資産除去債務計上とは

日本では2010年4月以降の事業年度から「資産除去債務会計基準」の適用が開始する。資産除去債務とは、工場など有形固定資産に関して、法令や契約で求められた将来の撤去費用を見積もり、決算書に計上しなければならないものをいう。

日本基準と国際財務報告基準(IFRS)とのコンバージェンス(収斂)の一環として設定されたもので、有形固定資産の除去に関する将来の負担を前倒しで財務諸表に期間配分して反映させることを目的としている。

例えば、工場閉鎖時の有害物質の除去や賃借店舗閉店時の原状回復などの費用が対象だ。また借地上の建物の撤去費用も該当する。例えば、三井不動産は、ららぽーとやアウトレットモールの一部を借地の上に建築しているが、新基準に基づいた費用負担が発生することになる。

具体例をあげると、

巨額の資産除去債務を計上すると見込まれるのが電力会社。原発の解体費用が1基あたり約600億円に上るためだ。ただ電力会社は、以前から法律に従って総解体費の90%を「原子力発電施設解体引当金」として毎期の発電量に応じて費用計上している。この引当金を資産除去債務の一部として引き継ぐため、来期は過去分のうち未引き当ての10%分を特別損失に一括計上すれば済む。(日本経済新聞)

うどんチェーンのグルメ杵屋は2011年3月期、「資産除去債務」と呼ぶ新しい会計基準を525店の直営全店に適用する方針だ。将来、営業不振などで閉店・退去する可能性があることから、退去費用を見積もって財務諸表に反映させる。費用は11年3月期に特別損失として計上する予定だ。グルメ杵屋は大半の飲食店を直営方式で商業施設を中心にテナント出店しており、退去の際は原状回復費用が平均で460万円かかる見通し。525店全店だと約24億円に上る。(日本経済新聞)

従来までの有形固定資産の除去に関する会計処理では、その除去時に特別損失を計上していた。新基準ではこれらの費用を有形固定資産の使用年数にわたる毎期の減価償却費として費用配分される。

この結果、「資産除去債務会計基準」の適用が財務諸表に与える影響を探ると、野村証券「野村週報第3223号」によれば、

  1. 営業利益の減少
  2. 適用初年度における特別損失の計上
  3. 自己資本比率の低下

の3点になる。一時的な特別損失の計上や多額の負債計上でバランスシートが悪化し、信用格付けが低下するリスクや事業へ影響を及ぼすといった問題が発生する可能性がある。とはいえ、現実には資産除去時に撤去・原状回復コスト等がキャッシュアウトするのでキャッシュフロー計算上はこれまでと変わらない。

小売りや外食では賃借店舗の閉店時の原状回復コストが対象になるため、これまで以上に出口戦略の重要性が増すことに加え、賃借店舗全体の造作等の契約条件や撤去予定時期の調査などこれまでより詳細で緻密な管理手法の確立が企業に求められる。

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