グローバル投資マネーを吸引するブラジルの魅力
リーマン破綻以後、上値が重い日・欧米など先進諸国に比べ、新興国と呼ばれるBRICs諸国の株価は年初来高値を更新するなど好調な動きとなっており、世界的金融緩和で市場に出回ったグローバルマネーは、原油や金に加え新興国の株式市場に流入している。そして新興国のなかでもブラジルは長期的な成長性から特に注目されている。
ブラジルといえば80年代の対外債務問題、90年代前半のハイパーインフレや99年からの通貨の大幅下落で2002年にIMFの支援を受け、国の建て直しを図ったことなどが思い浮かび、投資家にとってカントリーリスクが高い国というネガティブイメージがあった。しかし、いまや経済発展が著しいブリックスのなかでもトップクラスの投資魅力を持つ新興国に伸し上った。
世界の投資家の注目を集めたのは、なんといっても2014年のワールドカップ(W杯)に加え、2016年のリオへのオリンピック招致の決定だ。開催地リオデジャネイロを中心に鉄道、高速道路、空港、港湾などのインフラ整備が実行され、ブラジル政府により2010~2013年まで日本円で約33兆円がインフラ整備に投入される。
インフラ整備で注目されるのは、リオデジャネイロとサンパウロ間を結ぶ高速鉄道建設である。2010年の入札に向け日本、韓国、フランス、ドイツなどの企業連合が参加する見込みである。すでに日本企業では三井物産、三菱重工、川崎重工、東芝などの名前が挙がっているようだ。さらに大型インフラ整備で深海油田プレサル開発がある。日経紙11月12日和泉祐一氏コラムでは、原油埋蔵量は政府推定で250~1,000億バレルで生産が本格化すれば、貧富の格差を一挙に縮めるほどの世界有数の産油国になる可能性を秘めている。
ブラジル国内経済は、昨年秋の世界的金融危機の影響を受け、GDPが2四半期連続でマイナスとなったが、4~6月期には前期比+1.9%と3Qぶりにプラス成長に転じ、失業率も低下しており、経済が順調に回復している。国内の経済要因を見ていくと世界第2位の輸出総額を誇る鉄鉱石をはじめ、アルミニウムの原材料のボーキサイト、レアメタルのマンガン、ニオブなどの鉱物資源でいずれも世界トップ3の産出量を有する。また大豆やコーヒー、タバコ、牛肉などの農産物の輸出も世界トップクラスで食料資源も豊富な資源国である。さらに名目GDP比の6割を占める個人消費が堅調で、内需が盛んなため、リーマンショック以後も個人消費は堅調に推移しており、国内経済がなかなか底割れしにくい構造となっている。ルラ大統領自身も貧困層の出身であるが、現政権が貧困層への所得移転政策「ボルサ・ファミリア」を実行した効果で貧困層の消費性向が高まったことも個人消費の底上げに寄与しているようだ。
一国の長期的な成長性を図る物差しとして人口増加が重視されるが、2013年にはブラジルの総人口が2億人突破を予測されている。単に人口ボリュームの推移ではなく、生産年齢層が厚い人口構成の動向がこの国の中間所得層の拡大を実現し、長期的に成長を支えると期待されているのだ。
年初からブラジル株価は上昇トレンドを描いてきたが、10月に調整が入り主要株価指数のボベスパ指数が10月19日の年初来高値67239.5ポイントから10月28日までに11%下落した。これは海外投資家によるブラジル国内の株式・債券投資に2%課税する金融取引税が導入されたことを嫌気したためだ。しかし、海外資金の流入に対する金融取引税の影響は限定的だとして、その後のボベスパ指数は反発している。反発した背景として、野村證券金融経済研究所和泉祐一ストラジストは、野村証券「月刊資産管理09年12月号」で企業業績の回復見通しがあるからと指摘している。さらにブルームバーグが集計しているコンセンサス予想を引用し、「ボベスパ採用銘柄のEPS(1株当り利益)の平均増益率は、
- 2008年度 ▲6.6%
- 2009年度 ▲10.8%(予想)
- 2010年度 +24.6%(予想)
- 2011年度 +25.0%(予想)
と業績モメンタムの転換が予想されており、予想増益率は中国やインドを上回っている。予想PERでみたブラジル株の割安感は先に行くほど強まる。
▼2010年度コンセンサス予想PER
- ボベスパ指数 13.0
- 中国・上海総合指数 19.2
- インドSENSEX指数 16.3
※2009年11月13日時点のブルームバーグ集計
ブラジルへの投資でリスク要因としてマーケット関係者が指摘するのは、政治リスクだ。南米は貧富の格差が大きく極左政権が出現しやすい。そうなると外資排除政策など取られやすい。現ルーラ政権は中道路線であるが、来年2010年に予定される次期大統領選挙が行われる。ルーラ大統領は2期目だが、現行制度では、大統領は4年2期までが最長で選挙に出ることができない。ブラジルでは過去に大統領による政権交代で株式市場や為替市場が撹乱されることがあった。しかし、次の政権が、好評なマクロ政策を変更することは考えにくく、大きな波乱要因にはならないという見方もある。
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