見えてきたJR博多シティ&九州新幹線全線開業後の影響と効果
■2011年公示価格で博多駅前が反転上昇
2011年の博多駅前3丁目の公示地博多5-1は、前年の16.4%の下落から一転、2.3%の上昇となった。博多駅前を象徴するこの公示地が上昇した最大の要因は、2011年3月12日の九州新幹線全線開業と博多駅ビルがリニューアルされて誕生する「JR博多シティ」(約20万㎡)が同月3日に先行して開店、周辺の開発が加速するという期待からだ。
これまで博多駅周辺は企業、金融機関などの事務所が高度集積するオフィス街である反面、ショッピングできる大型商業施設がほとんどなかった。同地区に地上10階、地下3階建て、延べ床面積20万㎡の巨大商業集積が出現する。百貨店「博多阪急」や生活雑貨の「東急ハンズ」のほか、専門店街「アミュプラザ博多」を核テナントとし、国内の商業駅ビルでは最大級だ。
商業店舗床が比較的少ない博多駅周辺部の現状は、九州新幹線&新駅ビル(JR博多シティ)を起爆剤とする商業用途の潜在的開発余地の大きさを予感させる。すでに駅前の博多郵便局には商業ビルが計画され、10年11月に駅前の「博多ビル」が約40億円でJR九州に売却されるなど大型案件にも動きが出ている。
■JR博多シティ&九州新幹線全線開業とその後
3月3日、JR博多シティが開業し、3月12日に九州新幹線(博多~鹿児島中央)が全線開業した。博多~熊本間は最速で33分、福岡と鹿児島中央を53分短縮して1時間19分で結び、山陽新幹線と相互直通運転する最速列車の「みずほ」は新大阪と鹿児島中央を同77分短い3時間45分で結ぶ。
新幹線開業当日は、3月11日に起きた東日本大震災の翌日となったため、自粛ムードで予定されていた開業のイベントは殆ど中止となり、その後もしばらくは運行の模様等がテレビ映像で流れることもなく、さびしいスタートとなってしまった。開業後1ヶ月余経ったが、九州新幹線全線開通とJR博多シティの開業後の様子とその影響を探ってみよう。
●JR博多シティ
まず九州新幹線全線開業に先立ってオープンしたJR博多シティはどうだろうか。震災前の開業当日は目標を上回る来店客で賑わったようだ。「初日の来店者数は22万人と、目標を1割上回った。博多阪急などに入居する九州初出店の若者向け衣料品、食品ブランドが「予想通りの集客力」(博多阪急幹部)を発揮した。JR九州の発表によると、閉店時刻の午後9時(一部テナント除く)時点の来店者数は推計で約22万人。九州域内にとどまらず、なかには中部から訪れた人もいた。(日経3月4日)」同紙によると博多阪急で1番人気だったのは3階の20歳前後向け婦人服売り場「ハカタシスターズ」。混雑が最も激しかったのは地下1階の「デパ地下」。堂島ロールのモンシュシュ、チョコが数十メートルの行列ができ、購入するまで1~2時間待つ人が多かった。専門店施設「アミュプラザ博多」では9、10階のレストラン街「くうてん」に午前11時の開業前から行列ができ、午後まで途切れなかった。牛タンの利久、すき焼きの人形町今半、日本料理の加賀屋など九州初出店の店舗が人気を集めた。地下にあるクリスピー・クリーム・ドーナツも午後5時の時点で最大1時間20分待ちとなった。
開業日は、評判通りの集客力を発揮した博多阪急だが、日経紙がライバルにあたる福岡・天神地区の2つの商業施設の幹部に評価してもらったところ、その集客力を評価する反面、既存の百貨店に比べて中心価格帯を下げたことから今後の収益力については厳しい見方もあるようだ。
JR博多シティの開業後に東日本大震災、翌日の九州新幹線全線開業と続いたが、日経MJ(流通新聞)4月6日記事によると開業後1ヶ月の営業状況は大震災の影響を受けつつもまずは順調な滑り出しを見せた。「九州旅客鉄道(JR九州)が3月3日に開業したJR博多シティの1ヶ月間の営業状況を発表した。JRが運営するアミュプラザの売上高は目標を28%上回り、来店客数は同1.2倍の726万人だった。核テナントの博多阪急の売上高は同13%上回る43億円。3月11日の東日本大震災以降は伸び悩んだ感があるが、九州最大のターミナル駅ビルの実力をおおむね発揮した。」
博多阪急の開店は、予想通りに福岡市の一方の商業核である天神地区の商業施設の売り上げに影響を及ぼした。「岩田屋本店(福岡市)の3月の売上高は前年同月比9%、三越福岡店(同)は同15%の減少だった。来店客数も両店合わせて1割減った。特に12日以降は落ち込んだ。博多大丸は3月の売上高、来店客数ともに同14%減。主力の高級衣料品が震災以降急減し、3月全体で2ケタのマイナスとなった。西鉄が運営するソラリアプラザは3月の売上高が同15%減、天神コアは同10%減だった」(日経4月5日)
一方、福岡パルコは日経MJ(4月20日)によると昨年3月の開店後1年間の売上高が目標を25%上回る138億円。入館客数も1,400万人で目標を40%上回っており、JR博多シティの開業、東日本大震災と続いた後も「売上高は落ち込んでいない」(同社)。なんといっても福岡パルコの好調の要因はその立地だ。天神の中心部に当たる岩田屋の旧本館跡地という超一等地で、天神地下鉄駅のすぐ上、西鉄福岡(天神)駅、天神バスセンター等に直結という強みを発揮している。また福岡パルコの既存店と違った独自の店舗運営も見逃せない。従来の都市立地型のパルコでは、5割ある衣料品販売のテナントを福岡パルコでは3割強に抑え、雑貨や飲食を充実、さらに単価の低い商品も揃えて交通機関を利用する通過客の商品購入につなげており、このような店舗運営の工夫が好調さの原因となっている。
