高速道路無料化と地価の関係
民主党政権が誕生し、マニフェストで打ち出した「高速道路の無料化」がいよいよ実行に移されようとしている。同党の「高速道路の無料化」は、財源とか高速道路の渋滞発生とかCO2の増加が懸念されるとの指摘もあって、いまのところ国民から高い支持をうけていないようだ。このような議論や政策の是非はさておいて、今後、無料化が実行されると全国に張り巡らされた高速道路網が、首都高速や阪神高速など渋滞区間の一部を除き無料化され、いわば一般道路と連結した「生活道路」となるので地域の交通体系が変容し、国内の地価に影響が出てくると思われる。
新政権は、国内全ての高速道路を一律に無料化するのでなく、無料化で渋滞するところは料金を残し、北海道や九州など無料化による渋滞発生の可能性が小さい地域から段階的に無料化を進めていくとしている。そのプロセスでの渋滞予測・対策に交通需要マネジメント(TDM=Transportation Demand Management)という手法を活用する。交通需要マネジメント(TDM)とは、 新たな道路整備などの施設容量を拡大することによって顕在化した交通需要に対応するのでなく、混雑課金制、自動車流入規制、相乗り促進、公共交通利用促進などで車の利用者の交通行動の変更を促すことにより、交通量を分散させ道路交通混雑を緩和するという手法である。
実は、国土交通省が高速道路無料のシミュレーションをすでに行っていたことが新聞報道で明らかにされている。清水草一著「高速道路の謎」で民主党の馬淵議員が「国交省が国内最高の交通コンピュータシミュレーションのノウハウを持つ(財)計量計画研究所に外注し、全国の高速道路のインターごとの混雑度、交通量のシミュレーションをやらせていた」ことを明かしている。このようなデータの検証に加え、1ヶ月とかの一定期間を決めて料金無料の社会実験を行い、その様子を見て無料化区間の線引きをしていくようだ。
高速道路無料化の経済効果だが、第一生命経済研究所の永浜利広主席エコノミストは、高速料金が無料化されれば、経済波及効果は1兆9,900億円に達すると試算。「レジャー施設やアウトレットモール、カー用品などの需要が増える」のが主な要因で、雇用も約6万2,000人増える可能性があると分析している。前政権が土日祝日高速道路料金1,000円乗り放題の政策を実行しているので、無料化がもたらす社会的影響についてある程度参考になる。
特に盆休み期間中や連休が続いた9月について各メディアの記事やネット上で実際に料金割引期間中に高速道路を走ったレポートなどが出ていた。それらによると高速道路からアクセスが良い地方の観光地ではこれまで目にすることがなかった県外ナンバーの車が目立った。その象徴がテレビ東京「ガイヤの夜明け」で放映された本州最北端の青森県合間町のマグロの解体ショーをみるため押し寄せた京都や名古屋など県外ナンバーの車で溢れる様だ。この日同町を訪れた観光客は昨年の2倍の13,000人に達したという。一方、高速道路に客を取られ、車の通行量もまばらな幹線国道沿いの飲食店店主さんのボヤキも紹介されている。
筆者も休日に大分県の観光地湯布院へドライブしたが駐車場はどこも満杯で、駐車場の監視の人に聞くと1,000円走り放題以後、車で来る客が増え、遠くは宮城、青森ナンバーも見かけるという。この現象は、高速道路無料化で1日の運転距離300kmが限度といわれた観光客の行動半径が、1,000km超まで拡大したことを示している。反面、高速道路が渋滞で溢れかえるのと対照的にフェリーや長距離バスの利用者の減少も進んだ。
何故このような現象が増えたかというと高速道路料金割引前は、自家用車は2人以上で乗れば鉄道や飛行機より安いといわれたが、1,000円乗り放題を使うと鉄道や飛行機より一人でも安くなるためである。この関係を前掲の清水草一著「高速道路の謎」の例から紹介する。
■東京-大阪間(週末・休日)の移動にかかる交通費
自家用車(2,000ccクラス) | 7,750円 |
自家用車(新型プリウス) | 5,300円 |
深夜高速バス(1名分) | 8,610円 |
新幹線(1名分) | 14,050円 |
飛行機(1名分) | 22,600円 |
民主党が09年3月にまとめた「民主党高速道路政策大綱」の政策ブレーンと目される山崎養世氏の著書「道路問題を解く」で山崎氏は、米国並に高速道路5kmごとに出入り口を作れば、全国に1,600か所の出入り口ができて、通行料金は無料だから簡単な構造で済むし、料金所のような渋滞もないので、国・県道と出入り口で結ばれれば道路全体が1つのシステムとして飛躍的に利便性が高まるとしている。さらに山崎氏は、高速道路無料化による効果として、
- 通勤圏、生活圏が広がり、ゆったりとした住まいと余裕のある暮らしが実現できる
- 主要都市の過密とそれ以外の地域の過疎が緩和される
- 買い物、観光、旅、キャンプ、別荘などにかかわる移動コストが減ってライフスタイルが変わる
- 移動距離が広がることで、広々とした介護施設や病院、学校などの生活関連施設が充実する
- 住宅、建設、不動産取引が活発になる
- 物を運び販売する時間とコストが大きく下がる(運輸、小売、農林漁業等で効果大)
を挙げている。上記の1~6は高速道路無料化の効果をかなりポジティブに見たものだが、これらが実現可能とすれば、疲弊した地方を浮揚し、直接・間接に不動産需要を喚起して地価へ影響する。なぜなら無料化効果で高速道路が地域住民の生活道路となり、既存の一般道路と連結することで、都市と地方間の交通ネットワークが格段に充実するのに加え、都市内でも中心市街地への通勤とか買い物など利便性が向上するエリアが出現するからだ。
近年になって自動車という交通手段は、エコカーへシフトし燃費向上が顕著になっている。現時点でのハイブリッドからプラグインハイブリッドさらにその先の電気自動車(EV)時代へ進化していくと、CO2の排出が殆どなくなるだけでなく、深夜電力使用により移動コスト低減効果が飛躍的に向上する。EVの電力源を太陽光発電としたEV対応住宅も普及が進む見通しだ。現状では電気自動車の普及にはリチウムイオン電池のコスト高や充電後の航続可能距離、急速充電装置のインフラ整備がネックになっている。しかし、この分野の技術革新が加速しているので予想外に早い時期にこれらの課題がクリアできるかもしれない。そうなると高速道路無料化に加え電気自動車のCO2低減、移動コスト減少が相乗効果となって交通手段としての自動車の見直しが進むのではないだろうか。
また高速道路無料化は移動距離の飛躍的な広がりをもたらすことが1,000円走り放題で実証された。その結果、地方にとって広域的な集客等が可能となり、地域の観光資源や商業資源を生かすも殺すも自冶体や地元民の創意工夫次第ということになる。そして高速道路の出入り口周辺には事業所や店舗、その他諸施設の新たな集積が進む可能性もある。
一方、無料化による交通体系の変容に対応できずに衰退する地方やエリアも出てくる。例えばストロー効果で逆に周辺都市にヒト・モノが吸い上げられる地域活性化ができない無個性な地方や車の流れが変わり、通行量が減少してしまう既存幹線道路沿いの路線商業地域のように…
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