九州新幹線全線開通のその後
未曾有の東日本大震災発生の翌日の3月12日に九州新幹線(博多~鹿児島中央)が全線開業した。福岡と鹿児島中央を53分短縮して1時間19分で結び、山陽新幹線と相互直通運転する最速列車の「みずほ」は新大阪と鹿児島中央を同77分短い3時間45分で結ぶ。「出張客が多い東海道山陽新幹線と異なり、西日本に旅行客を運ぶ観光列車の意味合いが強い。」(日経4月18日)
折悪しく震災直後と重なり、自粛ムードで予定されていた開業のイベントは殆ど中止となり、運行の模様はテレビ映像で流れず、世間の関心も専ら大震災に向かつていたので不運なスタートとなってしまった。この影響で序盤は利用者も出遅れたが、3月後半以後は徐々に上向いているという。開業後1ヶ月間(3月12日~4月11日)の博多~熊本間の利用者が発表されたが、前年同期の在来線特急利用者に比べ30%増と、目標の40%増に届かなかった。
九州新幹線鹿児島ルートの全線開業と博多駅の新駅ビル「JR博多シティ」出現は、九州圏内の商業地図を大きく変えようとしている。一般に交通網の整備で域内の移動時間が短縮されると沿線の消費者の購買力が強大な大都市に吸い寄せられる現象を「ストロー効果」というが、ストロー効果は当然に発生するといわれている。
JR博多駅から熊本駅まで最短約30分、鹿児島中央駅までは同1時間20分と、現在より40~50分短縮される時短効果は博多阪急をはじめ九州初ブランドの店舗が集積する新駅ビル「JR博多シティ」をより強大にしていくと見られている。日経紙(2月25日)によると、「博多シティに入居する店舗は博多阪急を筆頭に「九州初」が目白押し。九州では博多シティでしか買えない商品を求め、消費者が新幹線で押し寄せる事態も想像に難くない。」また、日本政策投資銀行九州支店の久間敬介・企画調査課長は同紙で「博多シティ開業と新幹線全通で大打撃を受けるのは熊本と久留米だ」と言い切る。
すでに九州新幹線開通後、1ヶ月半ほど経過した。日経MJ(流通新聞)4月6日記事によると新駅ビル「JR博多シティ」は、大震災の影響を受けつつもまずは順調な滑り出しを見せたようだ。「九州旅客鉄道(JR九州)が3月3日に開業したJR博多シティの1ヶ月間の営業状況を発表した。JRが運営するアミュプラザの売上高は目標を28%上回り、来店客数は同1.2倍の726万人だった。核テナントの博多阪急の売上高は同13%上回る43億円。3月11日の東日本大震災以降は伸び悩んだ感があるが、九州最大のターミナル駅ビルの実力をおおむね発揮した。」
九州域内への影響だが、新幹線効果が高かったのは、沿線の鹿児島だ。日経4月23日によると「城山観光ホテル(鹿児島市)は昨年のGW期間中には満室にならなかった日が数日あったが、今年は29日~5月4日までほぼ満室。「開業以降、福岡や関西方面からの客が前年より1.5倍程度増え、中国地区からの客も多い」(同ホテル)指宿方面では3月に運行を開始した鹿児島と指宿を結ぶJRの観光特急「指宿のたまて箱」がGW期間中にほぼ100%の予約状況。指宿白水館(指宿市)は「29~4日まで全館満室」。15人以上の団体客はほとんどなく、家族連れが中心という。」
西鉄旅行によると、鹿児島旅行の予約件数は前年同期の2倍。宿泊日数は減っているものの、同社では「新幹線効果がここまで大きいとは」と驚きを隠さない。
しかし、現状で外国人客の取り込みに課題があるようだ。JR九州は、中国や韓国に近い立地を生かし、「商圏はアジア」と位置づけていたが、いまのところ期待はずれの結果になっている。
「JR九州が運航する博多~韓国・釜山を結ぶ高速船「ビートル」の韓国からの利用者は震災後、前年同期比9割以上減った。外国人客が団体で訪れる福岡・天神の百貨店でも「外国人のお客様が少なくなった」(岩田屋三越幹部)と嘆く。」といった状況で、日本国内が抱える原発事故の負の影響は福岡市にも影を落としている。
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