人口ボーナスと2012年問題について

今回のコラムでは、「日経ヴェリタス 第84号」と野村證券の投資家向けレポート「野村週報第3197号」を参考に「人口ボーナス」と「2012年問題」について書く。いずれも、今後の日本の人口構成ならびにその中の団塊世代の動向が中長期で国内経済に与える負の影響を指摘したものだ。

■人口ボーナス

その国が長期的視点から見て今後どれくらい成長できるかを計る重要な指標は「人口」である。その典型的な例が、リーマンショック以前の株価になかなか戻らない日本や米国を尻目に株価上昇と経済躍進を続けるブリックスと呼ばれる新興国である。なかでもブラジルは、2014年のワールドカップ(W杯)に加え2016年のリオへのオリンピック招致も決まった。ブラジル政府により2010~2013年まで日本円で約33兆円のインフラ整備が行われる。国内経済も名目GDP比の6割を占める個人消費が堅調で、GDPが4~6月期で前期比+1.9%と3Qぶりにプラス成長に転じた。このようなブラジルの高い成長力は世界の投資家の注目を集めている。2013年にはブラジルの総人口が2億人突破を予測されているが、単に人口ボリュームの推移ではなく、人口構成の動向がこの国に成長をもたらすと期待を集めているのだ。つまり経済成長にとって最良の時期である「人口ボーナス期」に入るからである。

日経ヴェリタス誌によると人口ボーナスは働き手が、養われる人々の何倍いるかという考え方である。国の生産年齢人口(15歳から64歳まで)を従属人口(14歳以下と65歳以上)で割って算出する。指数が「2」を超える期間がボーナス期で、同時期には経済成長が加速する。人口が増えれば中間層を核とする消費拡大の好循環のメカニズムが生まれるからだ。経済産業研究所の試算では日本の高度経済成長期(60~80年代)の経済成長の2割から4割が労働力の増加、つまり人口要因で説明できるとしている。

日経ヴェリタス誌から主要国の「人口ボーナス指数」を紹介する。

▲人口ボーナス指数

  2010年 2020年 2030年 2040年 2050年
インド 1.80 2.03 2.21 2.28 2.13
中国 2.56 2.29 2.05 1.70 1.59
インドネシア 2.05 2.29 2.26 1.99 1.77
日本 1.80 1.49 1.40 1.17 1.04
ベトナム 2.18 2.38 2.11 1.86 1.72
タイ 2.43 2.26 1.96 1.75 1.66
韓国 2.67 2.48 1.80 1.38 1.19
米国 2.01 1.83 1.65 1.61 1.59
ブラジル 2.09 2.37 2.26 2.03 1.69
ロシア 2.59 2.11 1.89 1.84 1.52

少子高齢化の暗雲が覆う日本は、2010年時点で2を切っており、今後も減少していく。一人っ子政策を取る中国は2030年頃から2に届かなることが解る。一方、ブラジルでは、好調な国内経済を背景に国内株価(ボべスパ指数)も上昇しているが、ブラジルの人口ボーナス指数を見ると2020年まで上昇し、2040年までは2以上を維持できている。投資家の注目度が高い国ほど「人口ボーナス指数」も高い。

■2012年問題

ひと頃、国内で団塊世代の大量退職が起きる「2007年問題」が話題になっていた。団塊世代の大量退職で企業、官公署で労働力不足や経験・ノウハウの継承不足などが問題視された。しかし、現実には2007年問題は杞憂に終わった。国内景気が好調であって労働力不足が発生する可能性が高かったにも関わらずにである。その理由は、国内の労働者は60歳を超えても会社に嘱託などとして残り、給与をそれまでより下げても働き続ける人が多数を占めたからである。

野村證券の投資家向けレポート「野村週報第3197号」によると、定年時に働くことをやめる人は10人のうち3人弱しかおらず、欧米諸国の労働者のほとんどが、公式の定年前に引退するのに比べ、日本や韓国では、定年後も労働を続ける傾向が強く、日本の実質退職年齢は69.5歳になっている。同レポートは今後、「2012年問題」が起きる可能性を指摘する。2012年以降は、団塊世代の多くが、65歳を過ぎ真の意味での年金生活者になり始めるため、生活必要資金として資産の取り崩しを始めるので、国家規模で年間ネットで1兆円程度の資金の取り崩しになる。その結果、年金財政の悪化など、財政赤字を拡大させるだけでなく、国民貯蓄率が低下するので財政赤字をファイナンスする国内資金の枯渇をも招くというものだ。

団塊世代は、戦後の第1次ベビーブームに生まれ、その人口は約680万人に上る。総人口の5.3%を占め、人口構成の中でも大きな「こぶ」となっており、この「こぶ」がこれまでの日本経済を牽引してきた。そして彼らの退職と実質的な年金生活に入る今後10年も日本の金融市場や社会に大きな影響を与え続ける。

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