米ノンバンクCIT破綻と地銀の経営不安拡大
米国内でゴールドマンサックスなどの大手金融機関では5月のストレステストでのポジティブな結果を受け、リーマン破綻からの立ち直りが早く、経営も安定化軌道に乗り始めて未曾有の金融危機も遠のいた感があったのだが、ノンバンクや米地銀ではリーマン破綻直後よりも経営不安が拡大する事態が進行していた。
100万社超の取引先を持つ米ノンバンク大手CITグループが11月1日、連邦破産法第11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請した。米金融機関では今年最大、過去3番目の破綻規模となる。同社は企業業向け融資やサブプライムローンの焦げ付きで経営不安が以前から取りざたされていた。同社の破綻は主要取引先である中小企業の経営環境の厳しさと並行してノンバンクや地域金融機関の経営不安が拡大している現状を浮き彫りにした。さらに米政府は同社へ公的資金23億ドル(約2,100億円)注入しており、CITが破産になったことで損失発生・回収不能となる可能性が高く、その結果、国民負担となる公算がでてきた。CITの主要取引先は中小企業で、例えば、米国内のアパレル業界の6割はCITから融資を受けているといわれている。CITの破綻でこれらの企業は貸し手を失うことになり、資金繰り難から連鎖的に破綻していく懸念も高まっている。
日経11月2日記事では、米連邦預金保険公社(FDIC)によると、今年に入って115行が経営破綻したが、最近は地方銀行の破綻が圧倒的に多く、その数は100行に及ぶ。大手金融機関の経営が改善しているのと対照的に地銀の経営不安が拡大している最大の理由は、証券部門の有無だ。大手は証券部門のトレーディング手数料で稼げたのに対して、地銀の大半は、銀行本来の与信部門である融資業務のウエイトが高いため、折からの不動産価格下落で住宅ローンや商業用不動産ローンの不良債権が膨らんだことによる。
特に米国内の商業用不動産市場では、深刻な市場悪化の改善の兆しがなく、商業用不動産ローンの不良債権化が加速した。米国の家計部門ではB/Sの毀損から消費を切り詰め貯蓄率が上昇しているため、ショッピングモールなどの売上が減少してテナント賃料が低下、また企業部門でもドラスティックに進んだ雇用削減でオフィスビルマーケットが低迷している。その結果、これらの不動産を運営する業者の経営環境が逼迫してローン返済ができなくなっているので地域中核金融機関の地銀の不良債権が膨らんだという訳だ。
また米国内では商業用不動産向けローンの約4分の1がCMBSに束ねられ、年金や金融機関が運用資産として保有しているため、デフォルトが相次いで発生すると再び金融が混迷する悪夢も再現しかねない。米国内で地域金融と融資先である中小企業の経営不安、破綻の連鎖が加速すると雇用がさらに悪化し、今年のクリスマス商戦にも負の影響を及ぼす。また新たな公的資金投入が必要となれば財政赤字が増すため、回復軌道に乗ってきた米国マクロ経済の波乱要因にもなる。
このような現状を踏まえ、オバマ政権は雇用対策や中小企業対策に軸足を移し、10月下旬に中小企業向け貸し渋り対策を発表し、中小企業庁(SBA)が部分保証する融資の上限引き上げや地域金融機関が低コストで公的資金を借り受けられる対策を打ち出した。しかしこれらの政策には即効性がないため、地銀と中小企業の経営改善には時間がかかりそうだ。
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