郊外住宅団地の買い物難民解決の取り組みについて
郊外住宅団地の高齢化や居住者の減少が加速している。そして当該居住者を対象とした近隣商業店舗が不採算性から撤退、閉店するケースが増え、買い物施設の消失を引き起こしている。近年になって都市近郊住宅団地では「買い物難民」「買い物弱者」が増加しているのだ。経済産業者は全国で約600万人の買い物難民がいると推計している。
かつての 高度成長経済、人口増加時代は大都市周辺の郊外へ居住域が拡散していった。しかし、1990年代後半に入り、都心回帰へ転回し、まちづくり3法の改正などに見るように郊外化の抑制、中心市街地活性を志向するコンパクトシティへと時代はパラダイム転換した。このような時代の潮流から取り残されたのが郊外住宅団地の居住者だ。高齢化しており、車の運転に不安を抱える者や運転が困難な者も増えている。
郊外住宅団地の買い物難民問題は1990年代半ばからすでに指摘されていた。「首都大学東京の研究者が、多摩ニュータウンで初期に開発された2地区の商店街の変遷を調べ、2008年に論文を発表した。それぞれ29の店舗と1つの食品スーパーで構成していたが、2000年前後から青果店や精肉店、飲食店が消え始め、空き店舗が増加。スーパーは1つが閉鎖、もう1つは経営母体が変わった。経営環境が急速に悪化したのはやはりここ10年だそうだ。」(日経MJ)
その実態だが、例えば経済産業委員会調査室笹井かおり氏の「買い物難民問題~その現状と解決に向けた取り組み~」という調査レポートから「泉ヶ丘ハイタウン(福島県)」の事例を紹介すると、
福島県いわき市の高台にある「泉ヶ丘ハイタウン」は、1980年代に造成された住宅団地で、県内や首都圏から移り住んだ約1,500世帯、約4,900人が暮らしているが、約300世帯は高齢者のみの世帯である。5年前に団地を通る路線バスが廃止されてから交通が不便になり、1年前には約2km先に品ぞろえの豊富なスーパーができたため、団地で唯一の小型スーパーは、売上げが減少し閉店に追い込まれた。団地に住む80歳代の女性は、運転免許がなく、周辺に路線バスも走っていないため、約2km先のスーパーまでリュックサックを背負いながら、約40分掛けて歩いて買い物に行っている
このように社会問題となっている郊外住宅団地の買い物難民だが、買い物難民の解決に向けた取り組みが全国各地で始まっている。経済産業省報告書はその取り組を4パターンに分類している。
- 宅配サービス
- 移動販売
- 店への移動手段の提供
- 便利な店舗立地
以下1~4を先に紹介した経済産業委員会調査室笹井かおり氏のレポート、並びに日経ヴェリタス第178号特集記事から引用する。
1.宅配サービス
物流網が整備されている我が国では、商品を顧客に届ける宅配サービスは、効果的な対策になり得る。また、近年はネットスーパー、NPO法人や生活協同組合などによる新しい取組も広がっている。企業が主体となって行っている取組として、前述した福島県いわき市の「泉ヶ丘ハイタウン」では、美容店にネットスーパーの端末機が設置され、注目を集めている。県内の中堅スーパーと提携したヤマト運輸が、パソコン操作が困難な高齢者に配慮してタッチパネル式の専用端末を開発した。利用者は画面に触れるだけで注文でき、商品は自宅に配送される仕組みになっている(笹井かおり氏のレポート)
日経ヴェリタス第178号によると、
通常、スーパーが独自で展開するネットスーパー事業の商圏は半径5~10キロにとどまるのが一般的だが、ヤマト運輸と組むと商圏が広がるので買い物に困っている過疎地の人にも商品が届けられる利点がある。ヤマト運輸は、地方のスーパーが同社の配送網を使ってネットスーパー事業を展開できるように支援、高齢者や家の近くに店がない人に日用品を届けいる。全国各地のスーパー、36社と提携しており、7月の取扱件数は前年同月比で3倍になった。
2.移動販売
宅配サービスと異なり、自分の目で見て手に取って選ぶことのできる移動販売については潜在的な需要があるといわれている。現在、全国の移動スーパーの稼働台数は150~200台程度であると推計されており、東京都内の団地を専用トラックで巡回し、それぞれ毎週決まった曜日・時間に開業する移動販売の取組も始まっている(笹井かおり氏のレポート)
日経ヴェリタス第178号から引用すると
有機・無農薬野菜の会員制宅配を手掛けるらでぃっしゅぼーやは昨年末に移動販売を始めました。会員以外の消費者も利用できます。扱っているのは30品目程度です。ジャガイモやタマネギといった野菜が売れ筋で、平均の客単価は900円、買い上げ個数は3点程度だそうです。客単価を上げるため、果物の販売にも力を入れています。
セブン&アイ・ホールディングス傘下のイトーヨーカ堂も東京都内で「出張販売」に取り組んでいます。6月下旬には東京都多摩市の貝取団地で開かれた地域の祭りに出張店舗を出しました。店に並べたのは野菜類のほか飲料水や菓子類、ラップなどの日用品約100品目です。当日はトイレットペーパーなどかさばる商品を買い込む高齢の女性が目立ちました。来店客には、自宅まで商品を届ける同社のネットスーパーの利便性をアピールしたり、コンビニエンスストアのセブンイレブン・ジャパンの店から食事を配達するサービスも売り込んだりしました。グループの収益力強化につなげる狙いがあります。
3.店への移動手段の提供
近年、公共交通機関の撤退が増加する中、コミュニティバス、デマンドバス17、乗合タクシー等による運送、市町村が運営する有償運送サービスなどによる安価で便利に利用できる仕組みが注目されている(笹井かおり氏のレポート)
4.便利な店舗立地
撤退した店舗の跡地を引き継ぎ、地域住民の有志が出資し、地域コミュニティが共同で運営する事例が増えている。(郊外住宅団地ではないが)大分県の耶馬渓町では、住民の有志がNPO法人を立ち上げ、入会金1,000円、年会費2,000円で運営参画を募ると約60人が集まり、住民たちの協力による店舗「ノーソン」を開設した。「ノーソン」は、地域住民が積極的に店舗運営に参加しているため、単なる生活必需品の購買の場だけでなく、地域のコミュニケーションの場や元気な村づくりの活動の拠点として機能している(笹井かおり氏のレポート)
以上、郊外住宅団地の買い物難民解決の取り組みを紹介してきた。大都市部では、都心部から遠距離にある交通利便性の悪い郊外団地ほど背後地人口の減少で商圏が縮小、買い物需要が減少し、不採算性から買い物施設の消失が起きた。今後は都心部から比較的近い距離でも買い物施設の消失が突然起きる可能性が高い。近年の傾向として店舗が激減しているからだ。経済産業省の「商業統計」によると小売り事業所は1982年の172万か所をピークに減少し続け、特に従業員数が1~4人の小規模店舗の落ち込みが激しく、1997年には46万か所あったが、2007年には28万か所となり、最近10年間で約4割の店舗が姿を消している。そして国立社会保障・人口問題研究所の推計では、30年後の地域社会の人口は、高齢人口割合は地方圏で高いが、高齢人口の増加率は大都市圏で高く、今後急増する。
都市規模の凝縮というコンパクトシティへの流れのなか、店舗数の減少と居住者の高齢化急増で買い物難民が発生するエリアは拡大していくことになる。さまざまな買い物難民対策が進み始めているが、これらの取り組みが高齢者ビジネスとして定着し、成熟していくことに期待したい。
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