不動産価格回復はまだら模様
リーマンショック後、09年3月頃まではビット&オファーの価格乖離が大きすぎて、流動性が完全に消滅していた不動産市況だが、今春以降はまだら模様の回復へ向かつている。現時における不動産市況で底打ちが近いのは好立地で低家賃の賃貸住宅だ。リーマンショック後、キャップレートが急上昇したが、09年春頃から上昇が落ち着いてきた。一部の物件には品薄感も強まり、市況改善からキャップレートの低下も見られる。反面、外資系投資銀行社員や起業家をターゲットにした高級賃貸物件は、リーマンショック後の世界同時不況がこれらの層を襲い需要が離散して低迷している。
賃貸住宅の今後のリスクは、大量供給で市場にストックされたファンド物件の動向だ。ファンド物件は、敷金ゼロ、礼金ゼロ、3ヶ月等のフリーレントが急増している。この背景は利回り維持のために賃料を下げず、入居者の住み替え時のコスト抑制でしのぐ戦略へ動いているからだ。しかし、稼働率とのトレードオフで市場水準から高めで設定した賃料調整が始まると、周辺の賃貸物件との競合からこのセクター全体で賃料下落が今後、一層加速するリスクが高まる。
オフィスは企業業績の低迷や設備投資の回復が遅れているため、賃料下落・空室率上昇が続いており、いくつかのシンクタンクの予想では、東京都心部で国内経済回復やオフィスビル供給動向から2011~2012年の底打ちと見ている。分譲マンションは、値ごろ感から完成在庫が少なくなってきて、契約率も上昇し、やや薄明かりが射してきた。また地価下落と逆相関にあるといわれるパワービルダーの低価格帯建売や流通市場の中古住宅の低価格帯物件は、地価下落で値ごろ感が強まり、団塊ジュニアなど1次取得者中心に販売が好転している。
上記の状況から、不動産市況はまさにまだら模様を描いている。現時の市況を分析すれば、高額衣料を扱う業績不振のデパートと低価格帯中心で好業績ユニクロの明暗とでもいおうか…リーズナブルで入居者の懐に優しい賃料や不況下でも1次取得者が購入可能な総額まで抑制した販売価格を打ち出せる不動産物件を供給できる部門の回復感が強まっている。
不動産市況を東京を中心とする首都圏と地方圏という視点でとらえると、マーケットボリューム薄い地方では、不動産のすべてのセクターで需要に比べ供給過剰感が強まっており、市況が底を打つのにはまだしばらくはかかりそうだ。もっとも底を打つのは人口・世帯増加が当面は続く一部政令都市などで、人口減少が深刻で個人消費の創出や雇用の受け皿となる産業の高度化・多様化が進まない構造的欠陥を抱える大半の地方では底なしの不動産価格下落が依然として続くだろう。
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