耕作放棄地の再利用が進む
後継者もなく荒れ果てた耕作放棄地、地方の山間部では見慣れた光景だが、食料自給率がカロリーベースで39%と先進国で最低のこの国で耕作放棄地が拡大しているのは何とも皮肉な話だ。「耕作放棄地」は、農林業センサスにおいて「所有している耕地のうち、過去1年以上作付けせず、しかもこの数年の間に再び耕作する考えのない土地」と定義されている。
耕作放棄地の面積は、平成17年農林業センサスにおいて38.6万haで10年間で6割も拡大した。その発生要因は、
- 高齢化による高齢化等による労働力不足
- 農地の受け手がいない
- 土地条件が悪い
などがあり、高齢化による労働力不足が50%占める。米をつくっても生活できなければ高齢化が進む農家から後継者がいなくなるのは当然で、その結果、荒れ果てた多くの農地がこの国の農業を蚕食しており、農業政策の不在による閉塞感を高めていた。しかし、「平成の農地改革」と呼ばれる農地法の改正が09年に行われ、企業等による農業への新規参入が進み、資本や人材を投入した農業の経営効率化が促され、従来の国内農業も抜本的に変わる兆しがでてきた。そしてこれらの動きと呼応するように耕作放棄地を再利用する動きが企業で広がっている。
耕作放棄地は、長年使われていなかったことが幸いし、農薬や除草剤、化学肥料が残留していないため、有機栽培には最適とされているが、テレビの宣伝でよく見る青汁の原料となるケールを耕作放棄地を再生して有機栽培している会社がある。日経紙によると農産物を加工販売する遠赤青汁(愛媛県東温市)は、自社工場で青汁粉末やタブレットに加工し、百貨店や通信販売ルートで売っている。同社は、「放棄地は一番きれいな土地だ」として耕作放棄地で有機栽培を開始。同社の手でよみがえった“元”放棄地は約12ヘクタール。今年は2ヘクタールを増やす予定だ。また農家の放棄地を農園に再生し、野菜作りに興味がある個人に農家が土地を貸す際の仲介や農園管理を手がける会社もある。日経同紙によると、07年設立のベンチャー企業、マイファームは、このビジネスモデルで、使用料を農家と折半。10年12月期の売上高は2億2,000万円。決算期変更で6ヶ月決算の09年12月期(3,500万円)と比べても大幅な増収になる見通しだ。抱える利用者は約1,000組、農園は関西や首都圏に39ヶ所あり、年内に100ヶ所に増やす計画だ。
大手企業の耕作放棄地の再利用もある。農業の規制緩和が進むなか、イオン、セブン&アイ・ホールディングスなどの流通大手などに続き、製造業にも新規参入の動きが本格化してきたが、事業展開の中で耕作放棄地の活用が進んでいる。日本経済新聞によると, 農薬・肥料の国内最大手住友化学は、長野県中野市に高級イチゴを生産する子会社「住化ファーム長野」を設立。同市内の耕作放棄地1ヘクタールを賃借してハウス栽培し、12月から出荷を始め、同農場で年間約1億円の売上高を目指す計画だ。また同社は、大分県などの地方自治体とも連携し、全国10ヶ所で直営農場を運営する計画で、農場への生産委託も進め、日本エコアグロの商標でトマトやピーマン、レタスなど各地域の特産農産物を販売。耕作放棄地の活用や自治体との連携による地元の雇用創出などを通じ、地域の農家や農協と良好な関係を保てるようにする。農産物の生産には住友化学製の農薬や肥料、農業資材を使う。栽培計画や生産コストをインターネット上で管理する独自開発の情報システムを使い、小売店に農薬の種類や使用量などを開示して食の安全意識が高まる小売業に売り込む。
さらに行政と大学が耕作放棄地の再生を目的とした若者の定住プロジェクトをスタートさせたケースもある。豊田市と東京大学、愛知県常滑市の農業指導会社「M-easy」の3者が共同企画し、昨秋スタートした「日本再発進!若者よ田舎をめざそうプロジェクト」がそれだ。2年半がかりで農業の技術と知識を習得してもらい、農家としての自立を目指すもので、若者の緊急雇用対策の側面もあり、参加者は20~30代の元教員や元プログラマーなどの男女10人。10人には月15万円の給与が支給され、山に囲まれた豊田市旭地区に住み込みで耕作放棄地を整備。ニンジンやアスパラガスなどを無農薬で栽培するほか、販路の開拓など営農に必要な技術と知識を幅広く学ぶ計画だ。
地方の過疎の象徴と言われた耕作放棄地。しかし海外で高い評価を得ている日本の農作物の安全性に注目すると有機栽培に適している耕作放棄地を収益を生む土地に転換する試みは多くの可能性を秘めている。単に農業の復活だけにとどまらず、若者に雇用の場を与え、地方の過疎を蘇生させることも夢ではない。そしてこれらの試みは遅きに失した農地の規制緩和を機に全国で増えている。
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