賃貸住宅借り手保護政策

民主党が先のマニフェストで掲げていた「持ち家促進優先から賃貸住宅活用への転換」を具体化する国交省による政策が出てきた。

日経紙11月23日によると、

国土交通省は2010年度から、賃貸住宅の入居者をトラブルから守るための対策を拡充する。家賃の支払いが滞ったとき、家賃の保証会社に強引に退去させられることを防ぐため、保証会社に許可制の導入することなどを検討する。持ち家の促進を優先してきた自民党政権の住宅政策からの転換を民主党政権は掲げており、国交省は賃貸住宅の利用を後押しする。

賃貸住宅はすでに国内で1,770万戸、全体の4割弱を占める。持ち家促進を念頭にした景気対策で住宅ローン減税などがこれまで幾度か打ち出されたが、徐々に政策効果が薄れてきていた。これは住宅居住者の持家や所有権への拘りが低下してきた社会背景がある。持家から賃貸へという流れは民主党が同時に掲げる「新築から中古住宅活用」と相俟って時代の趨勢といえよう。

賃貸住宅市場において貸し手に比べ借り手が賃借物件についての情報を得にくいという現状やアパートなど借りる場合、家賃保証会社を利用するケースが増えているが、家賃滞納時にこれらの業者が強引な退去を迫るなど社会問題化していたことへも配慮した政策となっている。

具体的には、

  • 不動産仲介会社で修繕履歴を確認
  • 退去時の原状回復の指針を明確化し、敷金返還を巡るトラブルを防止
  • 家賃敷金以外の礼金や更新料などについて契約書できちんと説明
  • 悪質な家賃保証会社の追い出し行為をなくすため、許可制導入を検討
  • 紛争処理を安い費用で可能にする

である。

不動産仲介会社で修繕履歴を確認できるように徹底すると、オーナーにとってもこれらの履歴を整備しなければならないのと同時に仲介会社も説明義務が発生することになる。つまり両者の手間が増えるわけだが、近年の賃貸住宅オーナーは供給過剰による入居者獲得競争でこの辺の対応は進んでいるようだ。

また賃貸借契約終了後の建物を明け渡し原状回復するに際し、敷金の精算で賃貸借人間でトラブルになるケースが多い。原状回復における「通常使用による損耗」は、貸主の負担となる、という判例の集積をベースとして作成された国交省の原状回復ガイドラインがすでにあるが、今回はさらに原状回復の指針を踏み込んで明確にするものと思われる。

敷金以外の一時金では、更新料の訴訟で判例が相次ぎ出ているが、当事者でこれらの一時金の取り決めはトラブルになりやすいため、契約書での十分な説明義務を課した。

すでに賃貸借契約を巡る紛争防止を目的として住宅宅地審議会答申を受けて作成された国交省の「賃貸住宅標準契約書」があるが、今回の政策を受け、新たな賃貸借契約書を指針として示し、貸し手と借り手側の費用負担の線引きも明確にした。

借り手保護を主体とする賃貸住宅市場整備が賃貸住宅の供給サイドに取って過度な負担を招くと、近年の厳しい賃貸住宅経営環境にあっては供給が縮小する方向に向かいかねないので、供給サイドを支援するような政策も当然ながら必要となる。

これまでの住宅政策は中間所得層の持ち家供給に隔たり、住宅困窮世帯には公営住宅で限定的な供給がなされたが、民家賃貸住宅セクターに対する支援はお寒いものだったからだ。

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