廃校を大規模アートセンターへ建物再生
日本の人口構成の巨大な塊だった団塊世代が小・中学校生だったころ学校の生徒数はピークを迎えていた。しかし、近年の人口減少、少子化で生徒数が激減し、廃校となるケースが増えている。かつて少年時代に通学した学校へ遠い記憶を辿り、懐かしさと一抹の郷愁を感じる者にとって、その母校が時代の変遷で廃校の憂き目にあい、朽ち果てていく姿を目にすることは、何ともやるせないものものだ。その地域にとっても廃校になった小中学校の残骸は地域全体の衰退を象徴するようで行政も住民も気が重いだろう。
しかし、最近になって全国各地で廃校となった校舎を再生する意欲的な試みがなされており、コンバージョンにより新たな時代の感性で用途を一新し再レビューするケースも増えている。そのような再生事例として東京都心部で廃校となった中学校を「大規模アートセンター」として蘇らせた事例を紹介しよう。
昔、ダントツの東大進学率で名を馳せた都立日比谷高校を目指す越境入学者等で溢れた千代田区の練成中学も都心部人口の減少や少子化から生徒数が減少の一途を辿り、平成17年に一橋中学校、今川中学校、練成中学校が統合されて神田一橋中学校となった結果、廃校となった。
廃校を宣告された当該中学の地上3階建て校舎が千代田区とアーティスト集団のコンバージョンにより大規模アートセンター「3331 Arts Chiyoda」に生まれ変わった。2010年3月14日にプレオープン、2010年6月下旬にグランドオープンする。運営は東京芸術大学の中村政人准教授が率いる合同会社コマンドAで、同社が千代田区と賃借契約を締結し、テナントからの賃料収入を収益源として同施設を運営する。
当該施設は、アーティストの創造力と千代田区の国際性や伝統文化など地域の創造性が共鳴し、成長する日本初の参加型交流センターを謳う。 玄関・廊下がギャラリーに、教室がシェアオフィス・貸し会議室等で、体育館を多目的スペースに利用するなど、校舎の元々の躯体の原型を活かす工夫がされている。また屋上は1区画6㎡、18区画を有料菜園として一般、区民に貸し出し予定。地下1階も低料金でテナントが制作活動できるスタジオ工房を配置した。当該施設の内装工事は、コマンドAが設計段階から手がけ、千代田区は経年劣化部分を改修するなど官民のコラボレートが実現している。
次世代を担うアーティストや美大関係者といった文化・芸術に関わる活動を行うテナントなどがターゲットで、「賃料は坪単価1万円~1万1千程度と相場より低く設定されており、金銭面のハードルは下げられている。スペースは既に8割ほど埋まっているが、連日問い合わせが寄せられている。」(月刊プロパティマネジメント)
「廃校とアート」という”取り合わせの妙”にワクワク感を感じてしまうのだが、「3331 Arts Chiyoda」のような試みがアーティストの支援だけでなく事業収益・不動産投資の両面で成功を収め、当該事業が継続されると文字通り周辺も共鳴し好影響が波及する。その結果、建物価値がゼロに限りなく近い老朽建物の潜在的パワーへの再評価が始まることが期待される。
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