今回のバブル崩壊はファイアセールが起きなかった
リーマン破綻後の収益物件の価格調整も最終局面に入っており、キャップレートの上昇もようやく落ち着き、首都圏では、底打ちから反転に転じたエリアも出ていると言われている。
海外のリスクマネーや国内ファンド、J-REITが不動産購入を抑制している間、買い手となって「出物」を探し回っていたのは個人富裕層、資金余裕がある事業法人や学校法人などだ。例えば、リーマン破綻後の急落トレンドのなかでも個人富裕層による逆張り投資で2~3億円程度の賃貸マンションは、価格目線を思い切り下げ、立地や利回りを厳選しての物色が行われていた。個人富裕層のターゲットとなるレジデンシャルを抱えた不動産ファンドなど決算前のファイアセールが起きて優良な築浅の賃貸マンションが市場や水面下でかなり出てくるだろうという思惑を投資家は持っていたはずだ。しかし、現実にはファイアセールらしき投げ売りは起きず、投資家は肩透かしを食う羽目になった。
90年代初頭のバブル崩壊時には、未稼働の更地状態の不良資産が多く、収益物件として安定したキャッシュフローを上げて稼働しているものは少なかったので、所有者も持ちこたえることができなかったし、金融機関も担保不動産を比較的短い期間でバルクセールを行った。買い手として登場したのは米穀物商社最大手カーギルの金融子会社、ローンスター、ゴールドマン・サックスなどだった。
日本に進出したバーチャル(ハゲタカ)・ファンドは国内金融機関が抱える不良債権を簿価で約20兆円を3兆円でバルクセールなどで買い叩き、約1兆円を荒稼ぎしたと言われている。バブルの宴後の精算でハゲタカファンドだけが儲けて、宴を主催した不動産会社や銀行は苦い悔恨だけが残ってしまった。この強烈な失敗体験が今回のバブル崩壊後の銀行の担保不動産に対する姿勢に影響したと思える。
不動産担保ローンは、借入の弁済期限が過ぎてもテール期間と呼ばれるファイナンスの延長期間があって、その間に銀行は、市場動向を見極めながらリファイナンスなり物件売却を行うことになる。DCF法の普及で銀行も物件価値をある程度は正確に把握しているので、かつてのように合理的でない低価額で投げ売り、損切りして特定プレイヤーだけを儲けさせることをしなくなっている。
今回の平成バブル崩壊は、銀行、大手不動産会社は深手を負わず、資産流動化で証券化物件を組成して不動産価格の高騰と相俟ってハイレバレッジで利回りを高めて売りまくった新興系不動産会社に破綻が集中したのが特徴だ。その新興系不動産会社の物件処分は競売市場に多く、一般マーケットにあまり出てきてないという指摘もある。
今の時期の買い手は、ハイレバのキャピタル狙いというよりコア投資中心で、安定的にインカムリターンを取得することを目標としている。この国の不動産投資マーケットが成熟してきたとも言える。しかし生産年齢層を中心とする人口や世帯数減少、過剰ストックが積上がって年々増え続ける空室と行った具合に不動産投資環境がますます厳しくなるなか、本来のリスクに見合った高いリターンを得る投資機会や可能性が縮小し、投資魅力が低下しているとも言えるのではないだろうか。
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