賃貸住宅の需要を決定する要因は

賃貸住宅の需要、つまり入居者である借り手側の需要量を決定する要因を考えてみよう。(社)不動産協会の「東京圏における住み替え行動の実態と要因に関する調査報告書」は、世帯数の増加および世帯人員の減少が、ともに借家需要を増加させるとしている。世帯数の増加は「親族→借家」または「借家→借家」という流れで世帯分離して新たな借家需要を生むし、規模の小さな世帯は、世帯規模にあった借家を好む傾向にあるからだ。同調査では、1999~2003年で見てみると団塊ジュニア世代(1971~1974 年生まれ)を含む「25~34 歳」で、「親族→借家」(45.4%)「借家→借家」(37.2%)の比率が相対的に高くなっているが、これは団塊ジュニア世代が就学・就職時期を迎え世帯分離していることが原因であるとしている。

この賃貸住宅需要を支えてきた世帯分離が最近になって減速しており、賃貸住宅需要減退の隠れた要因になっていると分析するのがアトラクターズ・ラボ社長の沖有人氏だ。全国賃貸住宅新聞の「需要減退の隠れた要因」というコラムの沖氏の見解を簡単に紹介する。

リーマンショック前後から賃貸住宅市場の需給バランスの潮目が変わり、市況が悪化しているが、この原因は供給サイドの着工戸数は大幅に減少しているのに需要サイドの減退で需給調整が進まないことにある。
そして需要減退の主因は世帯分離の鈍化にある。つまり都市圏における借家世帯数は、

  1. 流入超過人口
  2. 外国人人口の増加
  3. 世帯分離

による増加から構成される。

この中で1、2はピーク時より減ったものの依然として増加が続いているが3の世帯分離は景気の悪化による雇用や所得環境の厳しさが直撃して急激に減少している。具体的には親元から離れて子どもが世帯分離したくても職に就けず1人暮らしが経済的に困難なため親元に同居しているケースが増えているからだ。

リーマンショックの際の世帯分離状況が今も続いていたら、都区部の世帯数は約1.8万人増えていた計算になり、この数は都区部の民営借家世帯数163万世帯の1%強となる。つまる都区部全体の空室率を1%押し上げるほどのインパクトを持っている。

つまり世帯分離動向は家計の雇用や所得と相関が高いので、有効求人倍率、失業率、雇用者報酬などの指標が好転してくれば賃貸住宅需要は世帯分離の増加を通じて改善することになる。関連の経済指標のモニタリングがかかせない。そこで足元の家計の雇用・所得の状況を見ると、4月の完全失業率は5.1%と、前月比で0.1ポイント上昇。昨年7月に過去最悪の5.6%を記録した後は、今年1月と2月に4.9%まで回復したが、3月以降は再び5%台に乗せている。有効求人倍率も0.48倍と、前月より0.01ポイント低下。雇用情勢は依然として厳しい。

4月の毎月勤労統計調査では現金給与総額は1.5%増の27万5,985円で、2ヶ月連続のプラス。製造業を中心に生産活動が回復し、残業時間が増えた結果、所定外給与が11.3%増の1万8,650円と4ヶ月連続で増加した。ただ、所定内給与は0.4%減っており、賃金の本格回復とはまだいえない。

外需主導で回復してきた国内景気だが、家計の雇用・所得への回復の波及は遅行性があり、依然として厳しい状況が続いている。足元の経済指標から見ると賃貸住宅の需要の回復は当面は難しい。

因みに景気循環と賃貸住宅需要の連動は、賃貸住宅の入居者のボリュームゾーンである若年人口が急減している大半の地方都市においては構造的な需要減少であるため希薄と言えよう。

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