米国不動産市場の明暗 / 住宅と商業用不動産
米国の住宅価格と商業用不動産価格の動きはここにきて明暗が分かれている。7月22日、ベン・バーナンキFRB議長は、上院銀行委員会での証言で、「住宅需要に安定が見られるが、雇用市場の低迷から住宅価格の下落が終了したとはいえない。多くの銀行は、今後商業用不動産の問題の拡大に直面するだろう。」と住宅市場について概ね安定化の認識を示したが商業用不動産に対して危機感を露わにした。
まず米国の住宅市場だが、直近の動きを見ると最悪期を脱したことを感じさせる指標が相次いでいる。一方、商業用不動産市場は低迷から脱する気配もない。7月28日発表のS&Pケース・シラー住宅価格指数で米国の5月の住宅価格指数は、主要20都市で前月比0.5%上昇、06年7月以来ほぼ3年ぶりにプラス転換した。前年比では17.1%低下したが、下落率は前月の18.1%下落から縮小し、低下幅は4ヶ月連続で縮小した。また主要10都市では価格指数が4月の前月比0.7%低下から5月は0.4%上昇に転じた。米国の住宅価格下落が最悪期を脱してようやく落ち着きつつある兆候が見え始めたといえる。
また米商務省が7月27日発表の6月の新築1戸建住宅の販売件数は季節調整済みの年率換算で38万4,000戸で、改定後の5月(34万6,000戸)に比べ11.0%増えた。改定値では3ヶ月連続の増加で、2000年12月以来、約8年ぶりの大幅増となった。販売価格(中央値)は5.8%減の20万6,200ドルで3ヶ月ぶりの下落に転じたものの、販売件数は市場予測の35万2,000戸を大きく上回った。(日経09.7.28)
住宅市場の特性として市場が好転するときは着工→販売→価格というプロセスで改善していく。S&Pケース・シラー住宅価格指数並びに新築1戸建て住宅の販売件数の直近の動きはこのプロセスの中で販売の底入れを示すものの、住宅価格については「底入れ近し」のサインとして注目される。米国の場合、新築住宅市場より中古住宅市場の方が市場のボリュームが大きいので新築より中古の動向が注目される。その中古住宅販売件数で、NAR(全米不動産業協会)が23日発表した6月の中古住宅販売件数は、前月比3.6%増の年率換算489万戸、3ヶ月連続でプラスとなった。3ヶ月連続のプラスは約5年ぶりである。
上記のように直近の住宅市場の動きに明るさが見え始めたのに反し、商業用不動産価格は依然として下落トレンドから抜け出す気配がない。ムーディーズインベスターズサービスの商業用不動産価格指数は5月だけで前月比7.6%下落、ピークの07年10月から35%下落だった(日経ヴェリタス 2009年7月26日号)。ロイター記事でもドイツ銀証券のアナリストは、米国の商業用不動産価格は2007年のピーク時から50%以上下落すると予想、米都市部の商業用不動産市場は2017年まで回復が見込めずとの見方を示した。商業用不動産価格が軟調なのは不況でオフィスやショッピングセンターなどの需要が低調なこと、借り手の需要低迷と連動して空室率が高まり、需給バランスの崩れから賃料が低下するという負のスパイラルから抜け出せないからだ。
商業用不動産市場の低迷は、融資債権を保有する米銀大手のウェルズ・ファーゴなどの商業用不動産向けの不良債権を大幅に増加させている。米国内では商業用不動産向けローンの約4分の1がCMBSに束ねられ、年金や金融機関が運用資産として保有しているため、デフォルトが相次いで発生すると再び金融が混迷する悪夢が再現しかねない。
先のコラムでも書いたがFRBは、CMBSデフォルトを回避するため、証券化商品へ資金供給するための緊急融資制度(TALF)へトリプルA格付けのCMBSを受け入れるようにした。しかし米格付け会社スタンダード&プアーズ(S&P)が大量の商業用不動産ローン担保証券(CMBS)を格下げしたことで担保適格性を満たさないCMBSが増え、TALFを利用できないCMBSが多量発生した。このようにFRBがCMBS対策を打ち出しても市場と噛み合わず、混迷を深めている。商業用不動産のデフォルトリスクがますます高まっている。
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