アノマリーで株価を予想すると

■アノマリーとは

アノマリー(anomaly)とは、市場の変化について合理的な説明ができないが、不思議によく的中する現象のことで、例えば、「月曜日の株価は高い」、「晴れた日は株価が上がる」など市場関係者の経験知から導き出された「株価の動きのクセ」のようなものである。

株価は、企業のファンダメンタルズを反映して形成される反面、非合理な側面からも株価形成をある程度まで説明できるという多層性を併せ持つ。アノマリーは、合理性だけでは投資家の行動を捉えられないという前提に立つ行動ファイナンスの研究対象で、価格理論から導かれる期待収益率を上回る収益率を生むこともできる。とはいえアノマリーはあくまでも過去データから導かれる経験則であって時代変化が急速な時代に万能の予測ツールとして捉えるのは危険とも言える。

今回のコラムは、アノマリーを駆使して、2010年末までの株価予想をしてみよう。

■過熱感も漂う国内株価

中・米・欧に発生した3極リスクで軟調な展開となっていた日経平均株価だが、3極リスクもやや薄らぎ、このところ上昇局面を迎えている。そして本日24日は、23日の米株高を好感し、主力株を中心に上昇した。最近の株価好調の背景は外部環境がかなり好転したからだ。まず米国から見ると2月の米国雇用統計の予想を上回る結果やFRBの超低金利政策の継続確認でNY市場は堅調な動きとなっており、3月のNY連銀製造業景気指数で新規受注の伸びや雇用指数も順調だった。また米中古住宅販売も1月から連続マイナスだが502万戸で市場予測の500万戸を僅かだが上回った。マイナスになったのは2月のNYを含む米北東部と中西部の大雪の影響を受けたからで、3月はプラスに転換するというのが大方の見方だ。とはいえ、米国の住宅市場は、在庫が増加し、差し押さえ物件が増えるなど不透明要因もあり、今後の展開についてはまだら模様の住宅関連指標から見て楽観視はできないが…。

日本国内も好調な新興国経済が牽引する輸出の伸びと、劇的な在庫調整の進展で鉱工業生産指数に見る生産の回復が顕著で、製造業を中心に業績が回復しており、さらに非製造業も回復の兆しが見え始めた。不動産業界から観るとオフィス市況と相関が高い設備投資の底入れの兆しが出てきたことは明るい。3月4日発表された2009年10~12月期の法人企業統計で、金融・保険業を除く全産業の設備投資のマイナス幅が前期より大幅に縮小した。年度後半には家計も最悪期を脱し、景気回復が加速するだろう。6月の子ども手当支給開始は、一時所得の定額給付金と違い恒常所得に近いので経済学でいう「恒常所得仮説」から見て消費の押し上げ効果は高いため、個人消費が回復する可能性がある。

以上の理由から緩やかだが国内景気が回復している認識を市場関係者が共有しており、その結果、国内株価が堅調なのだが、テクニカル面では日経平均の騰落レシオが警戒シグナルの120を3月17日から超えるなど過熱感がでている。今後、日経平均株価は、現状の過熱感を上抜けてさらに上昇するのか、下値を探る展開が待っているのか、2010年末にかけてどのような動きを見せるのだろうか。アノマリーを使って株価予想すると意外にも明るい株価予想もでてきた。

■アノマリー1:日米株価の相関と米中間選挙

米国の株価と日本の株価に密接な相関があることはよく知られている。日本の今後の株価を予想するには、まず米国の株価の今後の動きを予測しなければならない。その米国の株価だが、今年は米中間選挙の年である。そして米国の大統領選挙と米株価にはアノマリーが見られる。

大和証券キャピタル・マーケッツの木野内栄治チーフテクニカルアナリストは、日経ヴェリタス(2010年2月28日号)並びに経済専門チャンネル「ダイワ・証券情報TV」で、米中間選挙の今年は日米共に株式投資で買い場がくると説明する。つまり、中間選挙の年(2010年)は株価が下がることが多く、大統領選挙の前年(2011年)並びに選挙の年(2012年)は株価が上がりやすいというアノマリーがある。つまり今年、有望な株を仕込んでおくと、翌年、2年後と株価が上がるので、押し目買いのチャンスがあるというわけだ。そして木野内氏は米民主党が政権をとっている期間の中間選挙の年に株価が底になるのが多いのは6、7月頃が多いので今年の年央が買い場と予測する(木野内氏はこの根拠をハイテクの2年サイクルやNYダウと日経平均の天井のタイムラグなどから論証しているが省略する)。

