不動産簡易評価について
■不動産簡易評価の誕生
「不動産簡易評価」という用語は不動産鑑定評価上は法令等の正式の名称ではなく社会の要請により自然に誕生した通称とも言えます。
不動産鑑定評価書が必要とされる需要は、例えばいま注目されている不動産投資ファンドの対象物件などが該当しますが、通常、依頼を受けて一週間以上、案件によっては数ヶ月を必要とし、報酬額もかなりの額になるため、一般の不動産の価格を迅速に知りたいというレベルでは敷居が高く利用しにくいという現実があります。
不動産簡易評価は、不動産鑑定評価書までは必要ないけど迅速にリーズナブルな料金で不動産の価格やその根拠となる街路、環境、諸施設への接近性、公法上の規制などの価格形成要因さらに周辺の取引時例等の価格データなどを簡潔なパッケージ提供で知りたいという社会的需要から自然に誕生しました。
■不動産簡易評価の種類
現在、不動産鑑定士による簡易評価は様々な名称でなされていますが大きく分けると依頼物件の現地を見て調査(実査)する簡易評価型と実査を省略し価格水準を提示する価格情報サービス型(机上評価)になります。
①簡易評価型
価格評価の内容
- 不動産鑑定評価書の記載事項を簡潔に要約したものですが、市場価格評価手順は、通常の不動産鑑定評価の比準価格とほぼ変わりません
- 対象地の市場価格を査定するものです
近隣地域の価格水準を取引事例、地価公示価格、地価調査基準地価格より、街路条件、交通機関や商店、公共施設などへの接近条件、環境条件、行政的規制条件などを総合的に考慮して求め、最後に対象地の個別要因(地形、道路状態、高低差など)を考慮して対象地の土地価格を査定します。建物価格は、減価修正し市場価格を査定します
物件調査の内容
- 法務局では物件の登記内容は当然として物件隣接地の登記調査(評価地の位置、範囲を確定するため)字図、建物図面、地積測量図を徴求し問題点がないか検討します
- 市町村役場、土木事務所などで、用途地域、容積率、建蔽率、道路の種別、再建築可能な道路か否か、土地区画整理の有無、進捗状態、都市計画道路予定地の有無その他自然公園法、河川法などの規制の有無など土地価格に関連する諸規制を調査します
- 現地では字図、建物図面、地積測量図と現況を照合し増築、未登記建物の有無、隣接地の状況などを調査します
②価格情報サービス型(机上評価)
価格評価の内容
- 依頼者がメール、FAXなどで提示した住宅地図上の対象地につき取引事例、地価公示価格、地価調査基準地価格、路線価などのデータで価格水準または住宅地図などで対象地の個別要因(地形、道路状態など)を推定して対象地の土地価格を査定します
■不動産簡易評価のシステム化
不動産簡易評価は、担保評価、不動産売買の価格検証などに利用されるケースが多く、殆んどのケースで迅速性を要求されるためコンピュータによるシステム構築のメリットが大きい。当社では下記のような簡易評価専用システム(価格情報サービス型を含む)を開発し運用しています。
- データベースの構築運用
- 評価書作成支援システム
- ネットワーク構築
簡易評価の過去の先例評価額と当該先例物件属性データ(所在、依頼者名、評価額、類型など)に関するデータベース、取引事例データ、売り情報、成約データ等の最新マーケットデータベースにより過去の評価額との時系列的価額整合性を保ち、さらに依頼物件を参照する最新の取引事例やマーケットデータを検索できます。
基礎データ入力のみで自動演算・文書出力が可能で、上記データベースと連動しています。物件のデジタル写真画像にCG処理をし問題箇所のマークアップ、テキスト情報を付加しビジュアルに提示します。
LAN、RASによりネットワークを構築し、携帯端末(ノートパソコンなど)と事務所LANをモバイル・ネットワークで高速通信できるため写真画像や公図、地積測量図、建物配置図などの諸資料を現地と事務所さらにはユーザー間で相互にリアルタイムで送受信、閲覧が可能です。
①②③により作業工程の短縮が可能となり短時間で簡易評価書の提出が可能です。金融機関などの継続的、大量な依頼に対しては①により構築されたデータベースで効率的な先例評価書管理が可能です。同様に価格情報サービス型の依頼に対してもデータベースの取引事例、最新不動産マーケットデータを効率的に活用できます。
■不動産簡易評価の将来展望
不動産鑑定士に対する社会的ニーズは、デューデリジェンス(詳細調査)を要する裁判上の鑑定評価や不動産投資ファンドの対象物件の鑑定などのようなより専門性を深化させた鑑定評価とネット上でも提供できる依頼者の必要要件をコンポーネント化した簡易評価に二極分化されています。
価格情報サービス型に特定して言えば、類似の価格査定サービスが不動産仲介業者などによりすでに提供されています。不動産鑑定士に依頼するメリットは提示価格が、売主、買主、業者の思惑から客観的に独立していることです。さらに多くの依頼者は、価格のみの提供サービスに留まらず公法上の規制、道路の再建築の可能性など物件調査まで求める事が多いため実査を要する簡易評価型の需要が現在、大半を占めています。
今後、鑑定評価の二極分化はさらに進行し、価格情報サービスから多様な依頼目的に合理的に相応した価格査定と物件調査のコンポーネントの組み合わせ化が促進されると思われます。
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