不動産・建築業界も熱視線、巨大市場「スマートシティ」とは

日本の産業界が巨大市場「スマートシティ」に熱視線を注ぎ、事業参加に向けた動きを加速している。スマートシティとは、直訳すれば(「スマート=賢い」+「シティ=都市」)で、その市場規模と事業獲得の恩恵を受けると期待される産業の広がりは後述するが途方もなく広範で巨大なのだ。

「スマートグリッド」という用語が、オバマ政権が米国のグリーン・ニューディール政策の柱として打ち出したことから、一躍有名になった。「スマートグリッド」は、供給側と需要側の双方で電力の流れをITを利用して制御して最適化する送電網で、いわば次世代電力ネットワークといえる仕組みだ。そしてそのカバーする範囲を電力だけでなく都市で生活、仕事する市民の社会インフラに広げたものが「スマートシティ」だ。都市の社会インフラは市民が生活する上で欠かせない電気、水、建物のような構成要素とそれらをコントロールして支える行政インフラなどで構成されている。スマートシティは、これらを全て垂直統合してCO2排出量が少なくエコで無駄を削減した環境配慮型高効率の未来都市を実現しようというものだ。

「スマートシティ」が国内企業に与える影響は半端ではない。その市場規模だが、例えば日経紙によると「スマートシティの構成要素であるスマートグリッドだけでも日米欧で進められているプロジェクトの投資額を合計しただけで、2030年までの累計で100兆円を大きく超える(野村証券の予測)。スマートシティ全体となると、都市インフラ整備への投資額が2030年までに世界で41兆米ドル(約3730兆円)という途方もない数字になる(ブーズ・アンド・カンパニーの調査)。」

この巨大市場が広範な国内産業にビジネスチャンスの慈雨を降り注ぐことになる。なにしろ自国日本を含む先進国の都市の生活インフラの更新等に始まり、新興国では環境配慮型の高効率次世代都市を新たにいくつも創造してしまうわけだから…。例えば自動車業界はEV(電気自動車)が中心となって充電設備の監視・保守から位置情報、渋滞情報などの新交通システムとリンクするだろう。不動産業界、特に大手デベロッパーはエネルギーインフラ整備に先立つ道路・橋梁・交通の整備や宅地造成などの都市基礎インフラ整備に関わるし、住宅業界はスマートシティを構成する「スマートハウス」の建設やリフォームだ。「スマートハウス」は太陽光発電装置や太陽熱給湯装置、家庭用燃料電池などを活用した高効率な電力・熱の管理を行い、エネルギー利用量の「見える化」を実現するものだが、さらに省エネ照明・空調や新型断熱材などにもビジネスチャンスが広がる。建築業界は自動エネルギー管理・運転等を行う省エネ・環境型の「スマートビル」の受注が期待できる。IT業界は、スマートシティのなかの社会インフラで端末となる電力メーターや電気自動車、各種センサーを制御する情報ネットワークの更新・構築から社会インフラ以外の流通、製造、金融など広範な分野でもシステム更新等の需要が生まれる。このようにあらゆる産業で事業機会の可能性は無限に広がっていく。

このビッグビジネスに参加するには、既存産業の枠組みにとらわれず、全産業界が横断的に一体となって取り組んで技術研究・開発から仕組みの国際標準化までしなければならない。新興国など海外での事業獲得競争を制するのは困難だからだ。このような認識は産業界が共有しており、すでにスマートシティプロジェクト推進のため、ジョイントベンチャー「スマートシティ企画」が設立され、SAP AG、シャープ、日建設計、日本ヒューレット・パッカード、三井不動産、イーソリューションズが参加。東京大学と技術連携を図り推進。また、東京電力がオブザーバーとなっている。

さらに伊藤忠商事、清水建設、日立製作所、山武の4社が、「スマートシティプロジェクト」に参画した。この結果、RBB TODAY6月4日配信では、「伊藤忠商事の茨城県つくば市における電気自動車の実証実験や世界中でのスマートシティ関連事業のノウハウ、清水建設のマイクログリッドや建物のCO2排出量の削減技術、日立製作所のエネルギーインフラ構築力、山武のビルオートメーションシステムなどが加わり、体制が強化された。」スマートシティの壮大な実験はすでに世界中で動き出している。有名なところではアラブ首長国連邦の「マスダール・シティ」、オランダの「アムステルダム・スマートシティ」、中国の「天津エコシティ」などがあるが、日経紙によるとこれらは氷山の一角にすぎない。実は200を超えるプロジェクトが世界中で進行している。

なかでも日本企業の熱い期待を集めているのが都市化が急激に進む中国だ。中国政府は経済発展で農村部から沿海部都市への人口大移動が加速し、公害が急速に進行するなど都市化の歪みの是正が喫緊の課題となっている。このような背景から中国国内で幾多のスマートシティが計画されているが、その市場規模はケタ違いに巨大だ。そして日本は中国に地理的に近い。

日経同紙によると「天津郊外の「中新天津生態城(中国・シンガポール天津エコシティ)」が先行しており、2020年までに人口35万人の都市を造る計画だ。総投資額は2,500億元(3兆7,500億円)。実はこの天津エコシティ、中国で13あるエコシティ・プロジェクトの一つに過ぎない。このほか、新都市型で3つ(唐山曹妃甸、北川、トルファン)、再開発型で9つ(蜜雲、延慶、徳州、保定、淮南、安吉、長沙、深セン、東莞)のプロジェクトが進んでいる。」このなかで「曹妃甸エコシティ」は2020年に人口80万人という大都市をつくり出そうという構想で注目を集めている。「中国には大都市が600近くあるが、このうち100都市を「エコシティ化」する計画だ。つまり、今回の13のエコシティ・プロジェクトはモデルケースであり、技術や政策を実証するのが目的である。その後、これを100都市に展開する。国内の産業界が今、中国のエコシティ・プロジェクトに注目するのは、最初の「13」に食い込むことで、その後の「87」での事業も手に入るのではともくろんでいるからである。」

海外での事業獲得を狙うとした場合、手強いのが欧米勢で、自国政府なども一体となって事業獲得に乗り出す体制で海外での事業推進ノウハウに長けており、すでに先行しているとも言われている。日本が欧米勢と戦ってこの巨大マーケットにどこまで食い込めるか、その鍵を握っているのが、仕組み全体の総合的構築力とその仕組をどこまで国際標準・共通仕様とできるかの統合力である。

経済産業省でも、アジア新興国を中心に需要が増えている電力、交通など海外のインフラ事業を日本企業が受注できるように官民をあげて取り組むため、スマートコミュニティアライアンスを設立。業種を超えた企業間でビジョン・課題の共有を図るとともに、国内4都市(横浜市、豊田市、京阪名地区、北九州市)を次世代社会・エネルギー実証地域として採択し、将来のスマートシティ関連ビジネスの海外展開に向けたモデルケースにしようとしている。

スマートシティプロジェクトが、これからの日本を強力に牽引する成長産業の中核となるのは間違いなさそうだが、強力に推進するにはこれまで日本の弱点とされてきた官民をあげての国家戦略が欠かせないようだ。

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