最近の工場立地動向

製造業のアジアへの工場流出による国内空洞化は国内での工場立地の減少を招いていたが、平成14年をボトムとして、その後は国内回帰の動きが増加していた。しかし平成19年下期から再び前年同期比での国内の工場立地の減少傾向が続いている。

製造業の国内回帰の背景として製造業による製造拠点のグローバルな視点からの国際分業である「最適立地」戦略が挙げられる。つまり付加価値の低い製品の製造工程は東アジアにシフトし、最先端技術やデジタル家電のように市場の変革サイクルが短く、高付加価値のものは高度な技術やノウハウの蓄積がある国内で技術開発し生産する方向へ転換した。日本国内の人件費は、東アジアに比べ高いが、技術力で生産原価に占める人件費の比重を低減することは可能だ。

しかし、平成19年下期から工場の国内立地件数が前年同期比で再び減少していることが経済産業省も工場立地動向調査などから読み取れる。再び製造業の国内空洞化が始まったのだろうか。平成21年上期(1~6月期)工場立地動向調査結果によると、平成21年1月から6月における全国の工場立地件数は434件(前年同期比47.3%減)、工場立地面積は631ha(前年同期比35.2%減)となった。前年同期比での工場立地件数は平成19年下期以来4期連続で減少している。

経済産業省は、上記の大幅な減少を昨年来の世界金融危機による景気悪化で企業の設備投資計画の凍結・見直しや投資意欲減退が要因としている。同調査結果に基づくみずほ信託銀行の2010年1月調査レポートで見てみると、減少幅が大きいのは北東北、関東臨海、東海、北九州で減少率が6割に達しており、業種でみると鉄鋼、金属製品、汎用機械、電子・デバイス、輸送用機械が6割前後と大きく減少したが、食料品や電気機械の減少は25%程度にとどまっている。

今後、世界経済は緩やかながら回復基調で、IMFも世界経済のプラス成長を予測している。2010年の国内経済は、政府見通しでGDP成長率は、前年比で実質プラス1.4%と3年ぶりのプラス成長を見込む。民間シンクタンク16社の予測平均は実質1.3%、名目0.1%だ。設備投資回復は、景気回復プロセスのなかで通常は遅行し、ましてや国内はデフレ傾向だ。企業に設備過剰感は強い。余談だが国内のデフレ傾向はグローバルな企業間競争が激化したことで要素価格均等化定理が証明されたことにその一因がある。つまり生産技術が同じであるなら、生産物が自由貿易されることで、貿易できない地価や賃金のような生産要素価格も均等化し、国際価格にまで収斂していくという経済学の仮説は、国内労働者の賃金が熾烈な国際間競争で低下して、需給ギャップ37兆円を作り出したことで証明されたわけだ。

多くのシンクタンクが予測するようにデフレから抜け出すのは時間がかかるものの、いずれは企業は設備投資に動き出すと思われる。不況で工場地の地価は下落しており、国内の失業率も高位で推移、工場立地先の地方自治体も各種助成金、課税特例、低利融資など優遇措置を用意しているからだ。製造業の国内回帰の動きは、2008年からの世界同時不況と国内経済減速に水をさされた格好だが、グローバルな視点からの「最適立地」戦略の一環として国内回帰は、基本的にしばらくは変わらないのではないだろうか。

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