染みのもの)は、EXELを使用し、計算結果をVBで制御する。データ入力の各インターフェースは、フォームやワークシートにコントロールを配置し、集約化しており、入力は、コンボBOXやリストBOX、スピンボタンなどにセットされた各データのクリックが大部分(用途地域や建物の仕様など)である。データの種類、範囲が多岐にわたるためTEXTBOXからやむなく入力する部分についても入力規則の設定(例、建蔽率、建付減価率などで一定範囲内の数値以外はエラーメッセージではじくなど)、入力ガイドの自動表示をすることで、誤入力をチェックし、防止するようにした。また付帯費用その他で評価人協議による標準値などが存するものは「標準値入力ボタン」のクリックで一括入力ができ、これらの数値のメンテナンスも随時可能とした。シュミレ-ション機能も、各数値の入力と同時並行で同一画面に評価の全プロセスの計算結果を一覧で瞬時に表示するようにしたので、リアルタイムで、どこに問題点があるか究明可能である。
マンション評価以外の類型は、物件の物的状況に特殊性のあるものや、敷地権利、占有状況などが件外物件も含んで複雑に錯綜しているものなど事件によって評価内容にバリエーションが多く、指定評価書様式にすべての事件を対応させて処理作成できるシステム構築は相当の時間を要する。当面は、事件10件のうち7件ぐらいまでの対応可能を目途に評価パターンを絞った。組み合わせパターンが多いものや案件が複雑で対応困難なものは、システムの非対応部分をその都度修正して処理している(自社開発のため対応が比較的容易)。今後は修正を要しない事件の割合を100%に接近できるようシステムの手直し、追加をしたいと思っている(マンション評価については、現在のシステムで100%対応可能である)。データ入力、その他についての内容は、マンション評価とほぼ同一である。
(2)建物間取り図などのCADによる作成と床面積数量計算
これは、既にあるCADを使用。現地での間取り作成は、方眼紙に鉛筆で書き込み(この段取りが一番効率的)、デスクワークで、CADのグリッドを方眼紙と同一サイズに設定。清書ならびにCADの計算機能で床面積数量のチェックなどをする。当所のCADの能力は計算精度にやや難があるがチェック機能程度は有する。
(3)評価書の各データにつき公法規制抵触有無などの自動チェック機能
評価書の補助機能として、基準容積率、建蔽率などの超過、道路斜線違反など一定係数のセットで抵触の有無を把握可能なものは、評価書にすでに入力済みの各データに基き、自動チェックし評価書のチェックシートに自動表示するようにした。今後の課題として、登記関連データ、その他をチェックシートにセットすることで法定地上権の成否をはじめ占有パターンなどをある程度のレベルまで判断できるプログラムを考慮中である。
(4)競売評価先例のデータベース化
すでに作成済みの評価書の必要なレコードを、「データ送りコマンドボタン」で「競売評価先例データベースファイル」のテーブルに自動転送して、データ管理と検索を随時可能とした。検索は事件番号、発行年月日、所在地番、所有者名などの基本キーワードをはじめ、事件内容(類型、用途、占有分類、敷地権利分類など)からのアクセスも可能とした。競売評価の場合、事件番号での問い合わせが多く、所在や所有者名と違い、記憶に残り難いため、データベースの構築が最重要課題となる。事件問い合わせなどには各事件の基本キーワードの検索が主となるが、評価書作成においては類似の事件パターン先例を参考にする傾向があるため、事件内容(類型、占有分類、敷地権利の分類とそれらの各種組み合わせパターン)からの検索も必要となる。
3、システム化することのメリット
当所で競売評価をシステム化して実感したメリツトは、
- 評価書作成の迅速化
- 入力するオペレータのスキルに左右されにくい
- 競売評価先例のデータベース化
すでに述べたように、データ入力は、各コントロールにセットされたデータ部分のクリックが殆どであり、文章入力も登録文章の変更などで処理し、評価書に記載すべき価格算定式や算定結果の各価格もフォームへの計算基礎数値のみのセットで数値演算機能で自動記入される。シュミレ-ション機能による効率化の寄与も大きい。当所において、その他の評価書作成もすべてコンピュータ化されているが、競売評価書のみ以前は、Wordによるワープロ入力であった。ワープロ入力時に比べ作成のトータルな時間(評価書のチェックなどの所要時間もいれて)は5分の1程度に短縮された。
上記のようにあらかじめセットされたデータの選択であり、また入力ガイドが表示されるため、所員の熟練度に比較的左右されず入力可能である。
データベースを構築するため、さらに必要レコードの入力を余分にする必要がなく、評価書の作成と連動し、自動的にデータベース化できる。データベース化の有用性はすでに述べたとおりである。
その他、一般的に指摘されるコンピュータ導入による業務の効率化などのメリットがあることは言うまでもない。
■おわりに
以上、当所が開発し、開発進行中のシステムの概要と対応の状況ならびに現時点における課題などを紹介した。現状でも競売評価のかなりの部分まで対応できていると思われるが、短期間で構築したのでマンション評価以外は、不充分な面も多く、試行錯誤も多い。これからも、よりよい評価に役立つ評価システムの構築を目指して研鑚を続けようと思っている。
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