賃貸マンション賃料の最新動向
ここにきてEUのPIIGSの財政危機から波及したEU内銀行の不良債権・金融危機リスクに加え、米国の住宅市場や雇用など経済指標が市場予測を大きく下振れし、米FRBの政策金利の引き上げ時期が遠のいたことで日米金利差動向から円高が急速に進行、日経平均株価を大きく下げている。
先のG20では各国が財政健全化の数値目標を掲げ、リーマンショック以後の景気刺激策から財政緊縮に舵をきり、新興国も中央銀行の出口戦略から新興国景気減速の懸念もでてきた。
世界経済回復シナリオの変調から日米欧同時デフレ懸念が拡大、景気の2番底リスクが再燃し、日本国内の景気回復シナリオにも暗雲が漂ってきた。これと連動して俄かに国内不動産価格や賃料のこの先の回復見通しもネガティブな見方が出ている。不動産価格や賃料は刻々と変わる世界経済情勢に遅行し、足元の数値はマクロ経済とタイムラグがあるのだが、本コラムでは直近のマンション賃料にフォーカスし各調査機関のレポートで直近の動向を探ってみよう。
アットホームと住信基礎研究所が6月12日に公表した「マンション賃料インデックス」によると、
- シングルタイプで札幌、仙台、大阪は上昇、名古屋は横ばい、東京23区、横浜・川崎、福岡では下落した。地方都市では早くから賃料による調整が進んでいたこともあり、下落余地は小さくなっている
- コンパクトタイプは大阪は上昇、札幌、仙台、横浜・川崎では下落した。市場に供給過剰感が残っている状況でも、広めの住戸を選好するニーズを捉え、比較的賃料が安定している都市が多い
- ファミリータイプは福岡は上昇、仙台は横ばい、その他都市で下落した。東京都心部の高額賃料物件ではターゲットとしている外資系企業勤務者や中小企業経営者等の法人借主の賃料負担力が低下したことで、空室が増加し、賃料が大きく下落している
各都市別で東京23区と福岡市をみると、東京23区における賃料インデックス(総合)は、2009年始めから下落が続いているが下落幅は縮小している。都心部では高額帯を中心として需要層が減少しており、かつ2005~2007年に大量供給された物件が募集中物件として市場に多く出回っている。そのため値下げに踏み切るオーナーが多く、賃料の下落が続いている。一方で、周辺区では一般勤労者の実需が主であることから需要層が厚く、供給の増加も比較的緩やかであったため、賃料の下げ幅は緩やかになっている。
福岡市の賃料インデックス(総合)を半期ベースの推移で見てみると、2006年以降上昇してきたが2009年度上期以降は下落に転じている。福岡市は、九州の拠点都市として流入人口が多いため、賃貸需要量は底堅く推移してきた。しかし、景気悪化に伴い家賃補助の減額など賃料負担力が低下傾向にあることや供給が過剰な状態に陥っていることが影響し、賃料インデックスは弱含みで推移している。
タイプ別に2009年度下期の動向を見てみると、2009年度上期に下落に転じたファミリータイプは上昇しているものの、シングルタイプとコンパクトタイプで下落している。特に、これまで堅調に推移してきたコンパクトタイプの賃料インデックスが大きく下落した。
リーシング・マネジメント・コンサルティング(LMC)が6月30日発表した足元での「賃貸マーケットデータファイル」の一部によると都心5区(中央区、港区、渋谷区、新宿区、千代田区)内の賃貸マンション募集坪単価は、全体的に現状維持傾向が強い。一方で、同区内の賃貸マンション成約坪単価は、5月に入り大きく下落するエリアが目立ち、依然として成約物件の中心は、手ごろ感の強い物件手ごろ感の強い物件である。
2010年1~3月の需要拡大期終了後、総じて対前月比が下落傾向にある。ただ、港区をはじめ、一部エリアでは募集賃料と成約賃料との乖離が大きくなっており、来月以降、坪単価上昇となる可能性もある。また2010年4月以降、賃料を下げ礼金を上げる物件が、一部エリアを中心に増加傾向にある。例えば、千代田区の坪単価推移は2010年1~3月の需要拡大期において下落したものの、先月にはいり上昇に転じる結果となった。成約賃料については、毎月の坪単価の推移を追うだけではなく、礼金等のリーシング条件全体をより細かく確認していく必要が高まりつつある。
ケン不動産投資投資顧問が発表した「2010年第一四半期主要3区の高級賃貸住宅マーケット動向」によると、空室が高止まり、賃料下落が顕著だった都内の高級賃貸住宅も底入れ感がでてきた。港、澁谷、世田谷の成約賃料は坪当たり14,172円で前年同期比6.7%マイナス。直近5年間で最も賃料が高かった2008年第1、2四半期から坪当たり3,000円近く下落しているものの空室を埋めるための賃料調整は一段落したようだが、礼金減額、フリーレントなどが続いており実質的な賃料下落は依然続いている。同レポートによると高級賃貸住宅の需要を支えてきた日本人の入居需要が増加し、30万円未満の賃料帯は動きが多くなっているなど、明るい兆しも出てきている。
以上を概観すると、足元での賃貸マンションの賃料動向はまだら模様で現時点で本格的な回復軌道に乗っているとは言い難い。というかこの先、デフレ不況の風が強まれば当然ながらさらに下降する局面もある。そこでマクロ要因から今後のマンション賃料動向を予測してみよう。
まず賃料と相関性が高い入居層の就業環境が依然として厳しい。5月の完全失業率は5.2%となり、前月よりも0.1ポイント上昇し、3ヶ月連続の悪化となった。昨年7月に過去最悪の5.6%を記録した後は、今年1月と2月に4.9%まで回復したが、3月以降は再び5%台に乗せている。有効求人倍率も5月は0.44倍で、前月比0.02ポイント低下し、過去最低を更新した。
賃金動向は一部に改善が見える。5月の毎月勤労統計調査によると、従業員1人当たり平均の所定外給与(残業代など)は、全産業ベースで前年同月比10.3%増の1万7,575円だった。増加は5ヶ月連続。生産活動の回復を背景に、残業時間を示す所定外労働時間が9.6時間と10.4%増えたことが影響した。しかし、現金給与総額は0.2%減の26万7,721円と3ヶ月ぶりに減った。賞与など特別に支払われた給与が6,054円と23.6%減ったためだ。基本給を示す所定内給与も0.1%減の24万4,092円と22ヶ月連続で減った。賞与や 所定内給与が減っており、賃金の本格回復とはまだいえない。上場企業を中心とする調査でも企業は海外展開によるコスト管理強化から雇用削減や賃金抑制意向が強く、当面は厳しい就業環境が続くと見られる。
さらに賃貸需要を支えている世帯分離が不景気で減少していることも賃料を下振れさせる。具体的には親と同居している子どもが世帯分離して親元を離れたくても就業環境悪化や1人暮らしが経済的に困難等で親元に同居しているケースが増えているからだ。
国内景気の回復に変調が囁かれるいま、賃貸マンションの賃料が短期で本格的に好転することは厳しいといえる。
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