人口減少で不動産市場は縮小しないという見方

少数意見だが表題のような興味深い見方がある。経済学者小峰 隆夫氏と不動産金融工学者川口 有一郎氏の見解を紹介しよう。

まず、小峰氏だが、日経ヴェリタス(2009年11月15日号)に「国内市場、人口減では縮まない」という小論を書いている。長くなるので、その中の一部を要約して紹介する。

日本全体の市場規模(名目GDP)変化率=人口変化率+1人当たりの付加価値生産性変化率(1人当たり名目GD成長率)

という式が成り立つ。したがって1人当たり名目GDP成長率が人口減少率を打ち消すほど高ければ国内市場規模は縮小しないことになる。

この仮説が果たして成り立つかを検証する。日本の総人口減少率は2006~2010年が平均0.1%、2011~2020年が0.7%と見込まれている。一方、2003年~2007年平均の1人当たり名目GD成長率の伸びが0.9%であった。この間はデフレ経済でGDPデフレーターが平均1.2%低下しているので、経済が非デフレ状態に戻ればデフレーターもプラスになるから、名目GDP成長率はさらに高まる。つまり人口が減っても、1人当たり名目GD成長率がそれを上回って増加するので、日本全体の市場規模は拡大することになる。仮説の正しさが証明されたわけだ。

次に川口氏の見解を紹介する。ARES主催の「不動産インデックスセミナー2009」の講演で会場からの質問に氏が答えたものの要約である。

日本国内の不動産マーケットに人口減少が及ぼす影響は確かにあるが、それはダイレクトではない。人口減少という需要サイドだけでなく供給サイドにも注目しなければならない。日本の不動産マーケットは、供給弾力性が0.03と低いため、マーケットの需要や価格にバランスするように供給調整がなされず、供給過多になる特性がある。米国が今回の住宅バブル崩壊で住宅着工が劇的に減ったのとは対照的だ。米国は供給弾力性が極めて高い。

またオフィスでいうと、オフィスの賃料レベルは都市圏全体の人口というよりも大手町とかくらいの範囲、つまりエリアの人口集積がどうかで決まる。したがって、あるエリアに人口集積を作るようなまちづくりがされ、供給調整が適正に行われれば、人口が減少していてもオフィスのレントを低下しないようにするのは可能である。

レジデンシャル投資で見ると、国内の人口の伸びは74年から下がっている。85年のバブル前までは人口の伸びと住宅の着工量が均衡していたが、バブル以後は、供給過多で推移している。オーバーサプライで700万戸の空き家があるというのは持家の話で賃貸住宅の成約賃料で見ると18年間のインデックスを作っても殆ど下がっていない。J-REITのレジ物件の稼働率も80%とか90%と高い。したがって賃貸住宅投資はOKである。

結論として人口が減少してもあるエリアに特別な集積を作るようなまちづくりがなされ、供給が調整され、競争力を高めれば必ずしも不動産マーケットが人口減少で萎むと言えない。

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