ハゲタカファンドの復活、リーマンのバルクセール

NHKテレビドラマ「ハゲタカ」で繰り広げられた90年代末の世界、死肉を料理する冷徹なハゲタカの眼と捕獲された債務者の苦悩に歪む表情、債務者の命を刻んでいく不動産のディスカウント。そしてその不動産には何代にもわたる思い入れとドラマがあった。当時の世情を知る者にはそのリアリティが好評だったのだが、あのハゲタカビジネスと呼ばれた米ディストレスファンドが日本に再び登場しようとしている。

思い起こせば、97年12月に東京三菱銀行が不良債権を売却したことが、日本におけるまとまった不良債権売却の始まりと言われている。北海道拓殖銀行や山一證券の破綻など、金融界が騒然とするなかで外資系ファンドは投げ売りされた物件をタダ同然の値段で買い集めた。買い手として登場したのは米国のローンスター、ゴールドマン・サックスなどだった。当時の日本人は彼らが日本の不動産を買いまくる真の意図が理解できなかった。デューデリジェンスとDCFに象徴される米国流の不動産投資のカルチャーが日本に根づいたのはその後だ。

時代は変わり2007年のサブプライムローン問題に始まり、リーマン破綻で止めを刺された金融危機で、金融機関のB/Sが毀損、デレバレッジや破綻に追い込まれ、保有資産を放出しなければならなくなった。日経ヴェリタス(2009年9月27日号)では苦境に陥った金融機関や企業の不良債権や不動産に投資するディストレスファンドの有力プレイヤー米フォートレスにフォーカスした記事が掲載されている。

同記事によると日本国内でリーマンブラザース証券が傘下の子会社を通じて不動産融資を積極展開し、リーマン破綻で抱えた不動産ローンなどの債権は約6,000億円に達していた。約6,000億円の一括売却は困難なため、ローンの種類・規模別に18プールに分割して買い手を募った。そのなかで「プール14」と番号が振られた約1,200億円の債権は不動産担保ローンがついており、約700件の債務者のほぼすべてが現在も元利金を返済している正常債権だった。この「プール14」を落札したのがフォートレスで購入価格は約200億円、ローン元本金額に対する比率が17%、足元の元利返済額からはじいた投資利回りは26.5%に達する。

「90年代末の邦銀のバルクセールでもなかった、あり得ない安値」とある関係者に言わしめた投げ売り価格がどうして実現するのかというと、大手投資銀行が撤退したいま、買い手はフォートレスなど一握りしかいないので圧倒的な「買い手市場」になっているからだ。かつての90年代末、日本で不良債権の最大の買い手だったゴールドマン・サックスに在籍したブリーガー共同会長は、「日本の投資環境は10年前と非常に似てきた」とし、「企業や債務者のキャッシュフローは今後、一段と細っていく可能性がある。それでもなお売却時にリターンを確保できるような保守的な投資姿勢が重要。」との認識を日経ヴェリタリス誌のインタービューで示している。

今回の不動産バブルの崩壊には出口が描けないという声が聞こえて来る。90年代末には投資銀行やハゲタカファンドが登場し、不良債権処理の妙手としてSPC法、サービサー法など流動化の仕組みを構築、受け皿としてのREIT創設へと進むダイナミックな流れがあった。現状で投資銀行ビジネスが破綻し、ハイレバ投資も禁じ手となった。L字やW字型回復の後は、低成長経済がしばらく続く、新たなハゲタカは今回はどのようなビジネスモデルを描くのだろうか。

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