このアノマリーの確率を過去データから検証するとかなりの的中率になっている。特に大統領選挙前年の株価上昇の的中率の高さには目を瞠るものがある。「NYダウの上昇率が最大なのは大統領選挙前年で、平均18%さらにさかのぼると、戦後から2007年までの16回全てで上昇した。(日経ヴェリタス 2010年2月28日号)」と最強の的中率なのだ。また大統領選挙の年のNYダウも平均5%上昇している。理論的に考えると大統領選挙前年は、選挙対策で経済政策を打ち出すし、財政に余裕があれば財政政策、そうでなくても景気対策の利下げがされやすいので株価が感応するからともいえる。

木野内氏の描く2010年末までの国内株価の動きは米国株価と連動して「5月頃まで株価はしばらくもみ合って、2010年の年央である6、7月頃に9,500円ぐらいまで下落。そこから世界株価からアウトパフォームして年末にかけて13,000円くらいまで上昇する(ダイワ・証券情報TV)」というシナリオだ。

このシナリオを日本経済の現時の実体に当てはめてみると、年前半は、公共投資を中心とする景気対策の息切れや、3極リスクである中国をはじめとする新興国の利上げ、米国の金融規制、EUの財政構造リスクが時々頭をもたげてマーケットを冷やす局面も考えられるが、年後半は新興国主導の世界経済の回復で輸出が伸び本格的に国内景気が回復すると考えられるので、アノマリーによる上記の株価シナリオも説得力があるようだ。

■アノマリー2:騰落レシオと株価ピークのタイムラグなど

足元で過熱シグナルを出している株価の短期の変動を予想するには、中長期で株価が上昇トレンドにあるときに見られる騰落レシオと株価ピークのタイムラグの法則を使うと有効なようだ。大和証券キャピタル・マーケッツのシニアテクニカルアナリスト佐藤光氏の説明を経済専門番組「ダイワ・証券情報TV」から紹介する。

2009年4月~2010年3月の株価チャートで騰落レシオと株価ピークのタイミングを検証すると騰落レシオが120超えてピークになると株価は1~3週遅れてピークに達していることが分かる。

騰落レシオ(%) 株価ピーク
4月17日 134.7 5月11日 9,503円
6月8日 138.6 6月12日 10,170円
8月4日 128.1 8月31日 10,767円
1月6日 127.6 1月15日 10,982円
3月17日 128.6 ?

この法則から考えると現時点の騰落レシオをピークと見れば株価の当面の天井は4月に入ってからになる。株価上昇には円安が条件だが、直近1年間を振り返ると4、6、8、10、12、2と2ヶ月に1回偶数月に円安のピークが生じ、奇数月は円高という経験則がある。そして来月4月は偶数月で円安となる。この為替の円安・円高の循環は、年金の支払いは偶数月に2ヶ月ごとに行われ、年金の支払いがない奇数月に配当が支払われる隔月型の外貨建て投信があることによって発生する円と外貨の需給関係で説明されている。

いまマーケットでは日米金利差の拡大による円安観測がある。直近の米国FOMCで超低金利の継続が確認されたが、政府による住宅ローン担保証券等の買い取りなど量的緩和が3月末で終わり、「出口」へと向かつている。一方、日銀は3月17日追加緩和策を決定し、昨年12月に導入した新型オペ(公開市場操作)の供給額を現行の10兆円から20兆円に引き上げ、期間3ヶ月の資金供給量を倍増することで、金利の一層の低下を目指した。3ヶ月物LIBOR金利が日米で8月末逆転してドルキャリートレードが行われドル安円高が進んだが、昨年12月に続く今回の追加緩和策で対ドル金利で円金利が低下するので円安観測が広がっているのだが、国内株価の支援材料になりそうだ。4月初頭には、日銀短観、米雇用統計と株価にとって重要指標が出てくるので、その内容次第では、法則どおりに日経平均11,000円を超える局面もあるかもしれない。

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