地下埋設物リスクの調査手法

■地中埋設物リスクとは

土地取引に様々なリスクが存在するが、そのなかで地下埋設物(杭、矢板、ガラ、埋設管、防空壕など)については取引当事者もつい失念してしまうケースが多い。しかし、近年になって土地取引後、地下埋設物が存在したことによるトラブルが増加している。例えば、取引後、買主サイドが建築構造物の新設工事で杭工事等を開始したところ、地中にコンクリート塊、ビニル片、電気コード等の産業廃棄物が大量に遺棄され埋まっていたとすると、当該工事を中断して産業廃棄物の除去を行なう羽目になる。このような事態に陥った買主としては、当該産業廃棄物のあったことは隠れた瑕疵に当たるとして、損害賠償請求をするだろう。現に地中埋設物をめぐっては隠れた瑕疵に当たるとした判例がいくつか出ている。

【東京地裁判 平成10.11.26】

7階建て分譲マンション建築目的で土地建物を買い受けた買主業者が、建物解体工事及びマンション建設基礎工事をしてところ、多数のPC杭及び二重コンクリートの耐圧盤等の地中埋設物が発見され、その撤去に3,090万円要したため、売主等に損害賠償を求めたが、本件土地は中高層マンション建築予定地として通常有すべき品質、性状を備えておらず隠れた瑕疵があるとして買主の損害賠償請求を認容した。

【東京地裁判 平成4.10.28】

土地及びプレハブ建物を買主業者Aが売主業者Bから買受て、その後、AはCへ転売した。Cが新築工事を行ったところ、地中から大量の材木片などの産業廃棄物、旧建物の土間コンクリート及び旧建物の基礎が埋設されており、AはCから撤去費用の支払請求を受けたため、AはBに対し隠れた瑕疵があるとして損害賠償請求した。東京地裁は、外見から通常予測される地盤整備、改良の程度を超える異物除去工事等を必要とするに至ったことは土地の瑕疵に当たるとして損害賠償請求の一部を認容した。

同様のケースの判例として東京地裁平成15.5.16があり、近年の判例傾向は、売主の瑕疵担保責任(民法570条)を認める方向にある。宅地建物取引業者が宅地建物の売買契約において売主である場合は、「瑕疵担保責任なし」という特約は無効であるが、宅建業者は自ら売主となる宅地建物の売買契約において、物件の隠れた瑕疵を担保する責任に関し「引渡後2年以上」となる特約をすることはできるものの、民法の規定では「買主が発見してから1年以内」なので特別法である宅建業法でより業者に重い責任を課しており、注意が必要だ。

■再建不可となるケースも

地下埋設物のなかでもよく見られるケースは、取り壊し建物などの基礎工事部分のコンクリート殻であるが、残存基礎が埋設されているときは、建築工事などで支障をきたすことが多く、予想外の工事コスト増となりやすい。なかには残存基礎が隣地にまたがっていて、当該敷地に建物が建てられない「再建不可地」になってしまうような深刻なリスクも見られる。日経アーキテクチュアの特集記事「敷地は見かけじゃわからない」から残存基礎の深刻なリスク例を紹介する。

H氏が設計を依頼された敷地には、RC造の建物の基礎が残っていた。地中に穴を開け、カメラを入れると、すき間をガラで埋めている様子が映った。しかも、残存基礎は隣地にまたがっていた。「この敷地には、建物は建てられない。」H氏はこう判断した。しかし、敷地の所有者は、残存基礎を撤去して埋め戻し、新たに建物を新築したい、と食い下がった。H氏はそれでも拒否した。隣地には、木造2階建ての店舗併用住宅が建っていたからだ。隣地にまたがった基礎を一部だけ解体すると、バランスが崩れ、隣地にある基礎がどのように動くか予想できない。ジャイアントブレーカーなどで破壊すると、隣地の地盤が軟弱なら、振動が伝わってきぞん建物が倒壊する可能性すらある。H氏は頑として設計を受けなかった。

また同誌には地中に解体した木造住宅の残存基礎が残っており、地盤を支える南側の擁壁と一体化していることが予想されたため、撤去することが困難な案件で、残存基礎をくり抜いて、鋼管杭を打ち込み、その上に鉄骨の基礎を載せて地下1階、地上3階建てのS造住宅を建築した事例も掲載されている。

地下埋設物の範疇に井戸も含めると、井戸は地下水脈を汲み上げているが、井戸を埋めて撤去すると周辺の地下水脈体系に悪影響を及ぼし、水が濁ったり、流れが止まったりして近隣の井戸利用世帯に迷惑を掛けることもあるので簡単に撤去できず注意が必要だ。

■地中埋設物調査手法

それでは、地下埋設物の存否を事前調査するにはどのような方法があるのだろうか、以下で簡単に紹介しよう。

まず、元の図面など当時の埋設物に関する資料、関係者へのヒヤリング、現地調査を行い埋設地点の確認を進める。つまり位置を特定し、深さや埋設物の内容・ボリュームを調査するわけだ。調査手法はいくつかあり、最も簡単なのは構築物の建つ予定範囲をユンボで試掘する方法だ。さらに現地でポイントを複数決めてボーリングをし、さらにボーリングポイント以外を試掘する方法がある。現地の掘削をするとライフラインの生きている埋設管を傷める恐れがある時は、掘削なしで地中埋設物を探査する手法として物理探査・非破壊工法があり、その代表的手法に地中レーダー探査、磁気探査、レイリー波探査などがある。

地中レーダー探査法は、電磁波をアンテナから地中に向けて発信し、地中での電磁波の反射・屈折・透過などの物理的現象を利用して地下構造物や埋設物を探査する。アンテナを地表面に沿って移動させて連続的な垂直断面図を作成する。土質によるが深度約2~2.5m程度までの探査が可能なので比較的浅い位置にある埋設物しか調査できない。磁気探査は、地球磁場内で鉄類が磁化して鉄類の周囲に微弱な磁気異常が生じる性質を利用し、磁気変化をセンサーで測定し、その磁気異常から地下構造を解析する。磁気センサーを地表面と水平にして測定する水平探査及びボーリング孔で測定する垂直探査があり、金属のみが反応する。レイリー波探査は、地上に置いた起振機で振動を与え、周波数の異なる表面波を発生させ、センサーに振動の波が到達するまでの時間を計測、コンピュータ解析処理を使って地中を解析する。埋設物が硬いほど到達時間が早くなることから埋設物の性状の見当をつけることができる。深度が10m位まで探査可能。電磁誘導法、磁気探査、レイリー波探査等の各種物理探査を併用すると探査精度がより向上するとされている。

地下埋設物リスクは、現地の地表面の調査では確認することが難しく、ボーリング調査でもわからないケースもある。まずは土壌汚染のフェーズ1調査に見られるような、現地が過去においてどのように土地利用され、いかなる建物、工作物等が存在したのかといった地歴調査レベルのチェックは最低限度、常に心がけ、必要に応じて詳細レベルのフェーズへ進むようにしたいものである。

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