菅直人政権のマーケットの評価

民主党ツートップの道連れ辞任後、国内政治状況は激変した。そして本日6月8日組閣を終え菅内閣がスタートした。一般紙は相変わらず政権人事を「親小沢、非小沢」という視点から書きたてた。今回の党内人事や組閣は「非小沢色」が鮮明になったとして概ね各紙の評価は高く、国民の支持もV字回復を見せている。一方、経済紙は菅直人政権に対する経済的側面であるマーケットの評価を紹介しているが、鳩山政権が「鳩山不況」などと酷評されたのと違い、今回はまだ政権スタート時だが、現時点では、マーケットフレンドリーな総理として比較的評価が高いようだ。

「強い経済、強い財政、強い社会保障を一体的に実現する」とする主張は、ケインジアンになぞらえ「カン(菅)ジアン」とも「菅のミックス」とも呼ばれる。消費税の増税が家計を冷やし脱デフレをさらに困難にするのではないかという不安はあるものの、財政再建、経済成長の今後の道筋をつけるものとしてマーケットに評価されている。

新閣僚等の布陣を見ても新財務相の野田氏は積極的な財政規律派だし、政調会長の玄葉氏も「次の衆院選後に消費税を含めた税制の抜本改革を行うことを参院選マニフェストに書く必要がある」と意欲を示しており、新政権の「やる気」は十分に感じられるからだ。また菅総理は、財務大臣就任会見で「もう少し円安がいい」などと発言し、「デフレの深刻化と支持率の低下を招きかねない円高は、なんとしても阻止する」という強い姿勢を示したとして個人的に円安論者とされていることもマーケットの好感材料になっている。

例えば、バークレイズ・キャピタル証券・チーフエコノミストの森田京平氏は「消費税も含めた増税議論の封印を解き、経済と財政、社会保障分野が一体であることを打ち出したことに対し、市場では、これまでに比べて大きな進歩」と捉えているコメント。(6月8日ロイター)

また朝日ライフアセットマネジメントチーフファンドマネージャー・佐久間真氏は「菅氏は円高を阻止しようと姿勢があるため、ひとまず株式の買い安心感につながる。法人税の実効税率引き下げなどに積極的である点も評価できる」とコメント。(日経ヴェリタス 2010年6月6日号)

ギリシャの財政破綻がマーケットの懸念材料となって世界株価を下押ししているが、日本国内の財政状況はさらに厳しい。国際通貨基金(IMF)は5月14日、世界各国の財政見通しに関する報告書を発表。日本の債務残高の対国内総生産(GDP)比率は、2015年に主要国や新興国のなかで最悪の250%に達すると予測。先進29ヶ国の予想平均は110%で、10年の日本の債務残高は同227%となっている。 現に2010年度予算は、歳出92兆円だが税収は37兆円しかない。不足分は国債発行額44兆円で賄うという綱渡りだ。

子供手当、農家の戸別補償、高速道路無料化など先の総選挙で公約した財政の手当がない大盤振る舞いが民主党政権の重しになり、政府に加え、政策の歪みを敏感に感じ取った国民も共に閉塞感を共有するというどうしようもない事態になっている。当然ながら海外投資家も人口減少と高齢化に加え、政府部門の債務残高の異常に高く積み上がった日本への投資には慎重にならざるを得ない。とはいえ、現状では日本の国債の長期格付けはダブルAで信用力は高く、国内金融資産、外貨準備高の潤沢さからみて当面は暴落するとは考えにくいが、団塊世代が本格的に退職する2012年問題など国内の個人金融資産の減少が進むリスクなどがあり、先行きでは予断を許さない。

もはや小手先の円安介入や金融緩和では国内に漂う暗雲を振り払う力はないことが歴然としているのだが、この現状を打破すべく出された管総理の日本経済再生策が「第三の道」と呼ぶ「管のミックス」だ。公共事業偏重の財政支出の田中角栄型を「第一の道」、規制緩和・小さな政府の小泉構造改革を「第二の道」、両者を失敗として止揚したものが「第三の道」と謳う。

「菅のミックス」とはいかなるものかというと、従来の要らない道路や空港などを作り続けてきた公共工事に代表される無駄な歳出に代わって、今後、成長が期待できる介護や医療、観光、環境分野などに政府支出を重点的に配分して成長させ、雇用や消費を活性化して有効需要を喚起させる。政府支援の結果、年金、介護、医療といった社会保障が成長・充実して国民の将来不安が解消。消費が増えて内需拡大するという考え方で、そのために「増税しても、有効需要を喚起できる社会福祉など成長分野にお金を傾斜配分すれば景気はよくなり、経済成長を実現できる」というものだ。

小野善康大阪大学教授が経済政策ブレーンとなっており、小野氏の経済モデルは政府が国民より賢いという前提で官製事業の肥大化になるという批判も一部の経済学者にはある。

「菅のミックス」を構成する新成長戦略や財政再建策は、6月中に閣議決定する予定の「中期財政フレーム」と「財政運営戦略」でかなり具体的に示される予定だが、ここで消費税を含む税制改革への道筋が明らかになり、税金が傾斜配分される成長分野の成長戦略がどこまで具体的な根拠を伴って明確にできるか、新政権の力量が問われることになる。

また民主党の参院選マニフェストで、財源の身の丈に合わせた衆院選マニフェストの見直しがなされるかも注目される。この際、是非、検討して欲しいのが法人税減税と規制緩和だ。主要国の間で高いといわれている国内の法人税の減税は国内企業の海外移転を抑制し、海外資本の流入を促進し、設備投資を喚起して国内で生産される製品の付加価値を高めることになる。規制緩和はそのための歳出は少なくて国内の経済成長を促進する効果が高いことはこれまでに実証されている。

70%を超える高い支持率でスタートした鳩山政権もガッカリ続きの稚拙な政権運営で支持率20%まで急落した。政局と株価には諸説があるが、支持率が低下すると外国人投資家の日本株買いは細る。日本経済研究センター主任研究員前田昌孝氏によると「外国人投資家の過去8年弱の売買動向を分析すると、内閣支持率が35%以上ならば日本株を買い越すことが多く、35%を割ると売り買いが交錯気味になる(日経ヴェリタス 2010年6月6日号)。」という法則がある。

停滞した日本の状況を打破するため、勇猛果敢に戦ってもらいたいという期待を込めて、奇兵隊内閣とでも名付けてもらえればありがたいと管総理は訴えた。この人の持ち味である突破力が裏切られ支持率が急落するとマーケットの信認は得られない。前政権と同じ轍を踏まないように日本再生のため頑張ってもらいたいものだ。

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