政府経済対策でマンション建て替え要件緩和を検討

日経紙によると、政府は、円高・株安に対応した経済対策の一つの柱として「日本を元気にする規制改革100」と題した改革案をまとめた。(1)都市再生(2)環境・エネルギー(3)医療・介護(4)観光・地域活性化(5)国を開く経済戦略(6)保育その他の6分野で約100項目の改革案を明記した。

そして閣議決定する経済対策の規制改革分野に関する原案のなかに老朽化したマンションの建て替えを促進するため容積率の緩和を検討することになった。具体的には、高層マンションなどで容積率を緩和する代わりに敷地内に設けなければならない空地について、敷地外に設けることも今年度中に認める。床面積を拡大しやすくして、老朽化したマンションなどの建て替えを促す。床面積50平方メートル以下のワンルームマンションなどもマンション建て替え円滑法の対象に加える。

菅総理が誕生して3ヶ月、その間の経済対策の無為無策ぶりが経済界やマーケットの苛立を増幅させてきた。特に足元での円高株安の緊急性のある対策について、「遅い」とか「小出しで実効性がない」、「糠に釘の政策対応」などと批判されている。代表選でも小沢陣営からこの点を厳しく指摘されており、「無能総理」と酷評される今日この頃だが、代表選で野党時代の突破力が覚醒したのか、世間の厳しい評価に危機感を持ったのか、ここにきて小泉・竹中時代の「経済財政諮問会議」に似た新成長戦略実現会議(委員に日銀総裁、財界首脳、学者、労働界が参加)を設置するなど、経済政策の立案と実現へ向けた助走を始めたようだ。

余談になるが、「総理が経済に強くないと有効な経済政策ができない」と言われることがある。しかし経済に強いと思えない小泉総理の時代にその構造改革には様々な論議があるが、一定の経済政策効果を発揮できたのは経済財政諮問会議や竹中氏のような経済ブレーンがあったからだと言われている。鳩山総理の時は経済ブレーンの不在が有効な経済政策の不毛を招いたので今回の新成長戦略実現会議の設置は良かったのではないだろうか。

さて今回の当該要件緩和報道を受け、9日は、三井不動産、三菱地所、大京などの大手不動産株が堅調だったことからも、業界にもたらすであろう事業期待感の高さが解る。マンション建て替えの潜在的ニーズは既存マンションの老朽化や、そのストック量からみて大きい。しかし、現実には建て替えの実現性は様々な障害があって極めて低く、建て替え事例も少ない。今回の建て替え要件緩和の検討はその実現性を阻んできた諸障害のなかでもデベロッパーが関与する場合の事業収益性や住民の建て替えに向けたインセンティブを大きく前進させる可能性を孕んでいる。

asahi.comによると「国土交通省の推計によると、全国のマンションストック数は約562万戸、国民の約1割に当たる約1,400万人が居住している。このうち築30年以上のマンションは73万戸にのぼり、10年後には185万戸に達すると予測している」。一方、建て替えが実現したマンションは138件、実施中及び実施準備中の35件を含めても173件だけだ。改正区分所有法やマンションの建て替え円滑化等に関する法律が施行されてからは増加しつつあるが、それでもこれらの法律施行以降に実現したのは50件を超える程度である。

マンションの建て替えが困難な理由としては、区分所有者間の合意形成が難しいことに加え、既存建物の容積率過剰消化の問題がある。つまり、既存建物がすでに消化している容積率を現行法の容積率が上回るケースは少なく、なかには現行の容積率より建っているマンションの容積率が上回る既存不適格のケースも見られるため、建て替え後は、既存マンションを下回る専有面積となる。その結果、建築費の負担が過大になるので建て替えへの合意形成は暗礁に乗り上げるという実情がある。

■要件緩和の中身と影響

さて今回のマンション建て替えの要件緩和の中身だが、これから検討が始まるというという段階なので、新聞報道も中身が粗く、現時点で詳細は不明だが、新聞報道をザックリと整理すると大枠は、

  1. 容積率緩和の条件となる空地を敷地内に限らず敷地外に設けることを今年度中に認める
  2. 建て替え時の容積率緩和
  3. 床面積50㎡以下のワンルームマンションもマンション建て替え円滑法の対象に加える

となりそうだ。上記の2は1の範囲内での容積率緩和なのか、1とは別途に容積率緩和を検討するのかは新聞報道では判然としない。ここでは、1の空地に係る容積率緩和以外にも2で建て替え時の容積率緩和を今後、政府が検討するものと仮定して、1~3の要件緩和事項がマンション建て替えに及ぼす影響を以下にまとめると

  • 容積率緩和の条件となる空地を敷地内に限らず敷地外に設けることが可能になる点だが、敷地の規模が一定規模以上あれば公開空地を提供することで総合設計制度という容積率割り増しのボーナスを受けることが可能なケースのことを指していると仮定すれば、空地を敷地外に設けることで床面積がさらに拡大されると建て替えの実現性は高まる
  • その要件や程度にもよるが、建て替えマンションに付いて容積率が緩和されれば、既存マンション(施工マンション)から権利変換・等価交換等により住民が取得する施工再建マンションの住戸の専有面積は増加するし、さらに容積の余裕分をデベロッパーが余剰床として実現し、余剰床を販売して建て替え参加者が負担する建築費などの事業費に充当することができるため建て替えの実現性は高くなる
  • 床面積50㎡以下のワンルームマンションにマンション建て替え円滑法の適用を広げる件は、投資向けマンションの建て替えの可能性を高める

■不動産投資への影響

今後の不動産投資において、今回の要件緩和策などでマンション建て替え支援へ向けた法整備が進み、融資、補助金等の充実も加わって建て替え事例が増加していくと、老朽化マンションの投資価値を見直す動きが出てくると思われる。つまり、中古マンション投資は、築浅、築深にかかわらず、当該マンションの建て替えの実現性の程度、更地化や建て替え実現後のシナリオ、その費用対効果など様々なシミュレーションを行って投資価値を決定する度合いが高まる。今後のマンション投資は、建て替えのリアリティが増すごとに建て替えを含めたシナリオ、その実現性の程度、建て替えることによる投資効果(今回の容積率緩和を施工再建マンションに反映)の予測抜きで考えられなくなると思われる。

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