少子化で相続の可能性が高ければ住宅需要はどうなる
日本国内では少子化で親世代の住宅・土地を取得できる可能性が高いのでこの先、土地・住宅の需要が低下していくという懸念がある。土地白書は標題のテーマを検討しており、示唆を与えている。
まず少子化であるが、合計特殊出生率の低下から昭和40年代以降に生まれた世代は、長男あるいは長女である場合が多いと考えられる。また、地方圏から大都市圏への大規模な人口移動のピークは昭和36年(年間65万人が移動)であったことから、昭和40年代以降に生まれた世代は、身近に住む親世代から、住宅・土地を相続によって取得できる可能性が高い世代であると考えられる。
もし子供世代が親から住宅・土地を相続で取得できる可能性が高く、さらにそこに居住する確率が高いならば次のような2つの推論ができると筆者は考える。
- 住宅・土地を新たに取得しようという需要量が低下する
- 近年の郊外の大型住宅団地等の高齢化問題は子供世代がそこに居住する確率が高まる分、緩和する
土地白書の分析と示唆は次のようなものだ。
平成15年及び平成20年の住宅・土地統計調査により、平成11年~15年、平成16年~20年の5年間に現住居の敷地を取得した世帯数とそのうち相続・贈与により取得した世帯数の動きをみてみると、昭和40年代以降に生まれた世代である40歳未満の世帯については、敷地を取得した世帯数は増えているものの相続・贈与により取得した世帯数は減少している。一方、40歳以上の世帯については敷地を取得した世帯は減っているが、相続・贈与により取得した世帯は増加している。両者を比較すると、昭和40年代以降に生まれた世代について相続による取得が増えたという実態も、取得を控えたという実態もみられないことが分かる。
次に、平成21年度に国土交通省が実施した「居住地域に関する意識調査」により、若い世代の相続と住宅取得に関する意識をみてみる。
親から住宅を相続したり譲り受けたりする機会、可能性について聞いたところ、20代、30代では、「親から住宅を相続したり譲り受けたりする機会があった」と回答した者が5.3%、「今後、親から住宅を相続したり、譲り受けたりする可能性がある」と回答した者が49.4%、あわせて54.7%にのぼっている。親からの住宅の継承の機会があった、可能性があると回答した者に、その住宅の利用方法や利用意向を聞いたところ、「自分が住んでいる/住む」との回答は60.7%と最も高いものの、「親族や他人に売却・譲渡した/する」という回答が12.3%、「親族や他人に貸している/貸す」が8.0%、「居住や利用はしていないが、維持管理をしている/する」が3.5%、「何もしない」が3.7%となっており、相続はするが自己の居住用に用いない者も3割近くいることが分かる。さらに、継承した/する可能性のある住宅に自らが住まない理由を聞いたところ、「住宅の立地が仕事や家庭の事情にあわないから」、「既に自ら別の住宅を取得しているから」、「既に老朽化が進んでおり、自ら居住していくのが不安だから」といった回答が上位を占めている。
以上から白書は次のように結論づける。
若い世代は住宅を相続できる可能性は高まるが、立地条件等の問題から、必ずしもその住宅に居住するとは限らないため、これまでのところ実際の住宅取得行動に対して大きな影響は与えていないと考えられる。
つまり少子化で仮に住宅・土地の相続の可能性が高いとしても前掲の2つの推論は、前提条件である居住確率が意外に高くないため必ずしも成立するわけではない。ただ子供世代が親世代の住宅に居住する確率が低ければ、高齢者が子世代への相続を前提にせず、住宅の資産価値を使い切るリバースモーゲージ手法の広がりにつながる可能性があるが、土地白書は、そのためにはリフォームや適正な維持管理による既存住宅の質的向上、流通の促進、資産価値の適切な評価等が重要であると指摘している。
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