住まいを小さく建て替える減築が増えている
持ち家保有率が高い中高年の間で戸建住宅を小さく居心地良い住まいに建て替えたり、リフォームをする「減築」を選択する人が増えている。
「増築」は耳慣れている。しかし減築を知る人は少ない。「増築」が家の面積を足し算で増やすのに比べ、「減築」は、文字通り家の面積を引き算で減らすことである。不要になった子供部屋を取り払ったり、今まで2階建だったものを老後に備え2階部分を取り払い平屋にしたりする。
これまでの日本では、単身時のアパートを手始めに、結婚して分譲マンション、子供が増え、資金に余裕ができて戸建住宅をといった具合に手狭になった住居スペースを徐々に拡大していく「住宅スゴロク」が支配的だった。つまりできるだけ広い戸建住宅を取得してそこに住まうことが住宅スゴロクの上がりだった。しかし、住宅スゴロクには次の「減築」というステップがあったわけである。
取得した戸建住宅も子供が独立して家族数が減っていくと、余剰なスペースを抱え、日常をそこで過ごすには快適でないものになってしまう。残された老夫婦にとって足の痛みで階段の上り下りに苦労していたり、余剰部分のメンテナンスや掃除なども負担が大きい。
また増築が繰り返された住まいは、居住効率やバランスが悪く、家の中心部分で採光や換気も悪いことが多い。そこで住まい手の家族数や日常生活のサイズに合わせて住まいをコンパクト化する減築が実行されると家庭用菜園や中庭が誕生して、家の中に光と風が入るようになる。
日常生活のうえでも目が届き、住人の移動距離が少なくて済む範囲に必要なものが配置され、バリヤフリーにして老後を快適・安全に暮らすことも可能だ。
減築にはリフォームで既存家屋の基礎や軸組みを残しながら面積を減らすやり方と、更地化した後、新築して建て替える方法がある。リフォームで減築するとき気をつけなければならないのは、引き算して取り払う部分と残部との構造的配慮だ。柱や梁、壁の位置や強度を検討することを忘れてはならない。
一方、既存建物を取り壊して建て替える場合は、取り壊し費用に加え、新築コストがかかり、費用負担が重い。しかし、500万円台の小型住宅が登場するなど住宅各社による価格の下落でハードルも低くなった。日本経済新聞から引用すると、
「1,000万円を大幅に下回るのなら新築の方がいい」。埼玉県鳩ケ谷市に住む男性(42)は、現在母親と住む築40年の戸建住宅を壊し、同じ場所に新しい住宅を建てることを決めた。選んだのはアキュラホーム(東京・新宿)の「新すまい55」。550万円と格安な価格が決め手になった。延べ床面積は60平方メートルと旧宅の半分だが、「昨年に父が亡くなったので広さは不要。母は足が悪いので狭い方が生活しやすい」と考えた。
アキュラホームが昨年4月に売り出した際は、30歳代の子育て夫婦を見込んでいた。ところが2月末までに実際に受注した90棟のうち60歳代が22棟で最も多かった。同社によれば「管理のしやすさを考えて狭い住宅に建て直す高齢者が多い」。
ミサワホームが2008年に発売した平屋建住宅「スマートスタイル・エー」。70平方メートル前後の延べ床面積で1,100万円台からとプレハブ住宅としては割安で、09年度の販売実績120棟のうち3割は60歳代以上だった。
減築は戸建だけでなく団地再生にも生かされ、その手法が注目されている。例えば、1990年代半ば、ドイツの旧東ドイツ地域にあるライネフェルデ市は、階段室型の団地を大規模造成したが、ドイツ統一後、多くの住民が旧西ドイツ地域に移り、空室率が30%以上に達したため、減築で再生計画を実施し、1戸当たりの居住空間を平均で約50%広げ、間取りの選択肢を増やした。その結果、住民も増え好評だという。日本国内では、都市再生機構によるは堺市西区の向ケ丘第1団地の再生がある。1960年代の建設で、古い耐震基準で建てられており耐震性に課題があった。そこで上層階を撤去したり、階層内の住戸を減らして、建物全体重量を軽減し、耐震強度を高め、エレベーターを新たに設置したり、各住戸の居住性を様々な工夫で向上させた。戸建の減築は家全体の面積を減らして居住スペースをコンパクトにするのが目的だが、団地再生は1棟建物の階数や面積は全体としては減少させるが、各住戸の居住スペースを広げることが多いという違いがある。
いずれにせよ、減築という手法は、人口減少や高齢化・小家族化といった時代背景のなか、今後の住宅の方向性を考える上で注目される。
■関連記事
減築という発想