米国では農地価格がバブルに

テレビ東京の「ワールドビジネスサテライト」で米国の「農地価格高騰」を放映していた。アリゾナ州では、住宅バブルの崩壊で農地価格が下がったところへ商品価格の高騰が起きたので、農家の所得が向上し、さらに農家は安い農地を買い増し、農地価格の高騰で儲けた。地元の不動産会社には次々と農家が訪れ、農地投資熱がフィーバーしている。彼等は金利のつかない銀行に預けるより、農地購入の方が良い投資になると思っており、長期的には農地価格の高騰を見計らって売れば投資成果が高まるという思惑だ。

全米NO.1のトウモロコシの生産を誇るアイオワ州では、農地のオークションで、平均価格が1エーカー1万640ドル、日本円換算で80万円で去年の2倍に上昇した。農地専門のファンド担当者は農地投資ブームの要因として2つ挙げてみせた。「中国人口は世界人口の2割だが耕作可能地は7%、だからトウモロコシ輸入に頼るしかない。」また「再生可能エネルギーを2020年までに倍増する必要があり、それをバイオエタノールに頼るならさらにトウモロコシが必要になる」というものだ。

テレビで流れる米国中西部の農地価格高騰の映像は、日本から見るとまるで別世界の出来事に見えてしまう。日本国内では宅地に転用できる都市部の農地を除き農地を農地として利用する「純農地」の価格は下落を続けているからだ。

全国農業会議所「平成22年田畑売買価格等に関する調査結果」によると純農業地域の農用地区域の農地価格(全国平均)は、中田価格が136万3千円(10a当たり)で前年比1.8%の下落、中畑価格が95万7千円で1.6%下落。中田、中畑価格ともに平成7年以降16年連続の下落となる。

日本の農地価格の低落は構造的なものだ。価格下落要因として「農家の減少と高齢化」をはじめ「米価など農産物価格の低迷」、「農地の買い手の減少」、「生産意欲の減退」が挙げられており、国内農業の衰退はとどまることを知らない。

日本国内の厳しい農地価格の動きとは対照的に、グローバルでは、バイオ燃料への食用作物の転用、中国やインドなど新興国の畜産需要の高まりによる穀物需要の増加、コモディティ市場への投機資金の流入で世界的に穀物相場が急騰し、農地価格は高騰している。金融緩和でヘッジファンドなどの投資マネーが農地に流入し、農地を投資商品に仕立て上げた。農地価格は株や債券と相関性が低いため、分散投資効果が高いことや、世界人口の増加、新興国の食生活の向上で食糧不足が続くというのが投資の謳い文句だ。

日経6月11日によると、米国内の農地価格上昇ははまだ生易しいほうで、南米やアフリカの農地の急騰ぶりは著しく、米調査会社によれば、ウルグアイのリオ・ネグロの農地は過去10年で9倍に跳ね上がった。このような新興国にもあまねく投資マネーがばらまかれているのだ。

しかし米国の農地価格高騰はバブル化しておりいつか破裂するのでは、という懸念も広がり始めた。日経6月11日によると住宅バブルにいち早く警鐘を鳴らしたエール大学のシラー教授は、「次のバブルの候補は農地」と新たに予言した。

穀物価格が上昇すると、供給量は天候や自然災害にも左右されるが農家は作付面積を増やそうとするだろう。そして穀物価格は市場で調整される。この調整を反映して農地価格は下落する。農地価格の上昇は食糧価格の上昇と低金利が支えているといわれているが、食糧価格の低下に加え金利も上昇すると、これまで強気のシナリオで膨れ上がった過剰利潤への期待が弾ける。

また農地には固有のリスクがある。自然条件への依存度が高く、農作物が毀損することもある。農産物の輸入比率によっては生産国の需給動向や為替変動で農産物の価格が下落するなど制御不能な側面もある。

これらの市場メカニズムが暗転し、投機に狂奔してきた人たちを襲った時の市場の冷酷さ、このようなシーンを何度見てきたことだろう。農地価格の高騰にもその危うさを感じてしまうのだが…。

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