来店客が採点する不動産屋の通信簿とは
「不動産屋」という呼び方は、業界人のなかでも古い世代には何となく軽蔑の響きを感じてしまう人が多いのではないだろうか。というのも、昭和の頃の「不動産屋」といえば、旧態依然とした路面店舗の外窓に所狭しと貼られた手書きの物件広告でなかの様子が解りづらい、そして垢抜けない店内というイメージが重なって浮かんでくる。そこで接客をする業者は横柄でウサン臭い人物というのが少なくなかった。当時のテレビや映画に登場する「不動産屋」はこのようなイメージをさらに膨らませ、デフォルメされた「不動産屋然」として描かれることが多かったようだ。
「不動産屋」が近代的業態の「不動産仲介業」に姿を変えてきたのは、社員教育や店舗戦略で優る大手系列業者等が相次いで参入し、業界の地殻変動に強い危機感を抱いた地元業者も生き残りをかけて店舗戦略や社員の接客等の改善を急速に進めたからだ。しかし、今でも大手や中小地元業者の別なく基本的な接客マナーに始まり、不動産全般の知識にいたるまで、また対顧客への気配り、誠実さなどで「お粗末」としか言いようのない業者もいる。
このような業者に出くわせてしまった不幸な人たちは、「親切で良い業者」に出会いたいと切実に願うようになるのは自然の成り行きだろう。一般の人、特に女性は、「部屋を借りたい」とか「不動産を売りたい、買いたい」というとき、不動産屋の店を訪れるにはかなり勇気がいるといわれている。最近の仲介業者の店舗は、心理的抵抗感なく顧客の導入ができるようにファサード・サインが工夫され、担当者の顧客応対もマニュアル化が進み、近代的サービス業へ進化している。とはいえ、「ユニクロ」などで買い物をするように気軽に不動産屋を訪れて、そのクオリティを吟味できないのが現実だ。
つまり、不動産業者に頼んだことがある人も、これまで全く業者と関わりがなかった人も、その必要がある折は「良い業者」に巡り会いたいと願っているわけだ。しかし、「良い業者」を探すツールは知人や友人などに業者の評判を尋ねるとか、ネットの掲示板等で調べるぐらいしかなかった。このような潜在的ニーズに着目して登場したのが「不動産屋の通信簿」だ。「不動産屋の通信簿」は、患者会員15万人が作る「病院の通信簿」を運営するフィードバック・ジャパンと法人向け住宅サービスを手掛けるリロケーション・ジャパンが提携し、不動産業者への来店希望者と不動産仲介業者向けの双方を対象にサービス提供しているものだ。
その仕組は来店者が利用した不動産会社の評価をアンケート形式で投票し、専用サイトに公開して、ユーザーが不動産業者を選ぶ際の参考にしてもらうと共に、不動産仲介事業者に対しては利用者目線での顧客の声をフィードバックし、顧客満足度調査や業者のサービス改善に役立ててもらおうとするものだ。来店者はアンケート用紙に記入して投函する。評価項目は不動産業者の営業担当者や業者のサー ビスを5段階評価し、コメントとして困ったことや不快なことなどに加え、営業担当者や社長などへの要望を添えて投票する。「特に詳細に聞いているのは満足度の項目だ。担当者の第一印象、対応、言葉遣い、身だしなみなどの他、情報量、アフターフォローなどの接客スキル、店舗の雰囲気や個人情報など会社としての姿勢まで5段階でチェックしていく。」(全国賃貸住宅新聞)
アンケート結果はレーダーチャートやグラフなどを取り入れたユーザー目線のビジュアルデータに加工された「通信簿」としてWeb上で提供されるので、ユーザーはより良いサービスを提供している不動産屋を選ぶ参考とすることができる。しかし、「お勧めできる理由」はユーザー閲覧画面にて公開されるが、その他のコメントは公開されない。ユーザーから見ればこの辺の情報が是非知りたいところだが、ネガティブコメントは真偽が解らず、故意に業者を貶めるケースもあり、名誉毀損・損害賠償に発展するリスクがあるからだろう。その他のコメントは、ネガティブも含めて「不動産屋の通信簿」を導入している不動産会社へはフィードバックされる。不動産仲介業の経営者には、来店客の生の声を反映し、「お勧めする理由・改善してほしいところ」「不動産会社に対する意見(要望・希望・感想等)」「担当者に対する意見(要望・希望・感想等)」を、より良いサービスを提供できるように、改善情報としてフィードバックされる仕組みになっている。つまり、フィードバック機能を活用して自店の担当者が来店客からどのように評価されているのかを知ることができ、「店内に荷物置き場のカゴが欲しい、とか個人情報保護のために隣と区切るパーテーションが欲しいなど利用者目線の要望を店舗側が理解する機会にもなる。」(全国賃貸住宅新聞)
業者は、これらの情報提供を受けることで具体的に改善点が浮かび上がり、対応策を考え実行することでサービスレベルを向上させ、担当者のスキルや自店の事業成績を向上させる事ができる。このサービスは利用店舗数が全国360店に拡大し、ユーザーからの返信も累計5,000件を超えた(全国賃貸住宅新聞)。リロネット加盟業者に加えそれ以外の不動産仲介事業者に対しても、全国のリログループの営業ネットワークを通じて「評価情報フィードバックサービス」を販売していく方針だ。
利用者と業者を繋ぐツールとしてなかなか考えられたビジネスモデルだ。今後はどこまで広範に通信簿の対象となる業者を捕捉できるかだが、情報量の充実もさることながら、運営リスクとのさじ加減は難しいだろうが、ある程度までは業者への辛口コメントも利用者へ進んで公表すると閲覧者がさらに増えるのではなかろうか。業者の宣伝ツールになっていると利用者が少しでも感じれば利用者が離反してしまうところにこの種のツールの運営の難しさがあるような気がするのだが。
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