悪質追い出し屋に鉄槌を下す判例
追い出し屋による悪質な家賃滞納者への住居閉め出しや督促などがエスカレートしている。落語に出てくる昔の大家と店子という世界はほのぼのとした風情があったが、平成の大家と店子は殺伐とした関係になった。何故なら大家は零細化、店子は低所得化で、そこに人情の機微が入り込む隙間がないからだ。そのような世情のなか「追い出し屋」の行為に損害賠償を命じるだけでなく、滞納家賃の取り立て等を目的として個別に管理委託契約を締結した家主の使用者責任まで問う判例が姫路簡裁で出た。ことの顛末はこうだ。
家賃の未払いを理由に「追い出し屋」被害を受けたとして、借り主の男性(53)が兵庫県姫路市の不動産管理会社「姫路リアルティー」と家主に140万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が22日、姫路簡裁であった。近藤哲裁判官は同社によるドアロックなどを不法行為とし、家主側の使用者責任も認定。双方に慰謝料など計40万5千円を、男性に6ヶ月余りの滞納家賃など36万円の支払いを命じた。
男性側代理人の「全国追い出し屋対策会議」によると、同様の訴訟で、管理会社と「追い出し行為を直接していない」家主の賠償責任を認めた判決は初。政府は次の通常国会に追い出し規制法案(通称)を提出する方針で、国会審議に影響を与えるとみられる。
判決によると、男性は2003年、姫路市内で家賃5万8,500円のアパートに入居。滞納を続けたため、家主は管理会社に委任し、同社従業員が08年6月と09年5月、玄関ドアの鍵穴にカバーをかけるなどし、計23日間閉め出した。
家主側は管理会社に「違法な行為を委託していない」と主張したが、判決は「家主が取り立てなどを個別に委任した結果、管理会社が追い出しを図った」と退けた。同社は「担当者がいないのでコメントできない」としている。(2009年12月22日 朝日新聞)
いわゆる「追い出し屋」の問題が巷間を賑わせている背景には、敷金と礼金がゼロであるような「ゼロゼロ物件」の増加などがある。つまり格差社会を反映して低所得者が増えているので、空室を埋めるため転居時の借主負担を限りなく低減する努力が行われている。一方、家主層も近年の不動産投資ブームでサラリーマン家主が増え、これまでの大家=富裕層ではくくれず経営も零細化しているのが現状だ。
近年、家主が賃料回収リスク等を家賃保証会社等へ移転するケースも増加している。このような家賃保証会社のなかには悪質業者もいて、強引な追い出しを行う。このような時代背景の中で行われた本裁判では、
- 強引な追い出し手法の違法性
- 滞納家賃の取り立て等を管理会社に委託した家主の責任
の2点が争点となった。
平成21年12月の姫路簡裁判決は、1の強引な追い出しの違法性については、権利を法的手段で実現するのでなく、実力行使で実現してしまう「自力救済」は違法であるとした。本案件では借主を閉め出すドアロックや「荷物は全部出しました」という威迫的な貼り紙がドアに貼られたが、これらの行為は不法行為で許されるものでないとして、管理会社に損害賠償を命じた。そして義務履行に不誠実さが見られる借主でも権利行使は適法にされるべきと判示した。また2については家主の不法行為責任を認め、管理会社と連帯して損害賠償を命じた。
原告側代理人は「家賃滞納者の閉め出しをめぐり、不動産管理会社に委任契約をした大家の使用者責任を認めたのは全国初ではないか」と言っているようだが、大家サイドから見れば、自力救済の違法性に係る裁判所の判断は想定内としても、追い出し屋の行為に使用者責任を課された点は「厳しい判断」と受け取られたのではないだろうか。そこで、この判例を受けた今後の家主の自衛策としては、
家主が管理会社に対し、いわゆる「追い出し屋」の行為について指揮監督しているとの事実は一切ないことを明らかにするため、滞納家賃の取り立て等を目的として個別に管理委託契約を締結する場合は、契約書に自力救済を行わない旨を具体的に明記しておくなどの配慮も考慮すべきと思われる。(全国賃貸住宅新聞 江口正夫弁護士の特別寄稿)
などが必要となる。
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