競合する博多新駅、天神の両商業核だが、博多-天神間で買い物客の回遊性が高まれば相乗効果が期待できる。日経紙3月9日で注目されるデータが出た。「(西鉄)バス事業ではJR博多シティでプラス効果が出た。天神-博多を利用した人は2週間前までの平均値に比べ33%増えた。博多駅のバスの乗降客は同25%増、福岡市全体の路線バスの利用者数は同3%増だった。」今後も天神と博多駅周辺の連携・回遊性が高まることに期待しよう。
●九州新幹線
次に九州新幹線全線開業後の様子を見てみよう。開業後1ヶ月間(3月12日~4月11日)の博多-熊本間の利用者が発表されたが、震災の影響もあって前年同期の在来線特急利用者に比べ30%増と、目標の40%増に届かなかった。日経MJ紙4月22日によるJR九州のゴールデンウィーク(GW)期間中の九州新幹線と在来線の予約状況は、JR九州発表で予約済みの指定席は全体の31.2%と前年比2.1ポイント低下したが、予約席数自体は1.4倍。関西や中国地方から九州を訪れる人が増え一定の新幹線効果があった。
九州新幹線は、出張客が多い東海道山陽新幹線と異なり、西日本に旅行客を運ぶ観光列車の意味合いが強いといわれている。九州新幹線全線開通でその観光効果をいかんなく発揮したのは鹿児島だ。日経4月23日によると「城山観光ホテル(鹿児島市)は昨年のGW期間中には満室にならなかった日が数日あったが、今年は29日~5月4日までほぼ満室。「開業以降、福岡や関西方面からの客が前年より1.5倍程度増え、中国地区からの客も多い(同ホテル)」。指宿方面では3月に運行を開始した鹿児島と指宿を結ぶJRの観光特急「指宿のたまて箱」がGW期間中にほぼ100%の予約状況。指宿白水館(指宿市)は「29~4日まで全館満室」。15人以上の団体客はほとんどなく、家族連れが中心という。」
東日本震災で予定地を変更する観光客が多いなか、九州は全域でも比較的堅調さが目立っており、春とはいえ肌寒い日も続き、時間短縮効果が最も高い南国鹿児島へ観光客の関心が向かったと思われる。
現状で外国人客は低調だ。JR九州が運航する博多~韓国・釜山を結ぶ高速船「ビートル」の韓国からの利用者は震災後、前年同期比9割以上減った。また中国人誘客に向けJR九州は、昨年4月に上海事務所を開設。新幹線開業で九州新幹線と在来線特急が3日間乗り放題の外国人専用切符「JR九州レールパス」を1万4,000円で販売を始めていたが、いまのところ期待はずれの結果になっている。中国や韓国に近い立地を生かし、「商圏はアジア」と位置づけていたのだが、日本国内が抱える原発事故の負の影響が九州にも影を落としているようだ。
■今後の影響
JR九州唐池社長は、「新たな1つの街が誕生し、日本一の駅ビルができた」と宣言した。そのJR博多シティは、百貨店の阪急、生活雑貨の東急ハンズを核とし、複合映画館や衣料品専門店、飲食店など約230のテナントを集めた巨大商業集積だ。開業初日に22万人の来店客を集め、年間売上高は700億円弱を見込む。「日本政策投資銀行九州支店は、「博多シティは年間180億円の売り上げを天神から奪う(日経2月24日)」と指摘するように、これまで一人勝ちしてきた巨大商業核「天神」との熾烈な陣取り合戦に注目が集まる。しかし 九州新幹線全線開業と新駅ビル「JR博多シティ」出現は、福岡圏内にとどまらず九州域内の商業地図も大きく変えようとしている。
新幹線効果で天神やJR博多シティの商圏は広島から熊本まで広がったといわれる。しかしNET通販が拡大、郊外アウトレット利用増など消費者の低価格志向や消費行動の構造変化が進み、高額品を扱う百貨店の売上は年々減少している。特に九州の百貨店は厳しい。「九州の2010年の百貨店売上高は前年比4.9%減の5,181億円。ピークだった1998年(8,143億円)に比べ、36%減った。減少率は全国(31%減)を上回っている。」(日経1月25日)
陣取り合戦、パイの奪い合いをやっているターゲットの市場そのものが消費構造変化に伴って縮小しているわけだ。近年のこのような状況を考えると九州新幹線は新たな消費を生み域内の市場を拡大するというより、沿線で競争を激化させ、他地域の消費を奪う可能性が高い。
一般に交通網の整備で域内の移動時間が短縮されると沿線の消費者の購買力が強大な大都市に吸い寄せられる現象を「ストロー効果」というが、ストロー効果は九州新幹線全線開通で当然に発生するといわれている。今後もJR博多駅から各沿線駅までの大幅な時短効果は博多阪急をはじめ九州初ブランドの店舗が集積する新駅ビル「JR博多シティ」の魅力を高め、より強大にしていくと見られいる。
例えば「日本政策投資銀行九州支店の久間敬介・企画調査課長は、「博多シティ開業と新幹線全通で大打撃を受けるのは熊本と久留米だ」と言い切る(日経2月25日)」。九州新幹線による福岡市の拠点性の高まりは、福岡の巨大商業施設群の自己増殖エネルギーをさらに増幅させ、県外を含む各周辺都市からの購買力を吸引するだろう。福岡の一極集中がより強まるのではないだろうか。
■関連記事
九州新幹線全線開通のその後