穴吹興産、区分所有中古マンション事業参入の狙い
マンションデベロッパーの穴吹興産が個人投資家の主戦場である区分所有の中古マンションを対象に買い取り・賃貸・再販事業に乗り出す。
日経電子版記事によると、
穴吹興産は、中四国や近畿、九州の西日本地域で、賃貸中の物件を中心に取得し、家賃収入と賃貸終了後の売却益を得る。安定した収益源に育てることで、マンション分譲に続く同社の主力事業とする考えだ。同社が買い取るのは築10年以上の中古ファミリーマンションで主に部屋面積が50平方メートル以上。個人が保有する賃貸中の物件を中心に買い取り、居住者がいる間は持ち主として家賃を受け取る。居住者が退去した後に物件を売り出し、売却益を得る。新築時の5~7割程度の価格で販売する。
つまり個人が保有する賃貸中の区分所有(中古マンション)を取得し、居住者がいる間は家賃収入を定期的に得て、居住者が退去後に売却して売却益を得るというビジネスモデルで、日経電子版同記事によると、3年後をめどに常時300戸を保有・賃貸し、年3億円の収入を見込んでいる。
一般にファミリータイプの中古マンションは、ワンルームタイプと比べ利回りが低く、投資妙味が低いといわれている。また穴吹興産のようなマンションデベロッパーが中古マンションの1戸単位の不動産投資を事業として行うのは投資効率が悪く利幅も薄い。このような理由から、ファミリータイプの中古マンション区分所有投資は、低利回りだけど、比較的安定的なキャッシュフローを狙う個人投資家主体の投資フィールドになっている。
しかし、中古マンション市場におけるリーディングカンパニーのスター・マイカが、このフィールドで類似の不動産投資モデルを展開して堅調な業績を上げており、注目された。スター・マイカのビジネスモデルは、筆者のコラム「中古ファミリータイプマンションの投資研究」で詳細に紹介しているが、同社のビジネスモデルを支えているのは
- 不動産仲介業者と密接な関係を築いて優良な中古物件をいち早く取得できる
- 2001年の創業時から査定したマンションが約5万件になり、首都圏のほとんどのマンションのデータが蓄積されているので、購入価格である「理論価格」を2時間以内にはじき出せる
- 取引銀行間で約20億円の借り入れ枠契約を結び、この枠で物件取得を行い、1年後に返済期限がきたら3年の長期借入金に借り換える、その後、取得した物件を売却し、売却代金で返済していく。返済ペースが安定している分、借り入れコストを2%程度に抑えることができる
- 同業他社と比べ長期借入比率が高くバランスシートが安定している
- エリア、築年数、価格帯をポートフォリオ構成してリスク分散をしている
などがあげられる。
またワンルームマンションと比較して低利回りで投資妙味がないとされきたファミリータイプだが、同社のビジネスモデルから投資対象として評価できるいくつかの点が見られる。
- ワンルームは投機的な特性が強く、価格の変動が大きいがファミリータイプは実需が主流なので価格変動が比較的安定している
- ワンルームは平均入居期間が短いがファミリーは入居期間が長いので空室リスクが低い
- ファミリーの入居者の方がワンルームの入居者より居住者の属性が一般に良質とされている
- 投資向けワンルームマンションに比べファミリータイプはオーナー自らが居住することを想定して建築されているため、一般的に設備や内装などのグレードが高く、品質も良いマンションが多い
- ファミリー向け分譲マンションは投資向けワンルームに比べ管理組合の意識も高く、管理の程度がよい
穴吹興産は、築10年以上を主体として事業展開をするが、マンションを時間軸で見た価格変動の特徴は新築マンションが購入後、10年経過まで急速に減価するのに比べ、10年経過後の値落ちカーブが緩やかになるという特性がある。つまり手持ちのマンション在庫で多額の評価損が相次いだ同業企業が多いなか価格下落リスクを回避できるというメリットがある。さらに穴吹興産が中古マンション事業に参入するメリットとして、新築マンションの販売時に、購入希望者が保有している物件を買い取るなど、本業の分譲マンション事業との相乗効果も期待できるし、分譲マンションで培ったノウハウを、中古マンションの査定にも生かす事ができるといった狙いもあるようだ。
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