交錯する期待と不安 / 九州新幹線全線開業&JR新博多駅ビル効果

福岡市の玄関口博多駅が大きく変貌する。来春3月、九州新幹線鹿児島ルートの全線開業と「JR博多シティ」と名付けられた新駅ビルが開業。国内景気が低迷する中のこのビッグイベントに地元の期待も高まっている。

九州新幹線鹿児島ルートの全線開業で九州域内の移動時間は飛躍的に短縮される。新大阪と鹿児島中央を結ぶ相互直通運転で、鹿児島から大阪・梅田までを最速4時間弱で結ぶ。

「JR博多シティ」は延床面積20万㎡で、ホテル、オフィスなどを除く商業施設としては京都駅、名古屋駅を凌ぐ規模で、九州初出店となる阪急百貨店、東急ハンズが核テナントとして入る。専門店エリアのアミュプラザに入るテナント約200も入居の仮契約がほぼ済んだという。約200のテナントで計約6,000人の就業が見込まれ、3,000人以上の新規雇用が計画されている。

博多阪急の開業は3月3日で、3月12日の九州新幹線鹿児島ルートの全線開業日に先立ってオープンする。九州一円からの集客を福岡市の玄関口でキャッチできる抜群の商業拠点を押さえたわけで、阪急百貨店を傘下に持つエイチ・ツー・オーリテイリング(H2O)は、新天地九州での阪急ブランドの浸透を目指し意気込む。

博多阪急の顧客戦略や具体的な店舗イメージも明らかになってきた。「売上高の目標は年400億円。達成すれば、旗艦店である阪急百貨店梅田本店と阪神百貨店梅田本店に次ぐ3番目の規模となる。(中略) 平日は通勤女性や主婦の来店につながる食品、週末は強みの婦人服で九州一円から集客する姿を描く。」(日経MJ9.17)

日経速報11.2によると、「博多阪急は、同駅を通勤で利用するOLを最重要顧客と位置付け、百貨店では珍しい衣料品の新興ブランドを集積する。売り場の目玉の一つはJR博多駅の新しい改札口に直結する3階。セレクトショップ大手のユナイテッドアローズをはじめ、主に20代女性向けの衣料雑貨で百貨店に少ない新興ブランドを集める。」

日経MJ9.17によると博多阪急の店舗イメージは2008年に兵庫県西宮市に開いた西宮阪急に近いとみられる。全国の百貨店の苦戦が続くなか10年4~6月の売上高は前年同期比17%増を達成した店で、照明や音響で高級感のある空間にこだわる一方、高価格の外資系ブランドは少なめ。値ごろ感と品質の良さを重視し、売り場ごとのこまめな催事で顧客に働き掛けるといった手法を取っている。

博多駅前エリアのなかでも九州新幹線&JR新博多駅ビル効果で注目を集めそうなのが、「JR博多シティ」から大型商業施設「キャナルシティ博多」に至る「博多駅前通」のラインだ。

キャナルシティ博多の隣接地に計画されている「第2キャナル」が、2011年秋に開業する方向で調整が進んでおり、新聞報道では、約1万平方メートルの敷地に4階建ての商業ビルを建てる予定で、核店舗にはスウェーデンのカジュアル衣料大手「ヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)」や「ユニクロ」など、国内外の低価格衣料ブランドが検討されている。

第2キャナルが開業すると「博多駅前通」にキャナルの大型商業施設群が直接連結するわけで、現状でオフィスビルの建ち並ぶこのラインは商業回遊性が高まる可能性がある。しかし、新設・既設一体の巨大商業施設群で来春3月のビッグイベント効果を享受する思惑のキャナル側も「JR博多シティの磁場が強すぎてその結果、当駅ビルのひとり勝ちとなってしまうのでは」と逆にキャナルの客の流出を懸念する見方も出ている。

来春3月の九州新幹線全線開業&JR新博多駅ビル効果で博多駅エリアの商業基盤が浮揚することは間違いないが、天神とのパワーバランスがどう変化するかに注目が集まる中、興味深いデータの修正があった。

日経紙10.7によると「日本政策投資銀行九州支店(福岡市)は13日、来年3月開業のJR新博多駅ビル「JR博多シティ」の年間売上高の試算を従来の1,300億円から927億円に下方修正すると発表した。前提条件となる売り場面積が従来想定より15%縮小する見通しであるほか、天神地区に新たな商業施設の開業が決まったため」。天神地区に来秋開業する米高級衣料店「バーニーズ・ニューヨーク」や、今年3月に開業した「福岡パルコ」の影響も新たに考慮しての下方修正となっている。熾烈な競争が展開すると予測される博多駅エリアVS天神地区の相対バランスは、商業施設の勢力分布やその商況如何に今後も左右されるであろう。

これだけのビッグイベントを来春に控えている割には、市内のオフィス市況にはイマイチ感が漂う。日経紙11.4によると、「来年3月に九州新幹線鹿児島ルート全線開業を控える福岡市は九州の中核拠点として企業進出などの期待は高いが、いまのところオフィス需要に目立った動きは出ていない。福岡市全体で見ると空室率は三鬼商事によると15%台で上昇は一服し、改善の兆しが出ている。(中略) 不動産投資信託の運用会社、福岡リアルティの茶木正安社長は「賃料引き下げによるテナントの引き抜き競争は収まったが、新規需要も力強さに欠ける」と先行きに慎重だ。」

なんといっても円高、デフレの深化と2番底まで噂されるここにきての国内景気の停滞だ。この先、企業の設備投資や雇用が拡大していかないことには、企業のオフィス需要を後押ししない。博多駅を巡るビッグイベント効果がオフィス市況にどこまで追い風を吹かすかは国内景気の今後の行方次第ということになりそうだ。

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