地価下落でパワービルダーの業績が回復基調
地価下落と逆相関となるといわれているのがパワービルダーの業績だ。バブルが弾け地価が下がってくると業績が伸びてくる。パワービルダーとは、団塊ジュニアなど一次取得者向けに低価格の建売住宅を地域密着で販売する住宅会社のことで、東栄住宅、アーネストワン、飯田産業などがある。
戸建住宅の販売価格帯は首都圏で2,000万円台後半から3,000万円台半ば、総額を抑えるため、例えば、敷地面積100㎡、延床面積75㎡など小規模なものが多い。低価格帯で販売できるように、住宅を規格化し、独自工法開発や構造躯体のプレカット、住宅資材や設備機器を大量発注してスケールメリットを追求するなど徹底的にコストダウンするビジネスモデルで04年頃までは大手ハウスメーカを凌駕して急成長した。しかし、05年頃から地価上昇が始まると、土地仕入れ値の高騰のため住宅部分のコストダウンをもってしても建売販売価格を需要に合わせてコントロールできなくなり、その成長に陰りがでて業績が下降した。
08年になり地価下落傾向が鮮明になって不動産・住宅業界にアゲインストの風が吹き出すと、パワービルダーには追い風となってくる。09年4~6月期の東証1部上場企業の業績発表が相次いだが、日経ヴェリタス誌によるとアーネストワンは経常利益37億円で通期予想11億円の3倍以上を稼いだ。販売棟数でも1,100棟で4~9月計画1,500棟、通期計画3,100棟に対して出足は好調だ。
大和総研は、8月4日にアーネストワン株のレーティングを新規に「1」にした。野村証券も「野村週報8月17日」で業界全体を俯瞰し「パワービルダーに再び成長期待」というレポートを書いている。その「野村週報」のなかで「パワービルダー大手4社の棚卸資産残高は昨年年初に約3,150億円だったが各社が在庫調整を進めた結果、現在は約1,400億円程度まで減少している。その結果、各社の有利子負債残高も大幅に減少し、4社加重平均した自己資本比率は約40%と総じて高い水準になっている」と業況が最悪期を脱していると書いている。
例えば団塊世代の親が心身をすり減らして働いて建てた戸建が多いエリアからそれほど離れてない好立地で1,000㎡程度の更地があると、パワービルダーは子である団塊ジュニアをターゲットに土地仕入れをするのだが、これまでは郊外マンション用地と競合しなければならなかった。マンションに比べ戸建は団地内道路配等置で販売対象でない潰れ地が発生するため、価格が競合すると採算ラインからより高い価格が出し難かった。しかし、現時点では、用地仕入れから売り上げ計上まで小規模でも約15ヶ月要するマンションに比べ、6ヶ月程度と仕入れと販売のサイクルが短く回転率が高い。さらにマンションは、戸建に比べ建設費込みで多額の事業資金を要する。つまり資金借り入れが困難なマンション業者に比べるとパワービルダーの建て売りは融資額も小さく回転率も高いので金融機関の融資が受けやすい。
厳しい景況のなか販売価格の上方シフトは難しい現状で、地価下落の恩恵を受けて供給原価が下がって利益を出せ、なおかつ高回転率のビジネスモデルなので住宅業界全体はまだ低調なもののパワービルダーがいち早く業績回復できる環境が醸成されている。
とはいえ、今後を楽感視ばかりはできない。4~6月期のGDPが年率で3.7%に達し景気の底入れ感が広がったといえ、景気対策というカンフル剤と中国外需で一時的に浮揚したものの、カンフル剤が切れ、海外景気次第では2番底もあり得る。雇用情勢は厳しく、低価格住宅といえど需要動向は不透明だからだ。
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