出遅れセクター銀行株は買いか
どうやら2番底もなく日本経済は景気回復軌道を緩やかだが順調に歩んでいるようだ。日経平均株価はこのところ過熱気味でテクニカル面では4月2日の25日騰落レシオが警戒ラインの120を遥かに超えて150付近まできた。輸出関連大型株の買いも割安感が薄れ、内需株や出遅れ株へ投資家の物色が進んでいる。
そんななか出遅れが目立つ銀行株が注目されている。例えば、出遅れた大手邦銀株をヘッジファンドが買っているという。「マクロ系ヘッジファンドが、普段買わない個別株に投資しているのだ。対象は大手銀行株。銀行株は景気敏感の傾向が強く、2003年や2005年の日経平均の上昇時に急騰した実績がある。日本の国内景気の回復を見込んだヘッジファンドが指数先物よりリターンが見込めるとみて買いだしたという。」(日経ヴェリタス 2010年4月4日号)
出遅れの銀行株は買いか、研究してみよう。
昨年来の日経平均株価回復のなか銀行株が出遅れている理由としては、さまざまな政策リスク、ソブリンリスクなどが逆風となって株価上伸を抑制したことが挙げられる。その要因としては
- 自己資本比率規制強化を受けての大型公募増資による1株当り価値希薄化
- 中小企業に対する金融円滑化法案による不良債権拡大懸念
- 日航再建問題による銀行債権放棄要請
- ドバイショックによる大手ゼネコンへの融資回収リスク
- 米国の新金融規制法案による規制強化
- EUの財政構造の脆弱性。例えばギリシャからスペインなど南欧への波及リスク
- 亀井静香郵政・金融担当相らがペイオフの上限引き上げ
などが挙げられ、各要因をこうして時系列に辿ってみると銀行株が日経平均からアンダーパフォームして、冴えない展開をしてきた理由が解るというものだ。
しかし、今、振り返ると自己資本比率規制は実施時期が延期され、メガバンク3行が行った大型公募増資は、財務基盤強化や経営戦略面への自由度に寄与することになったともいえる。米国の新金融規制法案のボルカールールは着地点が見えず不透明感があるが、当該法は、銀行が市場で資金を大量に調達してリスクが高い資産運用をすることを規制するもので、貸出しと国債運用が主体の国内銀行への影響は少ない。
亀井金融担当相の2、7の法案は、最初に上げたアドバルーンからみると比較的影響が少ない着地点で落ち着いたのはいつもの通りといえる。EUの財政構造の脆弱性による資金回収リスクは、例えば南欧の海外資金調達で邦銀の資金が仏、独、英など他国に比べ少なく、影響は小さいものと考えられる。他の要因は悪材料出尽くしといったところになるだろうか。
国内外の政策やソブリンリスクに翻弄され続けた銀行株も、出遅れ・割安感から反騰局面に入ると見る市場関係者が増えている。投資対象としての銀行株だが、株価上昇時はメガバンク株が地銀株より上昇幅が大きく、下落時はメガバンク株の下落幅が地銀株より大きいといわれているので、この先の相場展開を強気にみればメガバンク株に絞られる。
野村証券は、「月刊資産管理2010年4月号」で三井住友ファイナンシャルグループと三菱UFJファイナンシャルグループについて好調な市場営業部門と与信費用比率低下で実質業務純益予想を上方修正し、業績モメンタム底入れの兆しから10.3期レ―ティングを「1」にしている。
銀行株への期待が高まっている背景として国内の長短金利差の拡大もある。「銀行は金利差が開くと債券などの運用収益が高まるため、金利差と銀行株は連動性が高い。新発10年物国債利回りと東京銀行間取引金利(TIBOR)との差は、3月末では0.96ポイントと、07年夏以来の水準に開き、銀行株への期待を高めている。」(日経ヴェリタス 2010年4月4日号)
コラムの最後に銀行株の投資手法を紹介しよう。経済専門チャンネル日経CNBCで「短期では冬の銀行株に春が到来するが、中長期では静観すべし」と語るのがJPモルガン証券シニアアナリスト笹島勝人氏だ。その根拠として「銀行株の動きを過去数年でみると、突然上昇して、上昇期間が短く、持続性がない。銀行の収益構造のコアである貸し出しも低成長経済下で成長シナリオがない。また自己資本比率規制強化や米国の新金融規制法案、EUのソブリンリスクなどが再燃して銀行株価のリスクに再度なる可能性がある。」と説明する。
銀行株はアノマリー等から見てどうやら利益確定タイミングを早めに探る短期勝負に勝機があるようだ。
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